メイドさんと優雅なひと時
「同行の頻度が高くなったら、騎士さんと仲良くなることってないんですか?」
ちょっと下世話かなと思いながら、気になったことを尋ねてみる。
「他のメイドたちより話す機会は増えますが、特にはありませんね」
騎士さんと同行することが多いということで、何かロマンスがないか聞いてみたけど、どうやらないらしい。アンバーさんからはなくても、騎士さんから話しかけることもないのかな?
「私のような年上の女性に言い寄る騎士はおりませんよ。地方領主の騎士とは言え、見込みのある騎士は人気ですので、婚約も早くに決まりますしね」
「あはは……」
ジャネットさんのように表情から言いたいことを読まれてしまったようだ。まだ数日の付き合いなのに鋭いなぁ。これだけできる女性ならますます男性も放っておかないと思うんだけど。なんて思っていたけど、地方の騎士でも二代、三代と続く家は人気らしい。
もちろん騎士は危険な仕事だけど、他にお金を持っている代表は商人だ。彼らも商品の仕入れと販売で各地を行き来することが多い。だから、一家の大黒柱を失った時の損失を考えれば、補償のない商人よりも領主から一時金などが見舞われる騎士の方が人気なのだとか。
「それでも告白の一つや二つ、あると思うんですけどね」
「どうでしょう。私は仕事が好きですし、こうして外にも出ますから家を守る訳にも行きません。そういったことも騎士にとっては結婚の障害なのかもしれませんね」
なんてさらりと流すアンバーさん。うう~ん、私に騎士の知り合いがいれば紹介するのになぁ。
「私が紹介できる騎士さんだと、神殿騎士さんかレヴィン伯爵家の騎士さんぐらいですね。だけど、どっちも大陸が違うから難しいですね。レヴィン伯爵家の方は気を遣って商会はしてくれるでしょうけど」
あっちは伯爵家に迷惑をかけられたから対応はしてもらえるだろうけど、それもなぁ。
「御心配には及びません。私には弟もおりますし、時間はありますから」
その時、部屋をノックする音が響き、宿の人が夕食を運んでいいか聞いてきた。
「部屋へお願いします」
「かしこまりました」
それから、五分ほどで食事が運ばれて来た。さっき部屋に入って来た人もだけど、何か緊張している感じがする。ちょっと気になったので、食事が置かれ部屋を出ていった後でアンバーさんに聞いてみた。
「さっきの人、何か変でしたよね?」
「変というか、アスカ様はカーティス様のお客様ですから、宿の者からしたら緊張しますよ」
「別に普通の冒険者なのに……」
そう言いながら、用意してもらった食事に手を付ける。
「わっ、やっぱり領内に入ったからか、野菜が美味しいですね。味が濃くて美味しいです」
「ありがとうございます。よろしければお代わりもありますので」
「流石にそこまでは食べられませんよ」
《ピィ!》
「アルナも食べ過ぎは駄目だよ。欲しかったら私の分をちょっとあげるから」
《ピィ》
だったらちょっと頂戴と肩に乗ってくるアルナ。
「どれにするの? くちばしで指してみて」
《ピッ》
了解とアルナが食べたい野菜を三つほど指す。私は用意されていたナイフを使って、アルナの口に合うサイズに切り分けてご飯台に乗せる。
「追加はなしだからね」
私はアルナに言い含めると自分の食事へと戻る。
「はぁ~、お肉もありますけど、やっぱり野菜が美味しいですね~」
アルナと一緒に食事を楽しむと、お風呂に入る。今日もアンバーさんに洗ってもらい、優雅な入浴タイムだ。
「はふ~、ここのお風呂も気持ちいいですね~。ここにお花の香りがあったらもっと良いかも」
運んでいたバラを思い出しながら私は呟く。
「お花を入れたお風呂ですか?」
「この辺ではしないんですか? 私の住んでいた地域だと割とあったんですけど……」
まあ生花じゃなくて、〇〇の香りってやつだけどね。
「ここは貴族向けの高級宿ですし、採用してもいいかもしれませんね。どのような花を使っておられるのですか?」
「多いのはバラとかラベンダーですね。後は柑橘系の皮を使ったものも多いです」
「バラにラベンダーに柑橘系ですね。客を限定することになりそうですが、宿の者へ伝えておきましょう」
うんうん、お風呂の文化と一緒に香りのいい入浴剤も開発されるようになるといいな。
「ん~、いいお湯でした。さあ、ここからはまた作業ですね」
貴重な細工の時間を無駄にはできないので作業に戻る。
「今日は銅の原型と見本になる木像を一つ作らないとね」
こうして私は集中して作業に臨んだのだった。
「ん~、ここは原型よりもう少し流れを意識した方がいいかな? 見本だし試してみよう」
服の流れ具合が少し気になったので、ちょっとだけ勢いをつけてみる。山の神様だし、力強い方がいいかなと思ったのだ。
「あの、刃が当たっていないところまで削れている気がするのですが……」
「これは魔道具ですからね。刃が付いているのもイメージをしやすくするためなんですよ」
私の言葉に驚きを隠せないアンバーさん。まあ、こういう魔道具って珍しいからしょうがないよね。そんな感じでちょっと会話を挟みながらも作業は順調に進み、一体の神像が完成した。
「出来た!」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。これで明日、カーティスさんに見せられますね」
「そうですね。それでは本日はもうお休みください」
「えっ、もうそんな時間ですか?」
「はい」
アンバーさんに言われ、窓の外を見ると本当に真っ暗だった。
「じゃあ、寝る準備をしないと。アルナは……もう寝てる。キシャルは当然寝てる」
「アスカ様もおやすみなさいませ」
「そうですね。今日もありがとうございました、アンバーさん」
「いいえ、それでは失礼いたします」
アンバーさんが出ていくと、私は巫女服に着替えて簡単ながら舞う。
「最近はできてなかったし、きちんとアラシェル様に報告しないとね」
舞を捧げるのはお礼もあるけど、報告の側面もあるってサラさんに教えてもらったし、定期的にしないとね。
「後は祭壇を用意して祈りを捧げておしまい! アラシェル様、明日もよろしくお願いします」
「アスカ様、おはようございます」
「はぅ~、おはようございます」
今日も朝は早くて夜明け頃の目覚めだ。用意された朝食を取ったら昨日のように髪を整えてもらう。
「今日はどうなさいますか?」
「う~ん、ここからは安全ですか?」
「今日の宿泊先は村になりますが、そこまでであれば強い魔物はいませんね」
「じゃあ、この服でお願いします」
「かしこまりました」
アンバーさんに服を渡し着替えを済ませると、最後にマントを羽織る。このマントは飾りではなく守るためだ。生地も丈夫なのでいざという時は頼りになるだろう。
「さぁ、行きましょう」
今日も今日とて馬車へと乗り込むと、ベンティゴ領を目指すため馬車は出発する。
「そう言えば途中でロディウム子爵家へ寄るって言ってましたけど、いつ着くんですか?」
「明日の昼には着きます。ただ、明後日にはベンティゴ領へ入る予定が、一日ずれるとは思いますが」
「分かりました。それと、昨日はカルハーネン様の像を作ったので、見てもらえませんか?」
「構いませんよ」
予定を確認後、カーティスさんにカルハーネン様の像の出来を確認してもらう。自分としては満足の出来だけど、こういうのは信者の人がどう思うかだしね。
「アスカ様」
「どうしましたカーティスさん?」
「この神像をアスカ様が?」
「そうですけど、何か変なところがありましたか? 一応貸してもらったカルハーネン様の像を元に作ってもらったんですけど……」
ただ、貸してもらった神像が木像だったので、劣化していると思われる部分は補完したけどね。
「これは見事という他ありません。私も貴族ですから神像もある程度名の知れた細工師へと依頼するのですが、そういった者の作と比べても遜色ありません」
「良かったです。自分では上手くできたと思っていたんですけど、信仰されている方の意見を聞きたかったので」
「これなら誰も文句は言いませんよ。リチャードから細工の腕もよいと聞いておりましたが、感服致しました。」
「そうだろう。俺もアスカの細工を始めてみた時は本当に驚いたからな」
「おっ、大袈裟ですよ。私は魔道具を使うことも多いですし」
「そう言えば、こういった衣装以外にカルハーネン様はどんなデザインが多いですか?」
あまりに褒められるとこそばゆいので、私は気になっていることを質問する。
「デザインですか? こういった像以外を見かけたことはありません。たまに祭られている神殿へも行きますが、そちらで見る神像も力強さを強調したものですね」
う~ん、やっぱり神像は神様がいることが当たり前の世界だし、画一的になっちゃうみたいだ。とはいえ、私もそんなにいい案は浮かばなかったし、ここはちょっと方向性を変えてみようかな?
「今、私が持ってる神像のデザインで一番らしくない物は何かなぁ」
新たなデザインを求めて、私はマジックバッグから今まで作った神像を取り出す。
「う~ん、湖面とか場所を設定したのじゃなくて、あくまで神像単体が良いよね。となると、結構デザインが限られるかもなぁ。この中で変わったものと言うと……」
いくつも神像を出していくものの、変わったデザインと言えば着物姿のアラシェル様とかアラシェルちゃん像か。
「着物は男性だと作務衣だっけ? うう~ん、着物は私の個人的な思いで作ったし、アラシェルちゃん像かなぁ。デフォルメ像にどれだけの需要があるか分からないけど、一度作ってみようかな?」
私が色々な像を眺めながらあーでもないこーでもないと考えていると、隣に座っているアンバーさんがひとつの像を手に取った。
「あ、あの、こういったセクシャルな像も作られているのですか?」
「ふぇ⁉」
アンバーさんが持っているのはボディスーツスタイルのアラシェル様像だ。あれはノリだけで作って後悔したから奥にしまっておいたはずなのに、これというものがなくていつの間にか出してしまっていたみたいだ。
「そっ、それは、ノリで作っただけで販売とかはしてないんです!」
「確かにそいつはあたしも見たことがないかもねぇ」
「見せられるものではないですから」
どういったデザインにするか決めた私は急いで残りの神像をバッグにしまった。




