高原の切れ目で
食事も済ませ、いよいよ見張りだ。久し振りの見張りだというのに目の前にあるのは小さなロウソクの光だけ。
「はぁ~、お肉も焼けないし、これじゃあ細工もできないや」
この頼りない火を消して、自分の光魔法を使えば細工をできなくはないんだけど、それをすると周りから目立つ。魔物たちは変化に敏感だから襲われる可能性が高まる。
「別にそのままでも討伐依頼の分ぐらいは出会えそうだから意味がないんだよね。皆に迷惑かけちゃうし」
寝ている間に襲撃があれば飛び起きないといけない。いくら敵が弱くても、その時点で負担が大きいのだ。
「大人しく本……も読めないから、弓の練習でもしよう」
弓の練習と言っても的を出しての練習はできないから、型の練習だけだ。
「う~ん。型の練習だけなんて昔を思い出すなぁ。細工を始めてからは本当に久し振りかも?」
やっぱり同じことを続けてると飽きるのもあるし、納品の関係もあるからこういう時間は細工をすることが多かったからね。とはいえ、一時間もすれば飽きるもので何とか変化を付けてみようとする。
「う~ん、連射の構えはやっぱり難しいな。もしアルバへ戻ることになったら、ロビン君に聞いてみようかな?」
どうしても私だと矢を連続でつがえるところで詰まってしまう。これまで培ってきた技術と一矢に比重を置く私の構えが連射とマッチしないのだ。
「これ以上続けても変な癖がつきそうだし、今日はここまでにしておこう」
結局この後はティタと少しお話をして交代の時間になった。
「それじゃあ、後はよろしくお願いします」
「はいよ。アスカもちゃんと寝なよ」
「はい。それじゃあ、おやすみなさい。ジャネットさん」
私はジャネットさんに挨拶をしてテントに入る。中ではすでにアルナが寝ているので、起こさないように静かに着替えて横になった。
「アスカ、朝だよ」
「んっ。ジャネットさん、おはようございます」
昨日はほとんど何もできなかったせいか、今日の目覚めはいい。いつも通りリュートが朝食を用意してくれているので、ティタに水を出してもらい顔を洗ったら食べる。
「朝も干し肉なんだ……」
「昨日の夜の食材がないからねぇ」
がっかりしながらも朝食を取ったら出発だ。こうして出発すること約一時間。私たちの前には蜂の大群が立ちはだかっていた。
《ドゥー》
《ドゥードゥー》
「ちっ、うじゃうじゃと。リュート、左は任せるよ!」
「分かりました」
「リックはアスカの護衛を。こんだけ数がいちゃ、あたしらじゃ無理だ」
「了解だ」
アーチビーはリックさんの情報通り、群れでやって来た。ただ、その数が問題だ。ざっと見ただけでも五十匹はいる。
「リュートが左を抑えてくれるなら……ストーム!」
私は中央から右寄りに向かって嵐を放つ。私の魔法は数を頼みにしているアーチビーの大群をたちまち飲み込んだ。
「ナイス!」
「うち漏らしへもう一度仕掛けます」
「あいよ」
外側にいて魔法の範囲から辛くも逃げ出せたアーチビーへ追撃を行う。蜂だけあって動きは早いものの、風の勢いでうまく飛行が出来ないところへ風の刃が襲い掛かった。
「残った奴は任せな。アスカはリュートの方を!」
「分かりました」
数の多かった右側は掃討戦に移ったので、私はリュートの方を見る。こっちは数が少ない分、対処に苦慮しているようだ。
「リュート、そっちはどんな感じ?」
「アスカ。強くはないんだけど、全部倒すのは難しい感じ。的が小さいのも影響してて……帰ってくれればいいんだけどね」
「全くだ」
何て感想を述べながらもリュートは魔槍で、リックさんは剣で正確にアーチビーを両断している。うう~ん、二人とも凄いなぁ。私は弓で同じことをするのは無理だ。
「おっと、私も援護しなきゃ。今回はマイの出番はなさそうだね」
《ピカッ》
残念と言うマイ。ファングバードみたいに風魔法で飛んでいる相手なら活躍できるけど、アーチビーは普通に羽根で飛んでるからね。
《ドゥー》
「わっ、危ない!」
そんなことを言っていると、近くにいた一匹のアーチビーがこっちにやって来た。私は咄嗟にマイを抜き放ち、アーチビーを切り捨てた。
「ふぅ、驚いた~」
「アスカ、気を抜くな!」
「はい」
その後は相手の数も少なくなり、結局襲ってきた全てのアーチビーを倒した。
「全部で何匹いました?」
「さてね。数えるのも嫌になるよ。リックは分かるかい?」
「全く分からんな。ギルドへ行った時に数を確認すればいいだろう」
「その手がありましたね! それにしても単体だと強くないですけど、あれだけいたら大変ですね」
「本来はDランクの強さもないからな。だが、これだけ群れられれば厄介だ。俺たちは刺されていないが、麻痺毒もあるしな」
こうして再び街道を行く私たち。途中から高原地帯の終わりも見えて来た。
「この調子だと思ったより早く抜けられそうですね」
「ああ。代わりにフォグオークの生息域にも入るから気を付けるんだ」
「分かりました」
リックさんの話によると、偵察組が湿地からこちら側へと出てくることもあるらしい。まあ、その時は特徴のない魔物なのでオークと思っていればいいみたいだ。
「それと、後三時間ほどで野営地だ」
「早くないですか? 僕ら、まだ出発してそこまで経っていませんよね?」
「まあな。だが、進み過ぎると湿地に入ってしまう。あそこを一日で抜けるにはしょうがないのさ」
「足場の悪いところで野営は勘弁してもらいたいねぇ」
「だろう? という訳だ。高原の討伐依頼はもうクリアしているし、ゆっくりしよう」
そんな訳でその後も一度だけ魔物の襲撃もありながら、無事に野営地へと着いた私たち。今日はまだ日が高いので、私は細工をすることにした。
「アスカ、テントは張り終えたよ。細工するならそっちでお願い」
「ありがとう、リュート。じゃあ、私は細工してるから何かあったら呼んでね」
「分かったよ。それじゃあ」
「うん」
高原が珍しいからか、アルナもキシャルも外だ。テントの中には私とティタだけ。気を遣わなくていいのは助かるけど、それはそれでちょっと寂しい。
「な~んて言ってないで、細工を始めよう」
結局、最近作れていなかった各地へと卸す細工を作ることにする。
「ここは白くてかわいいくちなしの花を題材にしようかな? 裏に魔石を置けば花の形は関係ないし」
花は花弁の大きさで魔石を配置する難易度が変わるけど、裏側なら関係ない。ただ、細工に厚みがでちゃうからそこだけは注意だ。ブローチとか髪飾りならいいけど、ネックレスには向いていない。だから、どっちかと言うとブローチとかなら、花びらが反り返るぐらい大きく開いてくれる花が一番いいんだよね。
「さ~て、それじゃあ作業開始だ」
今からだと夕食までの三時間と食後の一時間ほど。私は時間を無駄にしないよう、細工に打ち込んだ。
「アスカ、一旦食事にしようよ」
「ん、リュート?」
二つ目の細工が終わり、次に手をかけようとしたところでリュートが話しかけて来た。
「いいタイミングだね。ちょうど切りがいいから食事にしよう」
テントから出ると、すでにジャネットさんたちは食事を取っていた。まあ、食事と言っても干し肉と切っただけの野菜だけど。
「おや、細工の方はいいのかい?」
「はい。ちょうど二つできたところです」
「そいつは良かった。細工ってことはMPも使ったんだろ? 今日は早く寝たらどうだい。見張りぐらい三人もいれば足りるさ」
「良いんですか?」
助かるけど、皆の負担が増えちゃうのに。
「それで言えば俺のわがままで強力なバリア魔道具を作ってもらっただろう。気にするな」
「そうそう。あの魔道具を使えば、見張りと言ってもこの辺りじゃ問題ないよ」
「う~ん。じゃあ、お願いしていいですか?」
リックさんやジャネットさんに勧められるがまま、私は見張りをしてもらうことにした。その代わり、MPに余裕が出来たので当初の予定より少し長く細工をする。
「よし! これで何とか四つできた。MPも消費したし、辺りも暗くなってきたから寝よう」
《ピィ!》
「あっ、アルナもいつの間にかいたんだね。もう寝る?」
アルナももう寝るというのでおうちを出してあげる。
「それじゃあ、私は皆に挨拶だけしてくるね」
《ピィ》
元気な返事を受けてテントを出る。
「ん、アスカ。細工の方はもういいのかい?」
「はい。暗くなってきましたし、これ以上はちょっと大変なので今日はもう休もうと思って」
「休みをちゃんと自分で取れるのは良いことだよ。そんじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい。リックさんもリュートもおやすみなさい」
皆に挨拶をすると私はテントへ戻る。細工で程よい疲れがあるからか、今日はすぐに寝れそうだ。
「アラシェル様、おやすみなさい」




