引き渡しとポーレルムの町
マイルズさんたちと話をしていると、丘陵地帯に差し掛かった。
「ここまでくれば町が見えてくる頃です。後、一時間ほどでしょうか」
「そうなんですね。ロディウム子爵領に入って初めての町ですし、楽しみです」
「領の玄関口ですから割と規模の大きい町ですよ」
私がワクワクして町が見えるのを楽しみにしていると、馬車から声がかかった。
「残念だけど買い物はできないってさ。代わりに領都で色々見せてもらいな」
「しょうがないですね」
改めて日程を聞かされ、ちょっと残念に思う。だけど、リックさんを送り届けることが第一だからしょうがない。私は思い直すと、再び会話に興じた。
「アスカ様、ポーレルムの町が見えてまいりました。もうすぐ到着です」
「はい」
馬車にいるジャネットさんたちと談笑していると、マイルズさんから町が近づいたと声がかかった。ちなみに会話の邪魔になるので盗賊団はその間、空中に浮かせていた。ここからなら大した魔物も出ないとのことだったので、MP消費を気にしないことにしたのだ。
「気疲れしても嫌だしね」
しかし、ここからは盗賊団を浮かして運ぶ訳にもいかないので、地面に降ろす。
「このまま浮かせて運んだ方が楽なんだけどなぁ」
《ビカッ》
私がそう言うと、MPがもったいないとマイが主張してきた。
「あっ、そう言えば目立つからってマイには静かにしてもらってたっけ。今日は町に着いたら外には出ないから良いよ」
マイに魔力を渡すと、喜んで光出す。
「ちょっと、折角あげたMPを無駄にしないの」
「アスカ様、そちらも従魔ですか?」
「いえ、こっちは普通のソードブレイカーですよ。ただ、マジックイーターの魂が宿ってるみたいで、定期的にMPを欲しがるんですよ。従魔でもないのにMPを欲しがるなんて贅沢ですよね~」
なんて風に話すと、何故か困った顔をするフィオナさんたち。変なこと言ったかな?
「アスカ、それを贅沢の一言で済ませるあんたも変なんだよ」
「わっ、私は普通ですよ!」
「はいはい。それより、貴族用の門に近づいたら教えてくれよ。こいつらが逃げ出せないようにカーティス様に頼むんだから」
「分かりました」
納得はしないものの、ジャネットさんから任務を受けたので、今はそっちに集中だ。馬車がポーレルムの門に近づくのを待ち、私はすかさず声をかける。
「もうすぐ門へ到着します!」
「あいよ。ご苦労さん。マイルズ、馬車を止めてくれ」
「分かりました」
ずっと、マイルズさんの横にいたからか、ジャネットさんは名前を呼んで声をかけると、馬車が止まる。
「ん、その馬車はまさか……」
「ご苦労。私はこの地を治めるロディウム子爵の息子のカーティスだ。見ての通り、盗賊団に出くわしてな。警備責任者を連れて来てくれ」
「は、はっ! かしこまりました!!」
貴族用の門を守っていた衛兵さんがすぐに責任者を呼びに行ってくれる。次期領主様からの声掛けだしびっくりしただろうなぁ。
「カーティス様、ただいま参りました」
「ご苦労。君は?」
「はい。ポーレルム守備隊隊長を務めております。ダラス・デイルと申します」
「ダラスか。こいつらは無謀にも我らの護衛していた要人を狙った盗賊団だ。町で覚えはあるか?」
「盗賊団ですか? 少々お待ちください」
ダラスさんは一度奥へと戻ると、分厚い紙の束を持って来た。
「えらく束になっているな。整理はしていないのか?」
「いえ、ここ最近は魔物の仕業か人の仕業か明らかになっていないものがありまして、分類をしていないのです。どちらかに振ってしまうと、見落としに繋がりますので」
「なるほどな。続けて探してくれ」
「はっ!」
ダラスさんが数分資料を探していると、その手が止まった。
「こちらですね。彼らはベルトニア盗賊団と言いまして、この町と南の町の間の森を拠点にする盗賊団です。森の入り口近くで活動するため、奥深くへ潜ることで中々捕らえられず、これまで捕縛に苦労していた盗賊団です」
「なるほど、手配犯ということか。しかし、森へ逃げるとは大胆だな」
「はい。そのことから魔物を手懐けているのではという噂もある盗賊団でした」
どうやら、私たちが捕まえた盗賊団は町でも厄介な相手として認識されていたようだ。不幸中の幸いで、今回捕まえられてよかった。
「引き渡しをするから逃げられんようにな。私が護衛を担当していた要人を襲おうとした事実を忘れるな。報告書は夜には届ける」
「了解であります!」
盗賊団の引き渡しも無事に終わり、私たちは町へと入る。
「それでこれからどうするんですか?」
「アスカ様たちは宿でゆっくりしてください。我々は盗賊団のことでこの町の責任者へ会ってきますので」
「分かりました」
これからの予定を確認して、馬車は宿へと向かう。自分の領地だからか、宿ではすんなりと手続きが進み、部屋へと通された。
「昨日に続いて豪華な部屋ですね」
「そう言っていただけますと、宿の責任者も喜ぶかと思います」
ただ、邸にいた時とは違い景色はそこまで良くない。まあ、宿で貴族の人が目立ってもしょうがないし、そんなもんだよね。
「それより、この時間を生かさないと」
私は早速細工道具を取り出すと、スケッチブックを取り出す。
「細工をなされるのですか?」
「はい。折角宿で休めるのでやらないと損ですからね!」
むんっと軽く力を込めると、銅の塊を取り出す。
「そちらは銅ですか? てっきり木で加工されるのかと……」
「もちろん販売時は気を遣うこともありますけど、型を取るのには銅の方が良いんです。加工も簡単で長持ちしますから」
こうして私はアンバーさんに見守られながら細工を始めた。でも、何か忘れてるような……。
「アスカ様、そろそろ休憩しませんか?」
「休憩? もうそんなに経ってますか?」
「こちらへ来てからそろそろ二時間が経ちますね。夕食の時間も近いですし、一度休まれた方がよろしいかと」
「分かりました」
私がふぅ~と身体を起こすと、アルナが飛びついてきた。
《ピィ!》
「わっ、アルナ。どうしたの? 馬車に置いてかれたって? ごめんごめん。外にいたから気づかなかったよ」
《ピィ》
そのせいで、しばらくこっちに戻れなかったとお怒りのアルナ様。う~む、これは今日のご飯を豪華にしてあげないと。
「そんなに怒らないの。今日のご飯は豪華にしてあげるから」
(では、ご主人様。私の分もよろしくお願いします)
「わっ、ティタ⁉」
「アスカ様、どうかされましたか?」
「い、いえ」
し、しまった。アルナどころか、ティタも馬車に置いたままだった。アルナと違ってティタには黙ってもらってたから、現在テーブルの上にいるティタはジャネットさんか誰かが運んできてくれたんだろう。
「従魔の夕食は本日不要とジャネット様からお聞きしておりますが、それでよろしいでしょうか?」
「はい。お水だけお願いします。後はこちらで用意しますから」
《ピィ!》
私の言葉を聞いて、アルナが肩へと乗ってくる。ううっ、もう我慢できないみたいだ。
「分かったから、ちょっと待って」
羽根でぺちぺちと頬を叩かれながら、しまっておいた薬草ご飯を取り出す。
《ピィ!》
「急いで食べないでね。水はまだだから」
私の言葉を聞いているのか、アルナはすぐにご飯台へと向かう。
「凄い勢いですね」
「あのご飯、高くて栄養価もありますからね」
「ちなみに材料は何でしょうか?」
「リラ草にムーン草と少量のルーン草が入ってます。後は乾燥させた野菜ですね。結構コストがかかってるので、普段は出せないんですよ」
「ルーン草まで入っているのですか? 大切にされているのですね」
「この子の母親から預かっている子ですからね。私がきちんと面倒を見ないといけませんから」
アルナの頭を優しく撫でながらアンバーさんに話す。アルナはなんで食事中に触るのとこっちに向き直るも、何もないと分かると再び食事に戻った。
「もう、食事に夢中なんだから」
「ですが、本当に可愛らしいですね」
「はい。ずっと元気でいて欲しいです」
《にゃ~》
「あっ、キシャルも起きたんだ。ご飯食べるでしょ? 今日は豪華なご飯だよ」
《にゃ?》
私の言葉を受けて目の前にちょこんと座るキシャル。この子たち、ご飯をあげたら誰にでもついて行かないかなぁ。なんて不安も覚えつつ、キシャルのご飯を取り出す。こちらはアルナと違って肉食なので干し肉だ。
「ピアースバッファローのお肉も少なくなってきたなぁ」
最初はどうやったらなくせるかって考えていた頃が懐かしい。
「そちらの干し肉はあげても大丈夫なのですか?」
「はい。キシャル用の物は味付けも薄くしてあるので。アンバーさんも食べてみます? 人間用のもちゃんとあるんですよ」
「よろしいのですか? では、少々いただけますか?」
「ちょっと待って下さいね」
私はマジックバッグに保管していた干し肉を取り出す。
「硬いから最初は口の中で戻すように食べてくださいね」
「承知いたしました。では……」
干し肉を受け取ると口に含むアンバーさん。もごもごしながら食べているのが可愛い。
「どうですか?」
「口の中で肉の味が染み出してきますね。噛むと更に濃い味が広がって美味しいです」
「本当ですか! 実はこれ、リュートが作ったものなんですよ」
「リュート様が作られたのですか?」
「はい。旅に出る前は宿で働いていて、普通の料理以外にもこうやって保存食を作ってくれるんです」
「それは心強いですね。私たちも今回のように領地を出る時は食事が大変ですからね。毎回宿に泊まれる訳ではありませんし」
「そうですよね。野宿って続くと食材の確保が大変ですよね」
二人で野宿の苦労について話す。特にアンバーさんは水の魔法が使えるそうで、それなりの人数が領地を離れる時は同行することが多いんだとか。苦労しているなぁと思いながら、あることに思い立った私は質問をすることにした。




