村での細工と一つの悩み
「はぁ!」
「やっ!」
今日も街道を進んでいると、途中で魔物に出くわした。ただ、相手はオークが二体なので、特に苦戦することもなく戦いは終わった。
「確か今日寄るところは村だったよね。差し入れでもするかい?」
「ふむ、領民への差し入れか。カーティス、どうだ? 悪く無い案だと思うが」
「そうだな。俺たちは何時でも手に入る物だし、村人も喜ぶだろう」
ジャネットさんの意見が通り、仕留めたオークは村へ渡すことになった。村だと狩人の能力でお肉の取れ高は左右されちゃうから、喜んでもらえるだろう。
「それにしても、今日は平和ですね~」
「まあ、ロディウム子爵領は山や森以外ではそこまで強い魔物がいないからな。後はベンティゴ領との領境やフォネール湖には厄介な魔物がいるぞ」
「湖にも強い魔物がいるんですか?」
「ああ、フォネール湖は広いからな。人間はもとより、魔物たちの水飲み場にもなっていて、水を求める魔物にそれを狙う魔物もいて、中々に大変な場所だ」
「それじゃあ、気軽に水を汲むのもできないですね」
「だから、周辺の人々は細い水路を作って、湖にはあまり近づかないようにしている」
「ただ、水路の管理は必要ですから、騎士団を定期的に派遣しますが」
リックさんの話にカーティスさんが追加で説明をしてくれた。アルバ湖は魚がいるぐらいだったから、そういう意味ではこっちの方が危険だなぁ。そんな会話をしながら、お昼を取り馬車を進めると、今日の目的地であるコーベラル村へ辿り着いた。
「衛兵か」
「あ、ロディウム子爵家の馬車ですね。どうかされたのでしょうか? 二週間ほど前に通られたと思いましたが……」
「ああ、要人を送り届ける用事が出来たのだ。宿の手配をしてくれないか?」
「承知しました!」
村の衛兵さんはビシッと敬礼をすると、残り二人の同僚に門番を任せて村へと入って行く。
「村なのに警備の人が三人もいますし、こっちの事情も知ってましたね」
「ああ、今回は国境の町からですが、王都へ行く時も一日目はこの村を通り過ぎるのですよ。ですから、自ずと警備にも気を遣っているのです。あの者は領都から派遣している騎士ですね。中堅以上の騎士が持ち回りで滞在することになっているのです」
領都のお膝元となれば、村でも騎士さんが派遣されるんだな。しかも、単身赴任とか大変そうだ。少し待つと、慌てた様子で村長さんらしき人が出て来た。
「カーティス様、お久し振りでございます。宿の手配はもう少しお待ちください。その間、どうか我が家をお使いできればと思います」
「そうか、助かる。馬車を村長宅前へ」
「はっ!」
馬車の窓越しに村長さんと話したカーティスさんが、騎士さんへと指示を出す。その後、ゆっくりと進みだした馬車は村の中央を少し進んだところで停まった。
「アスカ様、宿の準備ができるまでこちらでお過ごしください」
「分かりました。村長さんもありがとうございます」
「いいえ、お嬢様がお気に召すものはございませんが、どうかゆっくりとお過ごしください」
村長さんに案内され、中に通してもらう。村長宅だけあって、中にはいくつかの調度品もあり、村では珍しい地下に続いていそうな下階段も確認できた。
「こちらへどうぞ」
案内されたテーブルは六人掛け程度の広さがあり、普段は話し合いで使われているのだろう。そこへ、カーティスさんと私とリックさんが座る。この旅が始まってから思うけど、席も余ってるのに座れないなんて、騎士の人は大変だな。
それからお茶を出してもらい寛いでいると、準備が終わったと連絡が来た。
「それでは宿の方へ案内いたします」
村長さんの家を出ると、再び馬車に乗って宿へと向かう。本当にすぐそこなのに馬車で移動するなんて慣れないなぁ。
「こちらです」
「ありがとうございます」
アンバーさんの手を掴み、宿へと入って行く。突然の訪問にも関わらず、宿は凄く綺麗だった。正直、今まで訪れた村の中で一番かも。
「こちらが本日止まって頂く部屋になります。まだ、夕食まで時間がございますので、お茶になさいますか?」
「そうですね。軽くお茶を飲みながら、細工をします」
案内された部屋も村とは思えないほどしっかりしていた。普段からカーティスさんたちが寄るからなのかもしれない。私はお茶を待つ間、細工の準備を進める。とりあえず、下書きを済ませておいたカルハーネン様の絵を完成させる。
「描いといてなんだけど、本当にラフだなぁ。普通の白いシャツにブラウンのズボン。神様なのに怒られないかなぁ」
アラシェル様以外の神様の像を作る時、シェルレーネ様の時はムルムルからも意見を貰えたし、シェルレーネ様は気さくな神様って話も前もってあったからよかったけど、カルハーネン様の場合はそういう話しを聞いてないからね。
「何より、シェルレーネ様やグリディア様とは直接会ったことがあるけど、カルハーネン様とは会ったことがないから、性格とかも分からないし」
こんなんじゃないと言われないかは心配だ。だけど、カーティスさんが信仰している神様だし、大丈夫だと信じよう。
「あ、ああ、あの、アスカ様は神様と会ったことがあるのですか?」
「へっ? あっ、アンバーさんいたんですね」
「おりました。それで、神様とお会いしたというのは?」
「ああ、もちろん地上でってことじゃないですよ。神様が降りて来るなんてないですからね。夢の中ですよ」
「ゆ、夢の中だったらお会いできるんですか?」
「私からお願いして会える訳じゃないですよ」
「それでも、神様の方から会いに来てくださるなんて素晴らしいことです! やはりアスカ様はリチャード卿が護衛されておりますし、只者ではなかったのですね!」
はしゃぐように言葉を浴びせてくるアンバーさん。普段は落ち着いた感じだったけど、オフだとこんな感じなのかな?
「あっ、申し訳ございません。つい興奮してしまいまして」
「黙っててもらえたら構いませんよ。変な人に絡まれたら大変ですから」
私がそう言った後もアンバーさんの瞳が輝いて見えた。うう~ん、大丈夫かな? 確かによくよく考えてみれば神様と会うのって普通じゃなかったかも。ムルムルたちと会話してるとそこまで変なことじゃないから、改めて考えると凄いことだよね。
その後は絵を完成させて原型となる銅像を作っていたけど、視線が痛かった。
「アスカ様、そろそろ夕食のお時間です」
「もうそんな時間ですか。じゃあ、持って来てもらえますか?」
「承知いたしました」
《ピィ!》
「アルナもお腹空いたの? もうちょっと待っててね」
《ビカッ》
「マイも魔力が欲しいって。アンバーさんが帰って来ないうちにあげるね」
見られて困ることでもないけど、さっきの後だとマイも何か特殊な剣だと思われかねないし、もうマイの説明はしちゃったけど、追加情報はない方が良いよね。
それから運ばれて来た食事を食べた。残念ながら村には大きい湯舟がないみたいで、お風呂はお湯で身体を拭いて済ます。
「ん~、お風呂に入れなかったのは残念だけど、時間を取らなかったのは良かったかな?」
「まさか、まだ細工をされるおつもりですか?」
「はい。時間は貴重ですからね」
細工の方はまだ二体目が出来てないからこのまま続けて、何とか完成させたい。都合のいいことに、明日はロディウム子爵領の領都までだから出発時間も遅めだ。この貴重な時間を有効に活用しないと。
「よ~し、やるぞ!」
リフレッシュした私は銅の塊を取り出して細工を始めた。
「ふぅ、何とか完成した。木像を作るのは明日以降だな。明日はお昼には着けるって話だし、ゆっくり細工に打ち込めそう」
「あの、そんなに細工をされるのですか?」
「はい。単純に好きっていうのもありますけど、生業にしてますから手は抜けませんね。でも、流石に一日中っていうのもよくないですし、気晴らしはしますけどね」
「ほっ、安心いたしました。では、今日はここまでですね」
「そうですね。あれっ?」
「どうされました?」
「いえ、あそこに……ちょっと外に出てきますね」
「こんな夜更けに外へ出られるのですか?」
「大丈夫です。すぐそこですから」
部屋の前にもいたフィオナさんにも事情を伝え、宿の前の木の側へ行く。
「ジャネットさん、こんなところで一人なんてどうしたんですか?」
「アスカ……。アスカこそ一人で良いのかい?」
「ジャネットさんに会いに行くって言ったら大丈夫でした。信頼されているんですよ」
「そうかい」
どことなく元気がなさそうに答えるジャネットさん。うう~ん、やっぱりこの前から様子がおかしい。
「なんだか最近元気がありませんけど、どうしたんですか?」
「……アスカになら言ってもいいか。ちょっとリックのことで悩んでてね」
「リックさんの? 喧嘩したとかじゃないですよね。会話も普通にしてましたし」
「ああ、そういうんじゃないよ。ただ、リックの身分について考えているのさ」
「身分?」
意外だ。普段から貴族とか立場にあまりこだわらないジャネットさんが、身分について悩んでいるなんて。
「あたしが身分だなんて変だって思ってるだろ? まあ、流石にあたしも将来のことについて考える時はそれなりに気にするよ」
「将来って……」
改まって言うなんてジャネットさん、本当にリックさんが好きなんだ。分かっていたことだけど、直接聞くとちょっと寂しいなぁ。
「あたしもリックが貴族ってことは最初から思ってた。しばらく付き合えばそれなりの地位だってこともね。アスカについて行ってたから、領地持ちの男爵ぐらいはあるって思っていたんだよ」
それがまさか、領地持ちの伯爵家なんてね、と続けるジャネットさん。私について行ったからっていうのは気になるけど、リックさんの身分が予想以上だから悩んでるんだ。
「でも、お互い好きだから良いんじゃないですか?」
「そうは言っても立場があるだろ。リックは良くても伯爵家の方がね」
「だけど、リックさんもジャネットさんを紹介するために領地へ向かってくれてるんですよね?」
結婚が無理なのにわざわざ実家に連れていこうとするかなぁ。
「そんなことも言ってたかもねぇ。それも本人の意思だけじゃ決まらないだろうし、気休めさ」
「リックさんを信じてあげないんですか?」
「信じるか信じないかの話じゃないさ。ま、なるようになるだろ。さ、夜も遅いし寝なよ」
「はい」
納得は行かないけど、これ以上私も何か言えることがないので、そのまま部屋へと戻った。




