肩の荷を下ろして
サバ―アークティックアリゲーターの情報と引き換えに、ここ最近で冒険者ギルドへと集まった情報を聞かせてもらえることになった私たち。早速ジャネットさんが質問を始めた。
「んじゃ、早速聞きたいんだけど、ここ最近の町の治安は? 一応こっちにもルイン帝国出身の奴はいるんだけど、最近は国へ帰ってなくてねぇ」
「国境関連以外では問題ありませんよ。治安も悪くなっていません」
「えっ⁉ 国境関連で何かあるんですか? 私たち、ルイン帝国へ行きたいんですけど……」
治安的には問題ないみたいなんだけど、国境には問題があるみたいだ。私たちにも関係しないことならいいんだけどな。
「恐らく今はどの国への入国でもそうなのですが、皆さんは妖精の誘拐事件を知っていますか?」
「ああ。話はちらっと聞いたとこがあるねぇ」
きっと私たちが解決した事件のことだろう。ただ、解決したといっても、誘拐された全員が確認された訳ではなく、捜索願が出されている妖精がいまだにいる。
「あの件で入国審査がとてつもなく厳しくなっているんです。それこそ一般受付は朝一に並んでも夕方だったりする日もあるんです」
「そりゃあ、流石に遅すぎやしないかい?」
ジャネットさんの言うことは最もだ。確かに妖精さんたちを捜すのは大切だけど、そんなに時間がかかるのだろうか?
「一般人は後回しですからね。商人たちも馬車の中身だけではなく、ランダムにマジックバッグの中身の提出を求められるので、そう言った確認に人を割いているのです。一般口の方は一人でそれをやるので、一グループだけで一時間とかかかるんですよね」
「それはギルドからも働きかけをしていないのか?」
「うちとしても護衛依頼を受けていない冒険者が国境を越えられないので話はしているのですが、如何せん内容が内容ですので。近々、増員はするらしいのですが……」
「はぁ。どうする、リック。変にここでストップがかかるのも面倒だよ」
「最悪、俺の方でそれは何とかしよう。入国さえしてしまえば問題ないさ」
「他にご質問はありませんか?」
「あっ、人気の魔石とか旅の冒険者でも色々買える魔道具屋さんを知りませんか?」
冒険者ギルドの人ならこういうことにも詳しいと思って質問をする。
「う~ん。一見のお客さんに紹介をしてくれる魔道具屋ですか。分かりました、私が紹介状を書きましょう。知り合いの冒険者が利用しているところがあるんです。そちらでしたら売ってくれるはずです」
「ありがとうございます!」
旅先で細工の材料や魔石を入手するのは大変だから助かるなぁ。他に聞きたいことはと。
「リュートは何か聞きたいことないの?」
「僕? う~ん、えっとね。その魔道具屋って価値の低い魔石とかもあったりしますか?」
ん? リュートにしては変な質問だな。ちらっとリュートの方に視線を向けると、ティタがちょっと首を背けている。質問の内容から考えて、ひょっとしてティタがリュートに伝えたのかな?
「価値の低い魔石ですか? それなら一緒に扱っていたはずです。ただ、向こうもしっかり管理をしてませんから、まとめ買いの形になるとは思いますが」
「分かりました。ありがとうございます」
「他に質問はありませんか?」
「そうですね。ありません」
一度、後ろも確認して私は答える。
「では、今回はご報告ありがとうございました」
「あっ、そう言えばアリゲーターの皮ってここでも買い取れるんですか?」
不意に思い出した質問を最後にしてみる。
「それでしたら一体当たり金貨二枚ですよ」
「結構高いんですね」
「ちなみにこれは皮だけの価格で、肉も入れれば金貨二枚と銀貨八枚です。肉もまとまった量が取れますし、生息域は特に何かある場所でもないので、人気がないんです」
「なら、この後は解体場へ行きますね」
「それではギルドの裏手に少し進むとありますから、そちらへお願いします。あっ、申し遅れましたが、私はトリアと申します。解体場や店では名前をお伝えください」
「どうもありがとうございます。フロートのリーダー、アスカです」
最後にトリアさんと自己紹介をして解体場へと向かう。この町の解体場は護衛依頼で訪れる冒険者が多いからか、あまり混んでいなかった。
「すみませ~ん」
「ん、見かけん顔だな」
「はい、今日この町に着いたばかりで、トリアさんからの紹介で来ました」
「トリアの? とりあえず、ものを見せてくれ」
「分かりました」
解体場の責任者と思われる人の指示で私たちは魔物を出していく。
「プラトーウルフにフォグオークか。トリアの紹介にしては普通だな」
「あと、これもなんですけど……」
私はサバ―アークティックアリゲーターを一体出す。
「なんだ、お前ら旅人かと思ったら、最近ここに住み着いたのか?」
「いえ、湿地の途中で出てきまして……」
やっぱりトリアさんと同じく、解体場の人も生息域を出るって思ってないみたいだ。
「湿地⁉ まぁ、一体ならあり得るか」
「それが、三体いまして」
私はちょっと申し訳なさそうに続けて出していく。
「これが全部湿地でか。トリアも紹介する訳だ」
驚きながらも解体師さんは魔物を解体していく。手際は流石に鮮やかで、すぐに作業は終わった。
「終わったぞ。それにしてもアリゲーター以外は弱いとはいえ、状態が良いな。これだけ数がいれば、一体ぐらいは状態の悪い物が混ざっているもんだが」
「そう言うんなら、ちょっとは価格にも乗せてくれよ。あたしたちも身体張ってやってるんだしね」
「うむ。まあ、この状態なら構わん。サバ―アークティックアリゲーターは一体当たり金貨三枚で引き取ろう」
「相場は金貨二枚と銀貨八枚だったはずだが……」
解体師さんの提案にリックさんも私も驚く。大銅貨数枚程度ならともかく、銀貨二枚って言うのはかなりの差額だ。
「そんなに驚くことはない。わしも見て驚いたが、こいつらはどれも急所を一撃で貫かれている。一体、頭をくり抜かれているのはどうやったか分からんが、これぐらいなら状態はいい方だ。特にこいつらは水辺などに棲んでいるからな。急に襲撃されて慌てて対応した結果、皮の状態が悪くなることが多くてな。他の個所に傷がないのは滅多にない」
「何だい。それじゃあ、別に色を付けた訳じゃないよね」
「そう言うな。こっちも国境の件で冒険者が荒れててな。護衛依頼にあぶれた奴が国内に拠点を持ってあまり移動しなくなったんだ。その所為で買取も価格を絞らなくてはならなくてのう」
残念そうに近況を語る解体師さん。アルバのおじさんと同じでもっと色々な種類を解体したいんだろうなぁ。
「それじゃあ、全部で金貨十二枚だ。端数分の繰り上げだけはしといたからな。それと、これがアリゲーターの皮と肉だ。肉はこれで足りるか?」
「はい。ちょっと扱える量が分からないので大丈夫です」
この町での滞在期間を長く取る予定もないし、宿だって厨房を借りれるとも限らないので、本当に少ない。コールドボックスの冷凍室に入れられる最低限の量だけを貰った。皮の方も加工が上手くいくか分からないので、小さいバッグが二つ作れるぐらいの量を用意してもらった。
「また来ることがあったらよろしくな」
「はい。お世話になりました」
お店を出ると暗くなってきていたので、宿を探すことにした。
「どこが良いですかね~」
「宿に関しては俺に任せろ。ある程度なら当てがある」
「なら、案内はリックに任せるよ。支払いもね」
「顔が利く宿だし構わんぞ。なら行こうか」
ジャネットさんの言葉にこともなげに答えるリックさん。そんなリックさんの案内で訪れたのは、立派な宿だった。
「ようこそ。ご予約のお客様ですか?」
「いや、予約はしていない。一室で構わないから空いているか確認したいのだが……」
リックさんが懐から何かを見せると、店員さんはすぐに手元を確認して部屋の確認を行う。
「お待たせしております。部屋の方は空いているのですが、少々お部屋の用意に時間がかかりますので、そちらでお待ちいただけますか?」
「分かった。待っていよう」
受付のお姉さんの案内してもらったソファに皆で腰かけると、部屋の用意ができるまで待ったのだった。




