カルハーネン様と2日目
「えっと、こっちはこうしてここはこう。大地の神様だと、あんまり服とか豪華じゃない方がいいかなぁ」
私は古代ギリシャ的な感じの服をイメージしてカルハーネン様の絵を描いていく。二タイプぐらいは絵を描いておきたい。とはいえ、ちょっと時間が足りないから、二タイプ目は下書き止まりかな?
「でも、二枚目の構想はどうしようかな? グリディア様と違って戦いって感じでもないだろうし、忍耐かぁ」
忍耐といって思い浮かぶのは滝行とかだけど、流石にイメージとは違うよね。
「アンバーさん、カルハーネン様ってこの像の他にどんなイメージの物が多いですか?」
「カルハーネン様ですか。こちらのような神像以外には私は見たことがありませんね。申し訳ございません」
「あっ、いえ。でも、どうしましょう。他のイメージがあまり浮かびませんね」
とりあえず、今描いているデザインを優先するとして、他のイメージが浮かばないのは困ったなぁ。ただ、考えていてもしょうがないので手を動かすことに集中する。
「ふぅ、後少し」
「アスカ様、もうすぐ夕食になりますが……」
「あっ、絵が完成してからにしてもらえますか」
「承知いたしました」
私の要望を伝えるため、アンバーさんが部屋を出て行く。ちょっと申し訳ない気分になるけど、こればっかりはしょうがない。途中で手を止めると気持ち悪いしね。それから十五分ほど作業をすると、何とか絵が完成したので手を止める。
「終わりましたよ」
「承知しました。では、宿の者へ伝えてまいります」
「お願いします」
再びアンバーさんが部屋を出て行く。それにしても毎回毎回器用にキシャルを持ち上げながら出て行くなぁ。
そんなこんなで少し待つと夕食が運ばれて来た。ジャネットさんたちも交代で各々食事を取っているらしい。
「いただきま~す」
運ばれて来た食事に手を付ける。宿に着いた時間が遅いからどんなメニューかなと思っていたけど、中々に豪華だ。お肉と野菜たっぷりのスープにすじ肉を煮込んだほろほろ煮込み。後は柔らかいパンとサラダだ。量も十分だし、これなら皆も明日から元気いっぱいだろうな。
「あれ? そう言えばアンバーさんの分は?」
「私は後で失礼して隣の部屋で食べさせていただきます」
「別に私は普通の冒険者ですから気にしなくていいんですけど……」
「そうは参りません。リチャード様のお客様ですし、カーティス様からも丁重にと言われておりますので」
そう言われては私に返す言葉がないので、大人しく食事に戻る。
《にゃ?》
「あっ、キシャルも起きたんだね。ご飯はどうしよっか」
《にゃ~》
もちろん食べるというキシャル。アルナはまだお家でゆっくりしているから、ご飯台に置いているけど、寝ていたキシャルの分はまだだ。というのもキシャルは凍らせるにしても、温かいお肉でないと嫌がるのだ。時間が経つとお肉がいまいちなんだとか。
「冷凍してるのに硬いも何もないと思うんだけどね」
「キシャル様の分もお持ちいたします」
「あっ、用意してもらってるんですね」
「はい。では、失礼します」
テーブルにちょこんと座ったまま待つキシャル。こういう時は行儀が良いんだから。
「ごちそうさまでした」
食事が終わると、後は寝るだけ……なのだけど、やっぱりお風呂にも入りたい。お風呂自体は宿にあったので、お願いして入ることにした。
「ん~、いいお湯ですね」
「はい。何かあったら言ってくださいませ」
「言うことなしですよ~」
お風呂は命の洗濯。疲れが取れるなぁ~。こうして、身も心もほぐれた後は部屋へと戻って絵の続きだ。
「とはいえ、服装だよね。う~ん、ここはもう開き直っちゃおう」
私はさらさらと下書きを描いていく。本当に失礼かもしれないけど、服装はブラウンのパンツに上は白のシャツだ。本当にラフな感じだけど、これしか思い浮かばないのでしょうがない。デザインが決まったので、絵を描いていく。ただ、明日も早いのである程度で切り上げないとね。
《ピィ?》
「あっ、アルナも起きて来たんだ。ご飯はご飯台に置いてあるから食べてね」
《ピィ!》
下書きを描きながら起きてきたアルナにご飯を勧める。
「キシャルは寝たし、私も下書きを終わらせたら寝ないとね」
馬車旅とは言え何かあるかもしれないし、気は抜けないので下書きを終えると私は眠りについた。
「アスカ様、朝でございます」
「んぅ~、おはようございます」
今日も夜明けに起きたせいか、まだちょっと眠い。だけど、皆を待たせる訳にも行かないので、ゆっくりと身体を起こす。
「キシャル~、アルナも起きるよ~」
《にゃ?》
《ピィ?》
私が二人に話しかけると、二人はもう起きてるよと返事をする。そう言えば、二人は朝弱くなかったね。なんてことを考えていると朝食が運ばれて来たので食べる。
「ごちそうさまでした。朝も美味しかったね」
《ピィ!》
野菜が特産というだけあって、グルメなアルナも満足げだ。食事が終わると、アンバーさんに髪と服装を整えてもらい、皆と合流する。
「ジャネットさん、リュート、おはようございます」
「おはようさん」
「アスカ、おはよう」
「リックさんたちは?」
「二人なら騎士たちと今日の行程の打ち合わせだよ」
「そうなんですね。じゃあ、もうちょっと待つ感じですか?」
「ま、そうだね」
それからすぐにリックさんたちもやって来た。
「待たせたな。それじゃあ、出発だ」
こうして今日も私たちはベンティゴ領へと向けて出発したのだった。
「それにしても左側はずっと山脈が続くんですね」
「ああ、枝分かれしながら結構な距離、山脈が続いているんだ。ヴァンダル山脈が西へと伸びているのに対して、このフェオール山脈は東へと伸びている。もうすぐ途切れるが、違う山脈や山が現れるぞ」
カーティスさんたちから領地は山が多いって聞いていたけど、そもそもこの地域に山が多いらしい。東はまだ平地が見えるから、西と東でかなり景色が変わりそうな土地だ。
「でも、山から見る景色は綺麗でしょうね~」
「綺麗、ですか?」
私の言葉にキョトンとして答えるアンバーさん。
「アスカ、またお前は。山に登って景色を楽しむ時間なんてないぞ。次々と獲物を求めて魔物がやってくるからな」
「あっ、そうでした」
この世界には紅葉狩りもお花見もないんだった。そのことに反省をしつつ私は景色を楽しむ。昨日は会話をしていて楽しかったけど、こうやって景色を楽しむのも一興だ。
「景色を見るのもいいんですけど、代わり映えしませんね~」
「まあ、山脈は南北に広がっているからな。メルテート帝国との国境も山脈の形だ」
「あっ、自然で引かれてる国境なんですね。それじゃあ、揉めることもなさそうですね」
「ああ。山なんて持っていてもしょうがないからな。そこから鉱石が採れるならともかく、採れないなら治安維持に金も人もかかるだけだ。麓にも鉱脈を調べるために作られた小さな村があるぐらいだろう」
景色を見ながら地理の説明を受けていると、一回目の休憩場所に着いた。今日はお昼の休憩ではなく、途中森へ入る関係で早めに一回目の休憩を取る。
「この先の森って魔物が良く出るんですか?」
「魔物との遭遇は避けられないでしょう。ですが、私たちにお任せを」
休憩中も騎士さんたちが交代で見張りを行ってくれる。ここから森に入るということは、結構襲撃があるのかなと思い、どんな魔物が出るか尋ねる。
「森に生息しているのはどんな魔物なんですか?」
「フォレストハウンドにオーガ種にナムネススネークが主ですね。上位種はディアトラにオーガバトラー、我々騎士相手ではディプスベアーでしょうか?」
「結構強い魔物ばかりですね」
「はい。ですが、これでもベンティゴ領と比べればマシですよ。あそこの魔物は本当に強くて……」
この騎士さんたちが言うぐらいだから、リックさんの領地は本当に危険みたいだ。目的地が近づく時は一層気を付けないと。
「では、出発します。道中、急な停止があるかもしれませんが、落ち着いてください」
「分かりました」
馬車が再び走り出すと数分後には森へと入って行った。
「流石にここからは私も協力した方が良いよね」
皆に気づかれないよう、私は探知魔法を使う。まだ森の入り口だからか、魔物の反応はなかった。
「次に精密な探知をするのは十五分後かな?」
「アスカ、どうした?」
「あっ、いえ~」
私の魔力に気づいたのか、はたまた態度から何かを感じ取ったのか、リックさんに声をかけられた。私はジェスチャーで探知を表すと、リックさんも黙って頷いてくれた。それからも安全に進むものの、何やら反応があった。
「あ~、ちょっと馬車を止めてもらってもいいですか?」
「アスカ様?」
「停止だ。ブライアン、馬車を止めろ」
「リチャード様⁉ 了解いたしました。馬車停止!」
「馬車停止します」
リックさんの呼びかけにすぐさまブライアンさんが対応してくれる。この規律の取れた行動が騎士団の強みだろう。
「アスカ様、どうかされましたか?」
「えっと、説明しづらいのですが、この先に何か反応があります。街道から少しだけ左にずれたところなんですけど……」
「街道沿いねぇ。リュートとあたしが見て来よう」
「ジャネットさん、お願いできますか?」
「任せときな。リック、ここの指揮は……ああ、あんたじゃ無理か」
「まあ、正規の部隊でないから大丈夫だろう。ブライアン、念のため俺も馬車を降りる。警戒態勢を敷いてくれ」
「承知しました。カーティス様、それでよろしいでしょうか?」
「分かった。戦いに関してはリチャードの方が頼りになる。一時的に彼に指揮権を渡せ」
「はっ!」
こうして馬車は歩みを止め、ジャネットさんたちは街道を少し外れて脇道へ入って行った。




