到着と報告
「あっ、城壁らしきものが見えてきましたよ!」
湿地を進みながら、定期的に空から景色を確認していると、町らしきものが見えた。きっとあそこが国境の町ジェルベルグなんだ。
「なら、後二時間か三時間で着くね。軽く飯でも食うか」
「そうだな」
先が見えて来たので軽い食事と休憩を取る。といっても、余裕をもって着きたいので交代ありの三十分ほどだ。
「ん~、この干し肉のかみしめる感じが良いよね」
「干し肉と野菜だけなんて朝は文句を言ってたのに」
「それはそれ、これはこれだよ。きちんとした食事じゃないからこれでいいんだよ」
「全く、また変な理屈を言ってこの子は。なぁ、キシャル?」
《にゃ~》
ジャネットさんの言葉にキシャルは笑顔で返事をする。さっき火と水で急速に戻した干し肉をジャネットさんから貰って食べたからか、機嫌は良さそうだ。
「もう、現金なんだから」
味方を得られなかった私はサバーアークティックアリゲーターのことについて考える。実はこの休憩までも二体ほど出てきていたのだ。ほどというのは、かなり北側に反応があったものの、流石に街道から離れているので確認しに行かなかった分だ。
「う~ん、やっぱり言った方が良いよね」
「アスカどうしたの。悩みごと?」
「リュート。ほら、あの後もアリゲーターが何体か出たじゃない。リックさんの話だともう少し生息地は北だから、町へ着いたらギルドへ報告した方がいいのかなって」
「そのことを考えてたんだね。アスカの言う通り、ギルドへ報告した方がいいかもね。僕らはこの地方のことは知らないけど、変に生息域を広げてたら討伐依頼を出さないといけないかもしれないし」
「そうだよね。相談に乗ってくれてありがとう」
「これぐらいお安い御用さ」
リュートと話していて方針も決まったので、どういう風に伝えるか頭の中でまとめる。そうこうしていると、休憩を代わったリックさんも食事を終えたので、出発することになった。
「アルナもちゃんと食べた?」
《ピィ!》
周辺に生えている草も食べたよと言うアルナ。ちょっといつもと違う環境だから心配だけど、ひとまずは満足しているようだしいっか。
「後で薬だけは用意しておこう」
《ビカッ》
「あっ、マイはちょっと待っててね。MPはこれから使うかもしれないから」
しょんぼりと光るマイには悪いと思いつつも、安全には代えられないのでMPをあげるのは断る。
「全く、ご主人様にナイフごときが迷惑かけるんじゃないわよ」
そう言いながらティタは水鉄砲のように指先から水を放った。
《ビカッ》
「あっ、マイが水から魔力を吸い取って喜んでる。ありがとう、ティタ」
「いえ、こいつの相手は私に任せてください」
こうして私たちは湿地を抜け、ジェルベルグへと辿り着いた。
「止まれ。冒険者か?」
「はい。皆、所属は一緒です」
「ならそっちの列に並べ」
「分かりました」
衛兵さんに指示され、一般入口に並ぶ。流石に湿地を抜ける時に人を見なかったこともあり、あまり列にはなっていなかった。
「無事に街へと入れましたし、まずはギルドへ行きましょうか」
「そうだな。そうだ、ギルドといえばルイン帝国へ入るなら先に商人ギルドへ行って、国の登録を変えておくか? 先にやっておくと手間もないだろう」
「あっ、そうですね。じゃあ、冒険者ギルドでの用事が終わったら行きましょう。そう言えば、ここが国境の町なんですよね。明日にはもうルイン帝国側へ行きますか?」
ここ、ジェルベルグは東西で管轄する国がルイン帝国とルーシードに分かれる。あっちの方が依頼は受けやすそうだし、リックさんに提案してみる。
「ルイン帝国領の国境の町フォルドナだな。各依頼が国内扱いになるからその方がいいな」
「フォルドナ?」
リックさんの口から聞きなれない町の名前が出て来たので、聞き返す。
「ん、ああ。アスカにはまだ説明していなかったか。この町はルーシード側をジェルベルグ、ルイン帝国側をフォルドナと言い、名称を分けているんだ」
「へ~、何か意味があるんですか?」
確かに街の中央には国境を隔てる壁があり、そこで二国間を行き来するけど町の名前まで変わるなんて。
「明確に国境を越えたという証と、名前を分ける前は東西での荷物の混同が多くてな。西側のジェルベルグなんて言い回しは町の人間ならともかく、他の国や地方の人間には理解できず、荷物が届かないことが多発したんだ」
「なるほど。それは納得の理由ですね。じゃあ、今はそういうこともないんですか?」
「かなり改善はしたが、いまだにある。もし国名と町の名前が交ざっていたら、町の名前を優先してその町の商人ギルドの倉庫行きだ」
「アフターサービスが充実してますね」
てっきり、宛先不明で帰っていくのかと思った。だけど、流通網が発達してないし、返すのもそれはそれで大変か。
「まあ、受け取りに金はかかるがな。それと、送り主も何度も間違えるとペナルティがつく」
「へぇ~、受け取りにお金がかかるのは保管費用の問題だと思いますけど、送り主にもペナルティがつくんですね」
間違えるのは良くないけど、結構厳しめなんだな。
「あ~、あれだ。受け取りに金がかかるからわざと住所を間違えて送る輩がいてな」
あっ、商売敵とかが何らかの方法で間違った振りを装って損害を与えたことがあるんだ。商人の世界は怖いなぁ。なんて話をしながら歩いていると、冒険者ギルドへと着いた。
「いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか!」
「えっと、依頼の報告になるんですけど……」
ギルドの中へ入ると、元気なお姉さんに用件を聞かれる。旅をしていて過去一、威勢のいい声かけかもしれない。
「じゃあ、代表の方はこちらへどうぞ」
「あっ、はい。それと、ちょっとお伝えしたいことがあるんですけど……」
「ん~、それなら小部屋でも良いですか? 今、ギルドへ相談に来る方が多くて大部屋は空いてないんですよね」
「大丈夫です」
「ではこちらへ」
元気のいい声でお姉さんに案内され小部屋へと入る。そこには四人掛けのテーブルが一つだけ置いてあった。お姉さんが奥へと座ったので、私が向かいに座る。
「リック、座りなよ」
「俺で良いのか?」
「あんたのホームだろ。あたしらじゃ説明に手間取るだろうからね」
「分かった」
「あっ、お連れの方はそこへ重ねてある椅子をお使いください」
「はいよ」
お姉さんの言葉で入口の方を振り返ると、小さな丸椅子が三つ置いてあった。今回のようにテーブルに全員座れない時の物だろうけど、三つも使ったら後ろは狭いだろうな。
「ほら、キシャルもアルナもこっちに来な。アスカの邪魔だろ」
《にゃ~》
《ピィ》
ジャネットさんの言葉でアルナは肩へ、キシャルはお腹を抱えられ膝へ鎮座することとなった。
「そうだ。リュート、ティタをお願いできる?」
「分かったよ」
ティタにも会話に参加して欲しいところではあるけど、ギルドの人もいるので一度リュートへと預ける。
「それでお話しというのは……いえ、まずは依頼の方から片付けますか」
元気な声から一転。お姉さんは本題へと移行する。切り替えの早い人だなぁ。
「えっと、受けていた依頼はこれですね」
私はプラトーウルフ・アーチビー・フォグオークの依頼票をお姉さんに見せる。
「ああ、この三つの依頼ですね。ということは西から来られたんですね」
「そうなんです」
「では、完了報告の受付をしますね。カードをお願いします」
私がパーティーカードを出すと、お姉さんは機械に通していく。
「ん、アーチビーの討伐数がやけに多いですね。一週間ほどかけてこられたのですか?」
やけにアーチビーの討伐数が多いことが気になったのか、お姉さんはこちらへ質問をしてきた。
「あっ、いえ。群れで襲ってきた分ですね。襲撃も一回です」
「それは皆さん凄いですね。確かにアーチビーは群れを成して襲ってきますが、巣全体でも百匹程度しかいないんです。これだとその半数を一度に倒したことになりますね。その巣からはしばらくアーチビーも出てこれないでしょうから助かります」
お姉さんに褒められながら討伐依頼の処理をしてもらう。
「それでお話しでしたが、このアーチビーの件ですか?」
「あっ、いえ。サバーアークティックアリゲーターのことなんです」
「ああ、あの魔物ですか。わざわざ北ルートでこちらへ来られたんですか?」
「それが、街道近くで出くわしまして……」
「ちょ、ちょっと待って下さいね」
お姉さんは急いで湿地の地図を持ってくると、私にどこで出会ったのか聞いてきた。
「えっと、まずはここで次にここ。最後はここですね。後は確定じゃないんですけど、この辺にもいると思います」
「三か所いたのは分かったんですが、最後の予測は何故でしょうか?」
お姉さんがそう言うと、後ろでコンコンと小さく音が鳴った。
「いえ、愚問でしたね。何かサバーアークティックアリゲーターと判断した理由だけでもお聞きしても?」
「あっ、それはそういう形だったからですね。ただ、位置を見ても分かる通り、かなり街道から離れていたので後日の対応でも間に合うかと思って」
「確かに言われる通りですね。貴重な情報をありがとうございました。私の権限では上乗せの報酬を与えることはできませんので、代わりに何か聞きたいことはありませんか? これでも受付としてある程度の情報は持っていますよ」
「なら、折角だし話を聞いて行くか」
こうしてサバ―アークティックアリゲーターのことを伝え終えた私たちは、受付のお姉さんへ質問を始めた。




