ユーリの成長
「…ここか。やはり既にいない。…気配も探れない。…魔道具で消されている。」
空間魔法を使いカノンが見た光景の店まで飛んだオウギとエリザベス。しかしそこには荒事があった痕跡はあるものの肝心のユーリ達がいなかった。それを確認したオウギは地面に手を当てユーリの魔力を探ろうとするが探知に引っかかるものはない。
「…っ、お店が。こんな街中でなんて。…それに床に血も…『集血』。」
店の破壊のされ方を見て眉をひそめるエリザベスだが床に残された血液に対して魔法を唱える。するとエリザベスの手にあるビンに血が集まる。回復魔法では傷は比較的簡単に治せるが血液の不足を補うのは魔力を大量に消費する。ユーリとティーシャの2人が重症を負っていた場合の事を考え輸血用の血液を回収しておく。
「…血液は一種類だけですね。恐らく…ユーリさんのものでしょう。」
集められた血液はビンの一つに集約していた。それを見たエリザベスが結論を出す。
「…ここから何か…痕跡を探さなければいけない。…魔力痕、足跡、匂い…。」
オウギは店の中に入ると歩き回り散らばる破片などを丹念に調べる。
「…ん?…これは…グーちゃん!。僕です、オウギです。」
ある所に差し掛かったオウギは覚えのある気配を僅かながら察知する。そして自分の魔力を少し解放する。
『…ズズ……ズズズ…プルル。』
それまで目の前にあった壊れた椅子の脚の部分が液状化しスライムになる。戦闘で唯一その身を隠し続けたグーちゃんであった。オウギの姿を見てすぐに模倣を解かなかったのは警戒していたから。それだけ自分の役割が重要だと理解していた。
「…グーちゃんだけがここに?。…いや残したのか。グーちゃんのサイズが半分になっているから…やられたのか?。いや、まてよ…」
「あの、この子の体力は回復できないです。…なのでダメージを負ってはいないと思います。」
「…ユーリは勝てない事を悟った。そしてカノンを身を削ってまで僕に託した。それでもカノンの情報だけでは不十分な事態になっている。なら…グーちゃんの役割は…」
「まさか、そんな事が出来るのか?。」
ある一つの可能性に思い当たったオウギはグーちゃんに触れながら探知の魔法を使う。するとある一点にさっきまでと違う強い反応がでる。
「…見つけた。やっぱりそうだったんだ。グーちゃんは魔道具の探知阻害を貫通する。自分を2つに分けているからだ。」
グーちゃんに与えられた役割。それは受信機として居場所を伝える事。ユーリは襲撃されまで敵の気配に気づかなかったことから何か転移魔法を使って接近したと気付いていた。ならば探知に対しても対策をとっている可能性は大いにある。それを打破するため戦力になりたがるグーちゃんを念話で説得してこの場に半身を残したのだ。
「ユーリ、いつのまにそこまで考えて行動出来るようになっていたんだ。」
「オウギ様、女の子は、特に強い想いのある女の子は日々成長しているんですよ。誰かの役に立つために。」
オウギの足を引っ張らぬよう、力になれるように努力を続けたユーリの気持ちが痛いほどわかるエリザベスがオウギに答える。
「…嬉しいですね。ユーリの成長は。」
ユーリの成長を感じながらオウギとエリザベスはグーちゃんを媒介にして飛ぶ。ユーリは役割を果たした。ならここからは大人の時間。大切なものを傷つけられたノージョブの反撃が始まる。