貴族のお邸
リックさんの幼馴染であるカーティスさんについていくと、大きな邸の前に着いた。まあ、私は引き続き馬車の中だから、歩いてはないけどね。
「ここが今使っている邸だ。明日の朝には出発することになるが、ゆっくりしてくれ」
「おい、いつからロディウム子爵家は領地でもないこの町で、こんな大きい邸宅を管理するようになったんだ?」
「ん? ああ、お前は事情を知らないのか。妖精誘拐事件については知っているな。うちの貴族も噛んでいるらしいが、あの件で国境の管理が厳しくなっただろう。その所為で伯爵家以下の貴族が持ち回りで国境の町へ詰めることになっているんだ。国の本気度を見せるため、詰める貴族向けの仮邸宅がこの立派な建物という訳だ」
「なるほど。それなら話も分かる。しかし、管理が大変だろう?」
「それも国から補助が出ている。まあ、騎士や使用人は自前だがな」
う~ん、国の威信も見せないといけないなんて、改めて大きい事件だったんだな。そんなことを考えていると、馬車は車止めへと止まる。
「お嬢様、こちらへ」
「あっ、どうも」
カーティスさんに手を引かれ、邸へと入って行く。
「帰ったぞ」
「お坊ちゃま、もうお帰りですか? お仕事の方は……」
「意外な来客が来てな。モーリスは会ったことがあるだろう? ルファルク伯爵様の次男のリチャードだ」
「リチャード……おおっ、リチャード様ですか。確か、坊ちゃまと騎士学校でも同期だった」
「そのリチャードだ。伯爵から見かけたら連れてくるように言われていてな。急ではあるが、明日にはベンティゴ領へと向けて出発する。悪いが騎士五名を選抜しておいてくれ」
「承知いたしました。お部屋はどういたしましょう?」
「部屋は……こちらのお嬢様に一部屋。護衛の女性騎士を隣に。リチャードともう一人の騎士は同室でいいだろう」
「おい、俺の扱いがぞんざいだぞ」
「これでも使用人などは最低限なんだ。我慢しろ」
「そう言われると仕方ないか。リュート君もそれで構わないな?」
「僕は別に構いません。アスカは大丈夫?」
「あっ、うん。私は別にジャネットさんと一緒でも良いし」
急な来客に対応するのも難しいだろうしね。
「いえ、こいつが案内しているぐらいですから遠慮は無用です。これでも、礼節はきちんとしている奴なので」
カーティスさんは本当に気安い感じでリックさんと並んでいる。リックさんも嫌がるそぶりを見せないし、仲が良いんだなぁ。
「それじゃあ、案内してもらうとするか。ほら、キシャルとアルナはあたしのところへ来るんだよ」
《ピィ?》
《にゃ~》
「そう言えばさっきから肩にいるのは従魔ですか?」
「はい。私の従魔でこっちがアルナ、頭にいるのがキシャルです。左肩にいるのはティタって言います」
私はカーティスさんに皆を紹介する。皆が大人しくしているからかカーティスさんも警戒してはいなさそうだ。
「ご紹介ありがとうございます。それにしても大人しいですね」
「皆、賢い子たちばかりですから」
「カーティス様、お部屋の用意が終わりました」
「分かった。では、案内いたします。そう言えば、まだ自己紹介をしておりませんでしたね。私はルイン帝国子爵家のカーティス・ロディウムと申します」
「あっ、どうも。私はフェゼル王国より来ました、アスカと言います」
カーティスさんの自己紹介をきっかけに、私から順にジャネットさんとリュートも自己紹介をする。
「アスカ様のお部屋はこちらです」
「ありがとうございます」
皆で案内されたお部屋へ向かう。中へ入ってみると調度品も整えられた良い部屋だった。
「こんなに豪華な部屋で良いんですか?」
「ははは。実はここは仮管理をしている貴族が来客をもてなすために用意された部屋で、全部国が用意してくれているのです。アスカ様はリチャードのお客様ですから問題ありませんよ」
「そうなんですね。では、遠慮なく」
私は早速テーブルにティタを乗せると、窓際にアルナのおうちを出す。
《にゃ~》
「あっ、キシャル。ちょっと待ってね。ティタ、これに水を出して」
「……」
私の指示通り、ティタが布に水を垂らすと、軽くキシャルを拭いてあげる。来る時も馬車に乗っていたから汚れてはないだろうけど、見てない人からしたら気になるだろうしね。
《にゃっ!》
拭き終わるとキシャルは早速ベッドへとダイブする。
「もう、しょうがないんだから」
「構いませんよ。それではアスカ様はごゆっくりお寛ぎください。私は他の者を案内してきますので」
「あっ、お願いします」
「それと、少し後に世話をする者がやってきます」
「分かりました」
皆が案内されている間、ベッドに座った私は改めて部屋を見回す。入り口近くからベッド近くまで覆う大きな絨毯に始まり、服をしまうタンスに高価そうな壺に細工の施されたテーブルとイス。これならどんな貴族でも迎え入れられそうだ。
「それに広い庭を見渡せるテラスまで付いてるなんて。貴族宿でもテラスはないから新鮮かも」
今までも貴族の邸を訪れたことはあるけど、こうやって景色を見るだけの余裕があったことはなかったしね。日が暮れる前に一度ちゃんと見てみようと思っていると、ドアがノックされた。
「は~い」
「失礼いたします。私はアスカ様のお世話を命じられた、アンバーと申します」
「アスカです。短い間ですが、よろしくお願いいたします」
「カーティス様よりご要望を聞くようにと言われておりますので、何かあればお申し付けください」
「あっ、それならお庭を見せてもらってもいいですか?」
ここからの景色を見る前にどこに何があるのか知っておきたいので、アンバーさんに案内を頼む。
「かしこまりました。護衛の方への案内が終わり次第、手配いたします」
「別にジャネットさんたちが戻らなくても大丈夫ですよ。私だって冒険者ですし」
そう言いながら私は持っていた冒険者カードを出す。
「……承知いたしました」
少しの沈黙の後、アンバーさんは部屋を出て行きすぐに戻って来た。
「こちら、アスカ様の護衛を務めます騎士のブライアンとベンです」
「えっと、護衛ですか?」
いや、さっき断ったというか、大丈夫って言ったつもりだったんだけど……。
「はい。お嬢様は魔物使いとお聞きしておりますし、いくら邸とはいえ警護が必要かと思います。どうか我らにお任せください」
「あ~、そういう」
そう言えば以前にも魔物使いだから、護衛の人と一緒に戦ってランクを上げたって思われたことがあったっけ。私の従魔は小型ばかりだから、勘違いされたのかな?
こう思うと冒険者ランクもBランクにあげた方が良いのかも。それなら実力もあるって思われるだろうし。
「それじゃあ、お願いしますね」
「かしこまりました」
「おっと、皆も行く?」
《ピィ!》
《にゃ》
暇をしていたのかアルナは家の上についている掴まり棒からこちらへ、キシャルは興味無さそうにベッドの上からこちらを見ている。
「はいはい、キシャルはお留守番ね。アルナは勝手に飛ばないようにね」
《ピィ!》
庭には植物も沢山あるから隠れられると困っちゃうしね。
「それでは参りましょう」
「はい」
ブライアンさんたちに両側を守られながら、私はアンバーさんを伴って庭へと向かう。
「わぁ~、両側の木々が綺麗に並んでますね」
「はい。こちらは子爵家の持ち物ではありませんので、国も特に気にしているようです。この木も剪定は国持ちなのです」
「へ~、こんな綺麗な庭をただで見られるなんていいですね」
「そちらにはシマトネリコ、シロヤマブキなどが植わっています。あちらはバラの庭園で、アーチの向こうにはガゼボがございます。ぜひ、ティータイムをお過ごしください」
「素敵ですね。時間になったらお願いします!」
《ピィ!》
アルナも植物がたっぷりある庭に満足して、その辺の木にとまってお気に入りを探している。
「それにしてもこんな素敵なお邸を貸してもらえるなんて凄いですね」
「私たちは恐縮してしまいますが。広さは領都のお邸の方がありますが、調度品などはこちらの方が整えられていて、掃除の時は緊張しますね」
「国の持ち物ですもんね。一日だけの滞在がもったいないです」
今はベッドで休んでいるキシャルも自然は好きだし、数日滞在できればお庭でゆっくりするのが気に入ると思うしね。
「申し訳ございません。ベンティゴ伯爵領には私たちもお世話になっており、カーティス様も優先せざるを得ないのです」
「いいえ、しょうがないですよ。でも、お世話にって何かあるんですか?」
「はい。ベンティゴ領は古くから強い魔物が出ることで知られており、かの地が食い止めているので、隣の領地である私たちの領が安全に暮らせているのです」
「そうですね。我ら騎士団も合同訓練はもちろんのこと、強力な魔物が出た時には騎士団の派遣を要請したこともありますから」
アンバーさんに続いてブライアンさんも説明をしてくれた。歴史的に見てベンティゴ領は強力な魔物が多い地域で、周辺の領地はその対応をしてくれるベンティゴ伯爵家を頼りにしてるんだな。
「さあ、そのようなお話はやめにして案内の続きを致しましょう」
「そうですね。引き続きよろしくお願いします」
こうして午前中は庭の案内に始まり、邸の中も案内してもらった。




