森を抜けてポーレルムの町へ
「ただいま」
「お帰りリュート。大丈夫だった?」
フォレストハウンドを倒したのか、リュートたちが戻って来た。見た感じ怪我もなさそうだ。
「うん。ガストンさんが盾になってくれたから、安全に戦えたよ」
「いや、君も見事な槍捌きだった」
「ええ、さっきは分かれて戦っていたから気づかなかったが、良い腕だ」
フィオナさんにも褒められ、リュートもまんざらじゃない顔だ。私も株が上がって嬉しい。
「そう言えば、倒したフォレストハウンドはどうしたの?」
「ちゃんとマジックバッグに入れたよ。それとこれ」
リュートが大小二つの魔石を出した。フォレストハウンドは水と土の二属性を込められる珍しい魔石だ。ただ、専用魔石な上に込められる魔法のランクが通常の専用魔石より下がるため、あまり人気がない。
「綺麗に中央から色が分かれてるね。小さい方は用途も少ないから細工に使っても良さそうだし、大きい方は夢があるね」
前にマディーナさんに頼んだことはあるけど、今度はこっちでも使ってみようかな? ただ、リックさんもそこまで土魔法のLVが高い訳ではないから、使える人を捜さないといけないけどね。
「領地に着いたら紹介してもらえるかも」
「どうかしたかアスカ?」
「いえ、この魔石の使い方を考えていたんです」
「そうか。色々考えるのもいいが、魔物がまた出てきても厄介だから、進むとしよう」
「そうですね」
魔物も倒したので、再び馬車は進んで行く。その後もオーガやディプスベアーが出たものの、どちらも少数だったのですぐにガストンさんとリュートが対処してくれた。
「あっ、森の切れ目ですよ」
「そうですね。もうしばらく進んだら休憩を取りましょう」
森を進み始めて三時間ほど。ようやく切れ目が見えたので、はやる気持ちを抑えつつ、私たちは森を抜けた。
「この辺で休憩を取りましょう。お前たちは動くなよ?」
「わ、分かってるよ」
森を抜けて十分ほど。平野に出たので休憩を取る。休憩に当たってこれまで縦列だった盗賊団を円形にまとめて周囲を騎士たちが取り囲む。この間に私たちがお昼を取る形だ。
「さあ、お昼にいたしましょう。宿の方で作って頂いた物がありますので」
「そうなんですね。ありがとうございます」
《ピィ》
「あっ、アルナ。森は危険だからって我慢してたのは偉いけど、遠くに行かないでね」
《ピィ!》
昨日と違って休憩も短かったので、馬車に閉じ込められていたアルナは元気よく飛び立つ。あまり目立ちたくないけど、しょうがないか。
《にゃ》
「キシャルも起きたんだ。あっち? あっちの人は悪い人だよ。何かあったら遠慮しなくていいからね」
キシャルは外だと人間も警戒するけど、他の人と一緒にいるとそれが和らぐから、きちんと言っておいてあげないとね。
「それではお茶にいたしましょう」
「じゃあ、すぐに用意しますね。ウィンド、エアカッター」
私は風の魔法で大地に軽く穴をあけると、そこへ風の刃で平野に少しある低木の枯れ枝を切って集めると火を起こす。
「お見事な手際ですね。では、火にかけるとしましょう」
アンバーさんがマジックバッグからスープを出すと、火にかける。
「スープが沸いたらお湯も用意しましょう」
私はコの字の鉄板を用意すると、スープが沸いたのを確認してポットと入れ替える。
「これでポットへ直に火も当たりませんよ」
「素晴らしいアイデアですね。さて、それでは私はお茶の準備に入りますね。アスカ様はこちらをどうぞ」
そう言いながらアンバーさんが出してきたのは、楕円形のパンを使ったローストビーフサンドだった。綺麗な赤身が食欲をそそる逸品だ。
「ありがとうございます。それじゃあ、いただきますね」
まずは軽くスープを飲む。温かくてちょっとあっさりした味だ。そして、メインのローストビーフサンドはお酢の利いたソースと野菜が相まって、とっても美味しい。
「何よりこのスープが良いですね。あっさりしていて口の中がリセットされるので、何度でもサンドの美味しさを味わえます」
「そう言っていただければ、宿の者も喜ぶでしょう。こちら、お茶になります」
「ありがとうございます」
なんてのんびりとした会話を繰り広げているけど、隣では盗賊団が騎士たちに睨まれてるんだよね。
「はぁ~、隣の光景さえなければもっと楽しいんだけどな」
「全くですね」
まあ、言っても始まらないことなので諦めて席を立つ。
「アスカ様、どうされました?」
「食事も済ませたので交代しようと思いまして。騎士さんたちも食事が必要でしょうし」
「アスカ様、我々は……」
「大丈夫です。私もジャネットさんたちも冒険者ですから、騎士さん以上に遠慮はしませんので」
「そうだねぇ。あたしらも飯は食い終わってるし、代わるとするか」
一気に交代すると人数の問題もあるので、最初は三人抜けてもらい、後で二人が交代することになった。
「ん、私たちもこれを食べてよいのか、アンバー?」
「はい。宿には大目に手配しておりましたので」
「では、遠慮なく」
アンバーさんと軽くやり取りをすると、すぐに食べ始めるフィオナさん。判断も早くて、やっぱりラフィネお姉ちゃん似だ。
「アスカ様、どうされましたか?」
「あっ、いえ。フェゼル王国にいる姉を思い出しまして」
「アスカ様は姉君がいらっしゃるのですか?」
「はい。姉と言っても一族の人なんですけどね。決断力もあって頼れるお姉さんなんです」
ちょっと変わったところはあるけど、という言葉を飲み込んで私はフィオナさんに説明する。
「一族の方ですか。アスカ様の姉君ということは身分の高い方なのですか?」
「今は中央神殿で神殿騎士をやっています。同僚の方の評判ではとても真面目だそうで」
「フェゼル王国の中央神殿ということはシェルレーネ様の巫女に仕える騎士ですね。敬虔な方なのですね」
「そうなんです。目元もキリッとしていて背も高いんですよ。それでフィオナさんを見ていると、思い出してしまって」
「それは光栄です。ご期待に沿えるよう、これからも精進いたします」
こういうところもお姉ちゃんに似てるなぁと思いながら、三人の食事を見守った。
食事が終わると、いよいよ出発だ。再び盗賊団を縦列に配置して町を目指し馬車が走り出す。
「う~ん、それにしても結構な人数ですね」
「減らすかい?」
「ジャネットさん、あまりそういうこと言わないでくださいよ。私は手間が減りますけど」
私たちの言葉に盗賊団が反応する。こうやってする気もない会話を何でしているのかと言うと、そういう選択肢を彼らにちらつかせるためだ。私は見た目がこうだし、騎士さんたちも加減して死者が出ていないからこそ、変に甘くして騒ぎを起こされても困るのだ。
「ここから町まで何時間ですか?」
「三時間程度ですね。ロディウム子爵領に入ってすぐのポーレルムという町になります」
「三時間……ちょっと長いですね」
その間、この盗賊団と一緒にいないといけないのかと思いため息をついた。
「あれからは余裕のある行程でしたね」
「ここからは平野部になりますからね。魔物たちも騎士たちが見回っている地域では大人しいものです。ポーレルム周辺は冒険者も活発ですから」
「そうなんですね」
馬車の中のアンバーさんに詳しく聞くと、さっき通って来た森があるためそこを往復する護衛依頼が人気なんだとか。
「まあ、出てくる魔物も結構種類があるし、大変そうですよね」
「ですが、アスカ様も良い腕ですよ。我々から見ても安定して戦えるレベルかと思います」
「ありがとうございます。騎士さんに言ってもらえると自信になります」
私は御者をしてくれる騎士さんにお礼を言う。
「な~に言ってんだい。アスカは魔物使いだよ。魔法使いでもないのにこれだけの実力なんだから、いまさらだろ」
「そう言えば、アスカ様は魔物使いでしたね。珍しい職業ですので失念しておりました」
うっ、騎士さんたちの中でも魔物使いが不人気であることは認識されているんだ。
御者をしている人はマイルズさんと言い、今回護衛としてついてきている人の中では最年少らしい。私と年齢も近いからか、結構話しやすくて騎士団での訓練など普段聞けないことを話した。
「じゃあ、訓練で何日も外に出ることがあるんですね」
「はい。地域の見回りも兼ねておりまして、厳しいながらやりがいのある任務です」
ちらりと周囲を気にしながら発言するマイルズさん。先輩後輩とかの関係を気にしているのかな?
「ほう、やりがいがあるか。では、この護衛任務が終わり次第、メンバーに追加しておこう」
「い、いや、フィオナ隊長。メンバーはもう選抜済みですから……」
「その件だがな、実は一人欠員がでそうなのだ。ただ、人数も十人を予定していたから一人ぐらいと思っていたが、そういうなら推薦しておこうか?」
焦るマイルズさんとは対照的に笑顔のフィオナさん。あれはからかっているんだろうな。私をからかう時のジャネットさんと同じ目をしている。
「それにしてもフィオナさんって隊長だったんですか?」
「ええ。現在は五人ほどの少数ではありますが」
「現在は? 人数が変化したんですか?」
「はい。カーティス様の国境検問任務に当たり、各隊より数名ずつ選抜されたのです。ですからマイルズも将来を期待されている騎士ではあります。残りの隊員は領地で警備や見回りの任に当たっています」
カーティスさんは次期領主だから、こっちにも精鋭を連れてきているんだ。
「ひょっとして、今護衛に当たってくれている騎士さんたちって……」
「アスカ様の予想通り、国境の町にいた中でも優秀で即対応できる者を選抜しております」
「ご迷惑おかけします」
「いえ。どうされたのかは分かりませんが、魔物の襲撃にも気づかれますし、得ることばかりで、選抜されたことを改めて光栄に思っております」
そう言いながら馬上で敬礼してくれるフィオナさん。本当に様になるなぁ。




