懐かしい思い出
「それで、三人はそれからどんな生活をしたんですか?」
「夏までは本当に稽古尽くしだったな。皆もまずは上級生に好き勝手されないようにと頑張ったからな」
「夏以降は?」
続きが気になり、すぐにリックさんへと尋ねる。
「それは色々だな。実戦だけではなく本も読んだし、皆で買い物にも出かけたな。俺たちが二年になった頃には二人の仲も進展していたようだが」
「そっ、それは関係ないだろう」
カーティスさんがリックさんの肩を叩きながら恥ずかしそうに言う。ひょっとして、気づかれてないと思っていたのかな。
「じゃあ、その後カルディナさんが卒業する時に二人は付き合ってたんですか?」
「いや、それは……」
「アスカ。カルディナ先輩の家は王都の騎士爵だ。とてもじゃないが、領地持ちの子爵家次期当主とは釣り合わん」
「そういや、それだけの立場があれば婚約者の一人ぐらいいるんじゃないのかい?」
ジャネットさんの言う通り、カーティスさん位の立場なら婚約者もいたのかな?
「婚約者に関しては幸か不幸か、その数年前に起きた冷害のせいでうちの生産力がガタ落ちでして。その時にいくつかの領地から借金をしていまして、人気がなかったのですよ。父も先に財政を正常化することに重きを置いておりましたので、婚約者はいませんでした。ただ、そのせいでカルディナとの結婚は難しくなっていまして」
当時のことを思い出したのか、表情を曇らせるカーティスさん。でも、身分違い以外で結婚が難しいなんてどうしたんだろう。
「アスカは分からないって顔をしているな。考えても見ろ、貴族が家の存続に関わる婚約を後回しにしてでも財政再建に力を入れている状況だぞ。相手にもそれを求めるに決まっているだろう。この場合だと婚約相手に選ばれるなら大商家の娘か、取引のある貴族の家だ」
「ああ、そういう……」
「アスカ、スンって顔すんじゃないよ。くだらないって顔に出てるよ」
「でも、そこまでしなくたっていいんじゃないかと思うんです」
「だがな、俺の剣や鎧だって元はと言えば、領民の税金から出ているものだ。カーティスなら将来は自分が預かる者たちになる。無責任に婚約はできないものなんだ」
うっ、そう言われると説得力があるかも。日本で言ったら将来カーティスさんは市長とか知事的な立場になるんだから、その責任があったってことか。世襲なのも大きいと思うし。
「そんな訳でカルディナは卒業後、元々の進路である女性騎士で構成された騎士団に入ったのです。私は卒業後、まだ王都で学ぶことがあるということで王都の邸で経営を学び、リチャードは王立騎士団へと入りました。それから数年後、どうしてもカルディナとの結婚を諦めきれなかった私は父へ直談判をすることにしたのです」
「アスカ、結果が分かってるのにワクワクするんじゃないよ」
「ジャネットさん、まだ何も言ってないのに心を読まないでください」
「分かりやすすぎるのが悪いんだよ」
だって、これまでの二人の話を聞いていたら、結婚なんて無理そうだったんだもん。
「私がカルディナとリチャードを連れて父と話をしました。当然、父は領地のことについて言及してきました。その時、リチャードがあることを言ってくれたのです」
「あること?」
「ええ。「こいつが無理なことを子爵様に言っているのは私も分かっています。だからこそ、カルディナ女史を迎えてはもらえないでしょうか。この先、カーティスが統治について何かミスがあれば、カルディナ女史が槍玉にあげられるでしょう。だからこそ、カーティスは今よりやる気になると思うのです」と言ってくれたのですよ」
なるほど。地元の有力者や他領の貴族なら支援してもらえるけれど、カルディナさんにはそれがない。だけど、そんなことを言われないようにカーティスさんが努力して、周囲に認めさせるってことなんだ。
「貴族は体面も重要視します。確かに支援を受ければ統治は楽になる。けれど、支援を受けない方が面目も立ちますし、領民も領主を頼りにします。当時はまだ復興途中でしたから、父もその声に耳を傾けてくれたのです」
それなのに結局、結婚式に来てくれないとはと続けるカーティスさん。本当にリックさんへ感謝をしてるんだろうなぁ。
「それより、カルディナ先輩の家に行った時の方が大変だったと聞いたが、本当か?」
「あっ、それは言うな。カルディナの実家は代々続く騎士家ではあるが、名家でもなく、婚約をするという話をしに行った時は全く信じてもらえなかったのだからな」
「詐欺師か護衛騎士と婚約する話を大げさに言っているのだろうと、外まで声が聞こえていたらしいな。その後どうしたんだ?」
「結局、改めて王都の家に招待して何とか話を信じてもらったんだ」
遠い目をしながら当時を思い出すカーティスさん。身分違いの恋とは言うけど、お父さんからしたら、普段護衛をしているような相手だもんね。もしかしたら、一般人より恐れ多いって気持ちが強かったのかもしれない。
「その後も色々とありましたが、何とか婚約を結び現在に至る訳です」
「リック、あんたの友人も苦労してるんだねぇ」
「ま、そういうことだ」
「アスカ様、もう少しで休憩ポイントに着きます」
「分かりました。休憩だって、やっと羽根が伸ばせるね、アルナ」
《ピィ!》
午前も早い時間に出発したのに濃密な話を聞いていたからか、もうお昼前みたいだ。この先の休憩所で四十分ほど休憩して後は四時間馬車を走らせると、今日の宿泊場所へと着くらしい。
「到着いたしました。アスカ様、お手を」
「はい、ありがとうございます。ティタは……お留守番お願い。アンバーさん、キシャルを引き続きお願いしますね」
《……》
「かしこまりました」
馬車をティタに頼むと、私はブライアンさんの手を取り馬車から降りる。
《ピィ!》
「あっ、アルナ待ってよ!」
外に出たのがよほど嬉しかったのか、アルナが空へと舞い上がる。
「もう、しょうがないなぁ」
私は危険がないか、周囲に探知魔法を放って安全を確認する。
「ん~、しばらくは大丈夫かな。アルナ、くれぐれも気を付けるんだよ」
《ピィ~》
「アスカ様、アルナ様を放っておいていいのですか?」
「あっ、大丈夫です。それより、キシャルが重かったら言ってくださいね」
「キシャル様は軽いので大丈夫です」
「アスカ様、こちらへ」
「は~い」
騎士の人たちが敷いてくれたシートへ座り込む。
「アスカ様、お昼に関しましては邸にて作った料理を用意してあります」
「本当ですか。楽しみです」
私たちが休憩している場所は普段から他の人も使うみたいで、かまどなどはすでに作ってあった。だから、騎士の人が周囲の木を集めて薪にしている。
「あっ、薪なら集めなくても大丈夫ですよ」
「は、はぁ」
「エアカッター&ヒートブレス」
私は近くにあった木を切ると、簡単に枝を落として少し小さめの薪のサイズへと切る。そこへ熱風を送り込み、一気に乾燥を促進する。後は必要な分だけを風魔法でかまどへと運べばOKだ。
「火をつけるので下がっていてくださいね」
「は、はっ!」
「ファイア」
いつものように火をつけると後は鍋を置くだけだ。
「アスカ様、手際が良いんですね」
「へへ~、いつもやってるんです。野営時の私の仕事ですね。そうだ、リュート~!」
「アスカどうしたの?」
「今日は朝から話してないからお話ししよう」
「うっ、分かったよ」
護衛の人がいるからか、気まずそうに座るリュート。
「朝から馬に乗っていたけど大丈夫だった?」
「うん。僕が乗馬になれていないことを知って、大人しい馬を用意してもらえたからね。それに元々大人しめの種類みたいだよ」
「そうなんだ。ブライアンさん、この馬ってなんていう種類ですか? ウォフロホースとは違うみたいですけど……」
馬車にも繋がれている馬は茶色の毛並みで、がっしりとした体つきの馬だ。ウォフロホースはもう少しやせ型だったので、結構違う気がする。
「こちらはエクウスアースというこの大陸でよく使われる種です。毛並みはウォフロホースほど美しくなく速度も出ませんが、体力に秀でていてこうやって長距離の移動には欠かせない馬なんです。貴族でも長距離移動はこの馬を使うんですよ」
そう言いながら自分が乗っていた馬の手入れをするブライアンさん。
「あっ、スープが温まるまで私も手伝いますよ。リュートも乗せてもらった馬の手入れしよう」
「そうだね」
「アスカ様、エクウスアースも魔物です。危険ですよ」
「大丈夫です。こう見えて馬のお世話もやったことあるので」
何回かお手入れもさせてもらったから、専用のブラシまで持ってるんだよね。という訳で私は馬車を引いていた馬に近づくと、座っている馬に近づきブラッシングを始めた。
《ブルル》
「あっ、見慣れない人だから警戒しちゃってるのかな? 危なくないからね」
《ピィ!》
私が警戒されているのを見て、アルナが近づいて話をしてくれる。馬たちもそれで落ち着いてくれたのか、身を任せてくれた。
「じゃあ、こっちの子からやるね」
二頭立ての馬車なので、私は近くにいた子からブラッシングを始めた。




