湿地の難敵⁉
「アスカ、朝だよ」
「おはよ~ございます」
昨日は早く寝たせいか、今日はばっちり目が覚めた。顔を洗うためテントから出たら、ティタに水を出してもらう。
「ん~、冷たくて気持ちいい。ティタ、ありがとう」
「いいえ、ご主人様のお役に立てて光栄です」
「あっ。アスカ、起きたんだね。おはよう」
「リュート、おはよう。もう朝ご飯はできてるの?」
「うん。まあ、昨日と一緒でサラダだけどね。今日はちょっと時間をかけて、干し肉を戻したのを混ぜてるけど」
「へ~、楽しみ。もう食べられるの?」
「大丈夫だよ。ジャネットさんたちは待っている間、テントを片付けてる」
リュートの言葉を聞いて他のテントがあった場所を見ると、確かに片付けが終わるところだった。
「私も片付けてくる」
「アスカ、起きたんだね。いいよ、そのまま飯で。食ったら皆で片付けた方が早いさ」
「良いんですか? なら、お言葉に甘えて……」
一人でテントを片付けるのは大変だし、手伝って貰えるのは助かる。というわけで私たちはすぐに食卓を囲むことにした。
「いつものことですけど、リックさんには悪いですよね。見張りを頼んでしまって」
「しょうがないさ。誰かは立たないといけないからねぇ。そこをいくと、リュートは飯を作らないといけないから、あたしかリックになっちまうし」
「私もたまには代わりましょうか?」
「アスカが? いいよ、いいよ。後で飯を食うなら出発が遅くなるし、早く食べるなら早くに起きないといけないよ?」
「うっ、それはつらいですね。早食いも得意じゃないですし」
食べるのが遅いというか、噛むのが遅いんだよね。かと言って今より早くに起きるのは大変だし。
「別にアスカが無理しなくていいよ。僕も見張りは朝方だけだし、出発したら探知はアスカ頼みになるんだしさ」
「そういうこと。得意分野で補い合えばいいさ。それより、飯を食っちまわないとリックがいつまで経っても食えないよ」
「あっ、本当ですね。それじゃあ、食べちゃいましょう!」
朝からお腹が空いている中、見張りは大変だと思うので私たちは朝食を取ると、リュートが見張りを代わり、私とジャネットさんでテントを片付ける。
「ふぅ~、テントの片付けも慣れましたね」
「最初は杭の打ち込みにすら手間取ってたからねぇ」
昔を懐かしむようにジャネットさんが呟く。確かにあの頃はガンドンの重たいテントを開くのにも時間がかかっていた。
「そうでしたねぇ。あの頃は野営と言うより、日常で手一杯でしたから」
「歳よりくさいこと言うんじゃないよ。ほら、続きをやるよ」
「はい」
二人でテントを片付ける頃にはリックさんも食事を終えていた。男性とはいえ、食べるのが早いなぁ。
「アスカ、どうした。俺の方を見て?」
「いえ、リックさんって食べるのが早いなって」
「まあ、騎士団にいるとな。行軍中は急かされることも多くて、どうしても外だと早く食べてしまうのさ」
そんなことを言いながらさっさと片付けてしまうリックさん。う~む、一連の行動がスマートだ。
「何にせよ片付けは済んだんだし、確認をしたら出発するかね」
「そうだな。今日は一気に湿地を抜けるから余裕を持ちたいしな」
野営場所を出発すると、いよいよ湿地帯へと進んでいく。
「ここからはできるだけ先頭の人間の後を進んでくれ。隊列も一列にしよう」
「分かりました。先頭は誰が行きますか?」
「一番重たい俺が行こう。俺が足を取られないなら皆大丈夫だろうからな」
リックさんが先頭を行き、最後尾はリュートだ。私は前から二番目。これは探知を前後でバランスよく行うためだ。こうして湿地帯を進み始めた私たち。最初は水の割合が少なかったけど、進むにつれて水たまりも増えて来た。
「湿地に生えてるこの木、何とかなりませんかね~」
湿地もある程度進むと木も生えていた。細い木が重なり合うようになっていて、見通しも悪い。慣れない地形だからできるだけ見晴らしが良いと嬉しい。
「エアカッターで全部切ってみるか? 藪を突くだけだとは思うが」
「やめておきます。やらなくても出てくる時は出てきますし」
言葉通り、それから十分後。木が生い茂る向こうに何やら反応があった。
「ん、何かあの向こうにいますね」
「分かった。一旦止まる。形は?」
「形は……人型ではありますけど、微妙ですね」
「人かもしれないってことかい。厄介だねぇ」
未知の敵と思われる存在に警戒しつつ進んでいく。これが魔物なら先手を打って攻撃するんだけどね。
「アスカ、もう分かるか?」
「うう~ん。湿地が初めてのせいか霧に少し魔力がかかっていて、うまく体形が掴めないんです。人型なのは間違いないんですけど……」
「しょうがないさ。いるのが分かっているだけでも違うんだし」
「そうだな。このまま警戒を続けて進もう」
そして、少し進むと相手の姿が確認できた。
「あれは……オーク種ですね」
「討伐依頼を受けているフォグオークに間違いないな。これで手加減は不要だ」
「そうですね。僕も前に出ます」
人型が魔物だと分かったところで隊列を変更して、戦闘態勢に入る。
「私も弓で援護します」
「頼む。こちらも足場が悪いからあまり動きたくない」
相手がこちらに気づいて近づこうとするところへ私は弓を射かける。
「えいっ!」
連続で矢を放つと、一体に命中し倒す。目に見える残りは五体。足場が悪いから私とリュートが頑張らないと!
「リュート、私たちが空から行くよ!」
「分かった。フライ!」
私とリュートは空を飛ぶと、フォグオークたちを倒すためそれぞれ得物を構える。リュートは魔槍を短くして、私は最近買った魔力杖へと持ち換えて魔力をためる。
「「いけっ!」」
それぞれが放った魔弾がフォグオークの頭を射抜く。
「わっ、思ったより使いやすい。これなら連射で倒せそう」
「なら一気に行こう!」
「分かった」
リュートと協力して空からフォグオークを狙う。元々擬態する訳でもなく、足場の悪さが問題の相手だったので、すぐに戦闘は終わった。
「ふぅ~、終わったね。お疲れ様、リュート」
「アスカこそ。怪我はなかった?」
「うん」
「お~い。降りてきなよ」
「あっ、はい」
オークを倒したことを確認すると、私たちはジャネットさんたちの元へと戻る。
「お疲れ様でした。他に魔物はいないみたいなので素材の回収だけ済ませますね」
「分かったよ。探知はしてると思うけど、足元には気を付けなよ」
「了解です!」
ビシッと敬礼を決めて再びフォグオークたちを回収しに行く。
「ん? 何だろうこのサンドリザードみたいなのは……」
ジャネットさんに言われ念のため探知を再度してみると、湿地の水たまりに何か反応があった。
「アスカ、どうしたの?」
「リュート、そこの水たまりに何か反応がない?」
「水たまり? う~ん、僕には厳しいかも」
「全く、だらしないわね。ちょっと見てなさい」
「あっ、ティタ」
私が詳しいことを聞く前にティタが水を空へと舞い上げる。すると、その中に大きな物体があった。
「あれは……ワニ?」
そう言えば、日本じゃ見たことなかったけど、ワニって湿地にも住んでるんだっけ。これからは水面にも気を付けないと。地中や水面といった風が及びにくいところは特に探知が難しい。僅かな動きによる振動や隆起を見逃せないからだ。思ったより湿地を抜けるのは気を遣うかも?
「とりあえず、止めを刺さなきゃ。ん~、ケノンブレス!」
私は一定の大きさに調整すると、真空を作り出す特殊な風魔法をワニの頭へと放った。
「アスカ、大丈夫かい?」
「あっ、ジャネットさん。大丈夫です。魔物は……無事に倒せたようですね」
「そりゃ、良かった」
「アスカ、大丈夫か?」
「リックさん。問題ありません、ティタが空へと上げてくれたので」
「全く、誰かさんがこんな魔物がいるって事前に説明しないから」
「悪かった。こいつはサバーアークティックアリゲーターだな」
「な、なんか難しい名前ですね」
水たまりにいたけど、何か特殊な能力を持っているワニなのだろうか?
「音は難しいが要は生態を示しているだけだ。クロコダイル種の中でも珍しく、寒冷地でも生息できる種類でな。本来はもう少し北を生息地にしているんだが……」
「じゃあ、特徴があるって訳ではないんですね?」
「そうだな。種族の特徴として硬い鱗に守られてはいるが、この種だけの特徴といえば生息地ぐらいだ」
「良かったです。それなら、この個体以外が出ても大丈夫ですね」
厄介な能力はないみたいなので、後は潜んでいるのを見つけるだけだ。私たちはその後も水たまりに注意しながら湿地帯を進んで行った。




