道中と騎士たち
「遅いですね……」
五分経っても二人は帰って来ない。だけど、街道近くの反応にも動きがない。じれったい時間が続く中待っていると、二人が帰って来た。
「どうでした?」
「どうもこうもありゃ盗賊団だね。アスカは何人ぐらいだと思うんだい?」
「うう~ん、ちょっと待って下さいね」
私は反応のあった場所へと集中的に探知魔法を使う。反応は六人だった。ただ、ちょっと少ないので、盗賊団の奥と街道の反対側にも探知を広げる。
「あっ、追加でいます。反対側に七人とジャネットさんたちの見てきた方に六人で十三人の集団ですね」
「はぁ、面倒だねぇ」
「あ、あの、アスカ様はどうやって盗賊団の人数を?」
「ああ、調べる方法があるんですよ。ちょっとコツがいるんですけどね」
「アンバー、それより今は対処だ。騎士たちをどう振り分けるか……」
「一番早いのはあたしとリュートとリックで六人の方を騎士が反対側を対応するのが良いんだけどねぇ」
意見を出しながらも、ちょっと不本意そうに言うジャネットさん。
「何か問題でも?」
「逃げられたら面倒だろ? この近辺にずっと盗賊団が居座っちまう。出来たら相手に攻めてきて欲しいんだよ」
「なら、こっちにはバリア魔道具があるんだ。あえて騎士も半分以上を当たらせるか?」
「そうだね。後はアスカがひょっこり顔を出せば行けるか?」
「き、危険です。アスカ様はまだこんなに小さいのに!」
「大丈夫ですアンバーさん。私も冒険者の端くれですから」
私はアンバーさんを落ち着けるように話す。小さくないですという言葉を飲み込みながら。
「いい機会だな。アスカの実力も見ておいてもらった方がいいだろう。その方がこの旅も安全になる」
リックさんの言葉でその場は落ち着き、作戦を立てることになった。
「まず、馬車はこのままゆっくり進む。そして、六人組が出てきたらそちらへ向かってフロートの三人と騎士が二人対応に当たる。すぐに倒しては反対側で待ち構えている奴らが逃げるから、ほどほどに対応だ。そして、アスカは馬車から降りるか、窓に顔を出してくれ。そうすれば、相手は人質を取ろうとして出てくるだろう」
「安全に行くなら出て行った方が良さそうですね。食い止めるのも神経を使いますし」
「そうだね。アスカの護衛はブライアンとベン。それにフィオナが務めてくれ。アスカに隣に女性騎士がいるのは自然だろうからね」
「分かりました。では、作戦通りに動きましょう。ですが、アスカ様。くれぐれも無理はなさらぬよう」
「心配してくださって、ありがとうございます」
ブライアンさんにお礼を言って私たちは進みだした。
「アスカ、反応は?」
「こっちに気づいたみたいですね。もうすぐ出てきます」
「分かった。各員、警戒を怠るなよ」
「はっ!」
そして、二分後。予定通り街道沿いから盗賊団が現れた。
「へへっ、まさか貴族様の馬車とはな。ツイてるぜ」
「ほう、我々に敵うとでも?」
ブライアンさんが指示を出すと、先頭を行っているリュートが馬を降りる。それに合わせてジャネットさんも馬車の御者席の隣を飛び降り、馬車からはリックさんが飛び出る。
「二人も追随しろ。加減は不要だ!」
「了解!」
戦いが始まると乱戦を避けるため、皆が下がりながら相手をする。突撃してきた一人を簡単に制圧し、数的有利を消す。
「ちっ、流石にできるな」
「このままだと撤退されちゃいそうですね。ちょっと出てきますね」
戦況的に相手がそこまで強くないと分かった私は、急いで外へ出て行く。盗賊団に弱みを見せないと逃げられてしまいそうだからだ。
「リックさん、大丈夫ですか?」
「アスカ、出て来るんじゃない!」
「アスカ様、馬車へお戻りください!」
私が馬車から出ると、リックさんが演技で台詞を言ってくれる。う~ん、本当に演技力があるなぁ。対してフィオナさんはちょっと本音が混じってる。こっちはちょっと罪悪感。
「しめた! あいつを狙えば俺たちの勝ちだ。かかれ!」
「へいっ!」
その時、私の姿を認めた反対側の盗賊団が号令をかけた。会話の内容から本隊かな?
「アスカ様、お下がりを」
「気を付けてくださいね」
フィオナさんに声をかけ、馬車の横に下がる。他二人の騎士さんはブライアンさんとベンさんだ。三人とも構えを見るだけで強いと分かる。だけど、盗賊団は私を狙うため手数で応戦してくる。
「ここはこの魔道具で……」
私はマジックバッグに手を入れ、ごそごそと目的の物を探す。
「あった! 後はこれを腕にはめてと」
私はブレスレットを腕にはめると火の玉を作り出し、相手の後ろに放つ。
「はっ、貴族のお嬢ちゃんじゃこの程度か」
「まあ、これは狙いを付ける必要のない魔道具ですからね」
私が放ってすぐに火の玉は爆発した。
「それそれ、続けていきますよ」
私はどんどん火の玉を作りだすと、投げるように放っていく。私が取り出したブレスレットは三秒後に爆発する火の玉を作り出す魔道具だ。この魔道具なら適当に放つだけで相手を牽制できる。しかも、相手の後方へと放つことで退路を断っている。
「な、何だ、あの火の玉は⁉」
「親分、これじゃああのガキのところまでいけやせん!」
「ひ、引け!」
「させるか!」
「はぁ!」
私が攻撃に移ったのを確認して、徐々に相手を押し込んでいたフィオナさんたちが、盗賊団を制圧するため一気に攻撃を仕掛ける。私は軽く跳びあがって空から逃げる相手に照準を合わせる。
「喰らえ!」
マジックバッグから弓矢を取り出すと、逃げようとする相手に射かける。
「うおっ!」
足を掠めるように矢を放つと、盗賊が転ぶ。
「ここまでですね」
辺りを見回すと、他の盗賊たちも確保されていた。どうやらそこまで強くなかったからか、全員無力化されているようだ。
「ジャネットさん、そっちは大丈夫でした?」
「ああ。この程度の相手じゃ、ウォーミングアップにもならないね」
「それでは縛っていくか」
私たちはマジックバッグから盗賊用の捕縛ロープを取り出すと縛っていく。残念ながら私は力もないのでお手伝いだけだけどね。
「こっちは終わった。そっちは?」
「我々の方も終わりました。こいつらはどうしましょう?」
「先を急ぐからな。このまま町まで運んで、後は警備隊に任せよう」
「了解しました。しかし、馬車にこの人数を括る訳にも行きませんし、移動速度が落ちますね」
じろりと盗賊団に目をやりながらブライアンさんが発言する。
「ひっ!」
意識を取り戻した盗賊団の一人が息をのむ。
「あっ、私にいい考えがあるので大丈夫ですよ。はいっ!」
私が縄に繋がれた盗賊団を宙に浮かせる。
「これは……」
「こうすれば難なく運べますから安心してください。もちろん、逃げようとする人がいたら遠慮はいりませんけど」
いくら人の命が大切といっても、こうやって財産や命を奪おうとする人に遠慮はいらない。冒険者をしていく上で学んだことの一つだ。
「では、ゆっくりしていると魔物もやってきますから進みましょう」
「分かりました。じゃあ、ジャネットさんと場所を代わりますね」
「アスカ、悪いね」
「いいえ、任せてください」
流石に馬車にいながら十三人もの盗賊団を浮かせることはできないので、視界に収められる御者席の隣に移る。後は馬車の前方から左側面までを使って盗賊団を勾留する。
「な、なんでこんな目に……」
「だから、貴族の馬車なんて狙うのは反対だったんですよ」
「うるせぇ!」
「貴様ら、あまり煩いようだと置いて行くぞ」
「ひぇぇ」
森に動けない状態で置いて行かれると聞いて、一気に黙る盗賊たち。それにしても物分かりのいい盗賊団だなぁ。私はちょっと気になったので、盗賊団に聞こえないよう防音結界を張り、馬車の中と連絡を取る。
「ジャネットさん、盗賊たちが結構落ち着いているんですけど、何かあるんですかね?」
「落ち着いてる? まあ、観念したとみるべきかどうかだねぇ。リックは?」
「ちょっと様子を見てみるか。……確かにな。この先、魔物に襲われることもあるだろうから、それを当てにしているのか?」
「だが、リチャード。魔物なんていつ出るか分からないだろう?」
「本来ならな。だが、この盗賊団がもし相手に逃げられた時、口封じのために何かしているのかもしれん。カーティス、この辺で盗賊団の目撃は多いのか?」
「いや。魔物に襲われたという話は聞くが、盗賊団となるとあまり聞かないな」
「分かった。アスカ、悪いが探知も行ってくれないか。魔物が出る可能性が高い」
「分かりました」
話し合いも終わり、私は周囲に探知魔法を使う。
「今のところはなし。でも、気は抜けないな。リュート!」
「アスカどうしたの?」
「悪いけど、探知魔法を使って進んでくれない。もしかしたら魔物が潜んでいるかもしれないんだ」
「分かったよ」
私はリュートを呼び寄せると、盗賊団に聞こえないよう探知魔法を使ってもらう。
それから十分後。
「アスカ、反応があったよ。そっちでも分かる?」
「……あるね。四つの反応だからフォレストハウンドかな?」
あまり群れないオーガじゃないと思うし、ヘビはこんなに大きくないしね。
「もうちょっと探知してみるね。やっぱりサイズ的にウルフ種だね」
「ブライアンさん、多分フォレストハウンドがこの先にいます。騎士団の方で対応ってできますか?」
「了解しました。ウルフ種なら私とフィオナ、それにガストンで対処しましょう」
「僕も一緒に行きます。位置を掴めますから」
「それは助かる。では、向かいます」
「お気をつけて。リュートも気を付けるんだよ」
「うん。待っててね」
魔物の正体も掴めたところで、騎士団の三人とリュートが対処をしに進む。
「じゃあ、あたしたちも出るかね」
「そうだな」
馬車の護衛をするため、ジャネットさんとリックさんが中から出て来た。うんうん、これで盗賊団の方も問題ないだろう。それから数分で何度か魔力の気配が強くなった後、リュートたちが帰って来た。




