お買い物と食事
リラーレガレという聞きなれない魔石が安くなったということで、私はおじさんに理由を尋ねてみた。
「この魔石は野営の時にこれまで人気だったんだ。どうしても見張りを交代すると、上手い下手があるし、緊張が解ける瞬間もあるしな。だが、昨今はバリア魔道具なんてやつが安価で出てきてな。あっちなら警戒の腕に関わらず、パーティーの安全を確保しやすいからな」
「う~ん。でも、警戒時に発見できるのも魅力的ですよね」
バリア魔石って広まったのはここ最近だろうし、そんなに悪い効果でもないと思うんだけどなぁ。
「まぁな。だから今でもこうして値がつく訳だが、結局敵を発見できても、寝てる奴を起こす時間を考えたら、バリア魔道具の方が有用って訳だ。パーティーだって寝起きのいい奴ばかりじゃないだろ?」
「そ、それはそうですね」
おじさんからちょっと目を逸らしつつ応える。私の場合は何とか起きてるし、ティタとかがその間のフォローをしてくれるから大丈夫だけど、普通のパーティーだと難しいことだ。
「そんな訳で今はこのウィンドウルフの魔石に中級の魔物の売れ筋を取られちまったんだよ」
「う~ん。でも、効果自体は悪くないし、今が買い時かもしれないってことですね。いくつありますか?」
ここは値を下げた私がリラーレガレの魔石を引き取ってあげよう。
「大きいのがひとつ。中くらいのが三つだ。大きいのは範囲も広いから金貨九枚だな。だが、全部買ってくれるなら二十五枚に負けてやるよ」
「いいですね。全部下さい!」
値下がりした魔石が更におまけだ。私は迷うことなく購入を決めた。
「そうそう、いるか分からんがこいつも付けてやろうか。銀貨二,三枚で売り付けてやろうと思ってたんだが……」
そういうと、おじさんは小さな皮袋を出してきた。中には割れている魔石や、色が薄くて効果がでなさそうな魔石が入っていた。
「良いんですか?」
「ああ。こいつも売るのに大変でな。宝石も色の濃い物が人気だから、こういう色の薄い魔石を代わりに使った細工も人気がないんだ」
「なら貰います」
意図せずティタのご飯も手に入れた私はロゼホランと一緒に魔石を買い、ほくほく顔でお店を後にした。
「アスカ、ウィンドウルフの魔石もちょっとおまけしてもらったし、いい買い物だったね」
「うん。これでしばらく魔道具作りに困らないよ」
魔道具は使う魔石や案を出すのも大変だ。でも、今回は初の魔石を手に入れたので、色々と思いつくだろう。
「他の食料品店も見ていきましょう!」
魔石の購入で気を良くした私はその後も食料品店を回り、食料を補充したのだった。
「さっき買った物でしばらく保存食にも困らないし、他のエリアに行くか」
「そうですね。移動しましょう」
食料を確保したので、次は武器や魔道具があるエリアだ。
「ああ、そうだ。リック」
「ん、どうしたジャネット?」
「さっき魔石を売ってたおっさんが検問は大変だって言ってただろ。明日は任せたよ」
「任せろ。と言いたいところだが、商人があそこまで困っているとは予想外だな。とにかく早く終われるよう手配はしてみる」
「了解」
移動中にはそんな会話を挟みつつ、目的のエリアに着いた。
「武器は……やっぱり結構いい物が揃ってるね。店先に並んでて手もおかしくないよ」
「そうだな。しかし、数がない」
武器屋さんの方はちょっと特徴的で、同一の商品は一本だけ並んでいて掛ける〇本という表示だ。リックさんの言う通り、どの剣も二本ぐらいでたまに三、四本ある在庫の剣は安い物だった。
「あんた在庫をやけに気にするねぇ」
「一本一本、意匠が違うとな。せめて四,五本は同じものを確保したい」
「じゃあ、武器は見てもしょうがないね。ちょっと奥の魔道具が多いエリアへ行くか」
ジャネットさんの言葉で本格的な魔法使い系のアイテムが並ぶ場所へと行く。
「いらっしゃい、良いのあるよ~」
「そこの人、見ていかないかい?」
「結構です」
「こっちは武器のエリアより賑わってますね」
「ま、一般人でも必要な奴は見ていくからねぇ」
そんな訳で人の波に乗って、私たちも並べられた商品を見ていく。
「あっ、ここでもウィンドウルフの魔石がありますね。でも、ちょっと高いかな?」
最近は金貨十枚越えも珍しくないので、価格とサイズはしっかり吟味しないといけない。安いのに飛びついても中級魔法を防げるぐらいでないと意味がないのだ。
「最低はオーガの一撃が防げることだもんね。次々」
お店が並んでいる分、じっくり見ている時間はないので横のお店へ向かう。
「こっちは風系の魔石はないみたい。あるのは……」
「うちは水と土が多いんだ。どうだい?」
「水と土ですか。リックさんはどうですか?」
「俺か? 確かに属性的には合うが効果次第だな。攻撃魔法は得意だから、回復寄りだと嬉しい」
「でしたらこのスイハードクラブの魔石はどうでしょうか?」
「ああ、それなら良いかもな」
「リック、あんただけ分かってもしょうがないだろ。ちゃんと説明しなよ」
「おっとそうだったな。このスイハードクラブというのは水生のクラブ種でな。硬い甲羅の他に再生能力も持っている。その所為か、魔石も補助や回復に適しているんだ。水使い専用だがそれなりに安くて使いやすい魔石だ」
「今なら金貨十三枚です。お連れの方もどうです?」
「うう~ん。専用魔石なんですよね。リックさんの分はともかく、ティタにはいるかなぁ」
ティタは魔力も強いし、魔法も効率よく使える。得手不得手があったとしても魔石に頼ることはない気がする。
「それに最近はあまり良い魔石を揚げれてないことも多いから食べられないか心配だしね」
流石にティタに渡すなら簡単な細工になるだろうから、使わないと思ったら食べてしまうかもしれない。そこに金貨十三枚はかけられないかなぁ。
「今回は見送りで。他には何かありますか?」
「他だとソードウルフの魔石はどうだい。あんたたちも剣を使うんだろう?」
「ソードウルフの魔石? 倒したことはありますけど、魔石は初めてですね」
「うん? そうだったか」
「効果は中サイズだと切れ味が上がる。こいつは大サイズだから切断スキルが付くぞ」
「スキルが付くんですか⁉」
スキルは才能とか経験で身に付くもので魔石でお手軽に後付けできるのは嬉しい。スキルによっては後付けできないものとかもあるからね。
「切断のスキルは良いですよ。ゴーレムなんかの硬い魔物に有効ですから」
「確かに。いくらですか?」
「こちらは金貨十二枚です。スキルが付く代わりに切れ味が上がらないので、一長一短なんですよ。似た効果でスラッシャーという海魔の魔石があるんですが、あちらは大きさによって切れ味が上がるので、剣士の方でもどちらを選ぶかは好みですね」
「むぅ、難しい問題ですね」
スラッシャーの魔石なら在庫で持っているから比べたくはある。でも、明確な差がなければ使わない剣が一本余る。ジャネットさんもリックさんも剣はたくさん持っているからそもそもいるのかなぁ。
「この魔石、買ったら使います?」
「実際に使ってみないとねぇ。リックの方は?」
「俺が使うかと言われたら微妙だな。だが、腐りはしないぞ。取り合いになるとは思うが……」
「なら、一緒にリックが買っときなよ。どうせそっちへ行くんだろ?」
「そうだな。効果も悪くないし買っておくか」
ソードウルフの魔石は二個あったので、リックさんはどっちも買っていた。中サイズもあったけど、そちらはスラッシャーの魔石を私が持っていたので買わずにおいた。
「結局あれから良い物はありませんでしたね」
「アスカが少し安い魔石を買っただけだったね」
「それでもティタのご飯にはなるから来てよかったよ」
「そうそう。国境を越えたらまた町を見ればいいさ」
「ですよね!」
ジャネットさんの励ましもあり、元気を取り戻した私たちはお昼を食べるため、市場を出て飲食店を探す。
「ここなんてどうでしょう?」
「へぇ~、結構いい店だね。リックも知ってる店かい?」
「ん、ここは……。ああ、一度食べたことがあるな。アスカならいいだろう」
「?」
私が見つけたお店は良いお店らしい。ちょっとリックさんの言い方が気になったけど、私たちはお店へ入ることにした。
「いらっしゃいませ~! お好きな席へどうぞ」
「それじゃあ、あそこにしましょうか」
「分かったよ」
まだ時間が早いお陰かお店の席は埋まっていなかったので、ちょっと奥にある席へと着く。席に着くのを確認すると、店員さんがやって来た。
「ご注文はどういたしますか?」
「えっと、少し待ってもらっていいですか?」
「かしこまりました」
初めてのお店なので皆でメニューを広げて何を頼むか決める。
「リックは来たことあるんだろ? お勧めとかはないのかい?」
「お勧めというか、このデザートセットにするといい。他のメニューとの組み合わせでデザートが付いてくるんだが、美味いぞ」
「へ~、それでアスカにお勧めって言ったのかい?」
「まあ、他にも理由はあるんだがな」
再び意味深なセリフを言うリックさん。気にはなるけど、お腹も空いてきたので皆でメニューを選び注文する。
「ご注文をどうぞ」
「私はジュムーアステーキのデザートセットを」
「あたしは……」
「ジャネットは頼むならこれがいいんじゃないか?」
「そうかい。ならこれにするよ」
「こちらですね。そちら男性二名様は?」
「俺はハウルスカリーの大盛りのセットを」
「僕はどうしようか。デザートがあるなら普通でもいいかな?」
「リュート君。悪いことは言わないから大盛りの方がいい」
一度しか来てないのにリックさんってこのお店のことよく覚えてるんだなぁ。
「そうですか。だったら、ドーディアーの煮込みを大盛りのデザートセットで下さい」
「分かりました。ご注文は以上ですか?」
「はい」
「では、もうしばらくお待ちください」
こうして私たちは料理が運ばれて来るまでの間、皆で楽しくお喋りをして過ごしたのだった。




