出国前日
「お待たせいたしました。こちら、ジュムーアステーキのデザートセットになります。デザートの方は後でお持ちいたしますので、先にこちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
私の料理を皮切りに、どんどん食事が運ばれて来た。ただ、リュートの煮込み料理だけは温めに時間がかかるのか少し後になった。
「それじゃあ、お先で悪いけど食べちゃうね」
「うん。僕は待ってるよ」
「いただきま~す」
運ばれて来た料理に手を付ける。うん、リックさんも行ったことがあるだけあって美味しい。
「それにしても、ちょっと少ないですね。私でもそう思います」
「だから、デザートセットなんだ。アスカならちょうどだろう?」
「そうですね」
運ばれてきた料理はメインのステーキが百五十グラムほど。そこにちょっと小さめのロールパンのようなパンがひとつと、カップスープに小皿にはサラダだ。どっちかと言うと、コース料理が一度に出てきている感じかな?
「リック。これじゃ、あたしには少なすぎるよ」
「そう言うと思ってこいつを大盛りにしてある。ほら、取るといい」
そう言うリックさんの方も大盛りとは言うものの、パンが二つに増えたのとサラダのお皿が大きくなっただけだ。肉の方も大きくなっているのかもしれないけど、それも大きいという程でもない。私にちょうどというのはこういうことだったみたいだ。
「はぁ~、しょうがない。こいつで我慢するか。おっ、これも美味いね」
ジャネットさんがリックさんのメニューを一切れ食べる。ハウルスカリーって鶏みたいな肉質の魔物だから美味しいだろうなぁ。
「お待たせしました。ドーディアーの煮込みの大盛りになります。デザートに関してはまた店員にお伝えください」
「分かりました。これがドーディアーの煮込みか。美味しそうだね」
「そうだね」
「……アスカもちょっと食べてみる?」
「いいの⁉」
リュートの煮込みは大盛りだからか器も深い。これなら一口ぐらい貰っても減らなさそうだ。
「それじゃあ、遠慮なく」
付いていたスプーンを持って、お肉とスープをすくって口に含む。
「ん~~、煮込んであるからか、肉もホロっとしてるしスープにも深みがあって美味しい。リュートも早く食べてみてよ」
「う、うん」
私がスプーンを返すと、リュートもドーディアーの煮込みに手を付ける。
「ねっ、美味しいでしょ?」
「本当だね。大盛りで量もあるし、頼んでよかったよ」
リュートも味には満足のようで、各々が食べ進める。そして、大体食べ終わった頃にいよいよデザートを頼む。
「後はデザートが来る前に食べ終わるだけだね」
「焦らなくてもいいよ。別に時間はあるんだから」
「そうでした。じゃあ、のんびり食べますね」
ジャネットさんの勧めもありゆっくり食べていると、デザートが運ばれて来た。
「お待たせしました。こちら、ビッグビーケーキです」
「わぁ、美味しそう! こっちをすぐに片づけないと」
運ばれてきたビッグビーのケーキはケーキというより、ホットケーキに近い物だ。ふわっとしたパンに上から蜂蜜がかかっていて見るからに甘そうだ。
「付いて来た紅茶も楽しみだね」
「うん。これで最後の一口だし、私もすぐに食べてみるよ」
リュートと話しながらジュムーアのステーキの最後の一切れを食べ終えると、早速ケーキに手を付ける。
「はむっ。うん、ふっくらとはしてるけどそこまでじゃないな。ベーキングパウダーっぽい物がないせいかな? でも、味は蜂蜜の味が良くて美味しい」
「そうだな。俺も初めて食べるが、中々だな」
「あれっ? リックさんも初めて食べるんですか?」
てっきり以前来た時に食べてこのお店を勧めたと思ったのに。
「ああ。前は騎士団連中と一緒に来てな。男所帯だったからデザートはほとんどの奴が頼まなかったんだ。それなりに値段もするから皆大盛りも頼まなくてな。まあ、結局量が少なくてもう一軒行くことになった訳だが」
ちょっと苦い顔をしながらリックさんが言う。確かにジャネットさんも少ないって言ってたし、騎士の人って重たい鎧を着込んでるイメージもあるから、これじゃあ足りないだろう。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございました~」
料金を支払って次の目的地を決める。
「ご飯も食べましたし、魔道具店へは行くとしてそれからどうします? 明日の準備はもうほとんど終わっちゃいましたけど」
「明日は朝早めに出るんだろ? なら宿でゆっくりしようじゃないか」
「分かりました。それじゃあ、用事を終わらせましょう」
今日の予定が決まったところで魔道具店まで向かう。
「いらっしゃい。何が欲しいんだい?」
「あっ、えっと、こちらの紹介状を持って来たんですけど……」
「紹介状? トリアからの紹介状なんぞ珍しいな。少し待て」
魔道具屋のおじさんがトリアさんからの紹介状を読んでいる間、私たちは店内を見て回る。ただ、お世辞にも広くない店内には商品が所狭しと並んでいて、中々目的の物が見つけにくい。
「う~ん。この魔道具は……いらないや。こっちは……この効果だと私の作ったやつの方がいいなぁ」
待っている間、いくつか魔道具を見ていくけど、乱雑に並んでいる中に掘り出し物はなさそうだった。残念、こういう中にこそ、良いのがある時もあるのに。
「おい、用事があるのは誰なんだ?」
「あっ、私です」
トリアさんの紹介状を読み終わったのか、おじさんに声をかけられた。
「ん、お前か。大体の事情は分かった。町の者が危険にさらされる前によく知らせてくれた。できる限りの物は出してやろう。まあ、在庫の関係もあるがな」
「ありがとうございます」
どうやら紹介状の中には、私たちが話した湿地での出来事も書いてあったようで、おじさんは私が何も言わなくても奥からいくつか魔石や魔道具を出してくれた。
「ひとまず、これぐらいは出せるぞ」
そう言っておじさんが出してきたのは、ファモーゼルの魔石とイルリヒトの魔石とディソシルスの魔石だった。他にもいくつかの魔道具も出してくれ、説明を受ける。
「魔石の方は今話した通りだ。魔道具はまずはこれだな。ボムフラワーの魔石を使った腕輪だ」
「ボムフラワー?」
「ああ。こいつは自分に攻撃されると花を爆発させて、相手を倒すんだ。当然自分も被害を受けるが、地中の根が無事ならまた生えてくる魔物でな。かなり厄介なんだ。その魔石を使った魔道具は魔力を通すと、一度だけだが五秒後に大爆発を起こす」
「ぶ、物騒な魔道具ですね。売れるんですか?」
「それなりにな。貴族や商人なんかだと、誰でもそれなりの威力を出せるから人気なんだ。それに価格も金貨十二枚と手ごろだぞ。上位にはボムツリーの魔石があってそっちは何度も使えるが、火力も落ちるしレア魔石だしな」
おじさんの話によると、ボムフラワーが成長したボムツリーは枝についている花を爆発させるけど、威力自体はフラワーに劣るらしい。ただ、ボムフラワーが何十年も成長しないと生まれない魔物なので、魔石の価格は超高額とのこと。
「どちらにせよ。危険なので買わないですね」
何かあっても困るし、ボムツリーの魔石に似た効果の魔道具はもう持っている。魔物から守るだけならバリア魔道具で足りるので、今回は見送ることにした。
「他に何かありますか?」
「他ならこの中サイズの盾だ。鋼鉄製で作られて少し重いが、裏側にはランドベアーの魔石が付けられている。効果は腕力上昇と衝撃耐性だな。相手の攻撃を受け止める重戦士や騎士に人気の魔道具だ」
「へ~、効果と見合った物ですね。リックさん、お土産にどうですか?」
「数がひとつだけというのは気になるが、隊長格の人間にならいいか」
少し考えた後、リックさんは買うことにしたみたいだ。他にも店を見て回ったけど、後はクズ魔石や宝石の代わりになるような安い魔石しかなかった。まあ、ティタへのお土産には十分なので買っておいた。
「おっと、忘れるところだった。輝石と守り石もいるか?」
「いります!」
「え、えらく食いつきが良いな。ほら」
そう言うとおじさんは箱に入った輝石と守り石を出してくれた。
「わぁ~、色味もいっぱいありますね。リュート、何かお気に入りの色はある?」
「えっ、僕? う~ん、これとか?」
リュートが選んでくれたのは真っ赤な守り石だった。直感で情熱の赤を選ぶなんてリュートも男の子なんだなぁ。
「じゃあ、この守り石をいくつかと輝石も買ってと、後は……金属って扱ってますか?」
「金属? 銀ならある。合金も塊一つぐらいならだそう」
「ありがとうございます。お礼じゃないんですけど、これ買って貰えませんか?」
私はウィンドウルフの魔石をいくつか仕入れられたので、予備のバリア魔道具を売ることにした。
「これは巷で流行ってるやつだな。本物なのか?」
「もちろんです。証明書とかはありませんけどね」
そもそもバリア魔道具は実用的な物なので、簡素な細工にウィンドウルフの魔石やグリーンスライムの魔石を配したものだ。実際の効果は使ってみるまで分からないので、こうやって見せても真贋は分からないので、こう言うしかない。
「お嬢さんの出してくれたものなら大丈夫だろう。一応鑑定はしてみるがな」
そう言うとおじさんは眼鏡を取り出して、魔道具を観察する。
「ふむ、問題はないというかいい出来だな。これなら金貨十三枚は堅い」
「じゃあ、それでお願いします」
おじさんに魔道具を売ると、私たちはお店を出る。
「ん~、結構買いましたね」
「全くだ。俺もしばらくは節約生活だな」
「そんなこと言って、家に帰ったら返してもらうんだろ?」
「さてな。そろそろ宿へ帰るか」
「そうですね」
私たちは宿へ帰ると、明日の出国手続きに向け荷物を確認したのだった。




