襲撃 それぞれの使命
「ねぇねぇ、ユーリちゃんこんなのはどう?。わたし的には少し露出が多いと思うんだけど…若いから似合うと思うわ。」
ホーランジアの街の中心街。服を取り扱う店の中でティーシャは手に持つ服をユーリの体に当て吟味していた。
「え、あのー、このお腹の所が空いてるのは…なんでなんですか?。お腹が冷えちゃいます。」
ユーリは体に当てられた服の中心お腹部分の布がないことに驚きその意味を尋ねる。
「…それはオシャレだからよ。この世の中の事の半分はそれで説明がつくわ。」
完全に暴論である。当然領主の妻であるティーシャは世の中が綺麗事だけで回るほど甘くないことを知っている。ユーリをからかっただけだったのだが、
「ほえー、そうなんですね!。勉強になります!。」
ティーシャの言葉を疑わず純粋な目で見つめるユーリ。
「んもー!ユーリちゃん可愛いわぁ!。じゃあこの服も買うことにするわね。」
ユーリを抱きしめたティーシャがこの服の購入を決める。
「あ、あぅ、またです。…そんなに服を買ってもらって申し訳ないです。」
「あ、そう言えばユーリちゃんの服なんだけど…市販品じゃ…ないわよね。そんな模様見たことないわ。この攻めのデザインはもしかして…」
服を店の店員に預けたティーシャがユーリの今着ている服に視線を向ける。この控えめな性格の女の子が着ている服は明らかに並みのものではない。経験からそう断言出来る。
「こ、この服はクリーナさんが作ってくれたんです!。精霊さんの力も込められているので破れても直るんです!。」
「えぇ!あの、クリーナの作品なの!。しかも…既製品じゃなくてユーリちゃんの為に作られた一点物!。一体どうやって…」
「お、オウギ様がクリーナさんを助けた時に私にも作ってくれたんです。」
「成る程…個人的な人脈という訳ね。となると…手に入れる事は難しいでしょうね。そもそもクリーナの作品は余り流通する物ではありませんしね。ユーリちゃんは良い人に貰われたわね。」
「はい!オウギ様は私のことを大切にしてくれます。本当ならあの街で一生を終えるはずだった私を連れ出して下さいました!。色々なものを見ることが出来るようになりました。そのご恩は決して忘れません!。」
「カノンちゃんもオウギ様のことが大好きなんです!。ね!カノンちゃん。」
『…キュ………。』
ユーリの問い掛けに静かに一つ鳴いたカノン。それは肯定を表すものだった。
「仲が良いのね。…オウギさんはとても強いわ。でも強さは時に人を孤独にすることがあるの。だから…その時はユーリちゃん達が力になってあげてね。」
「あと、うちのエリーが…」
「手を挙げろ!。顔を挙げるな!、前を見るな地面だけを見ていろ!。」
突然店の中に人が雪崩れ込んでくる。剣で武装した男達はティーシャとユーリを囲むと剣を背中に当て手を挙げるように要求する。
「…なんのつもり?。私が…領主ザラス・ノードルマンの妻と知っての行動かしら?。」
自身を取り囲む集団にティーシャが問いただす。その口調は今までの砕けたものでなくその地位に則ったものだった。
「あぁ、勿論だよ。…そんでその隣があの護衛の連れだってことも知ってる。悪いなぁ、お二人さん、ちょっと一緒に来てもらおうか。怪我したくないだろ?なら大人しくしててよ。」
集団の中から1人の男が進み出る。この軍団の頭であろうその男は円を描くように歩きながら警告をする。
「…何が目的?、お金?それなら私だけいればいいはずよ。この子は…」
「違う、違う、違うなぁ。どちらかというと用があるのはそっちのガキの方なんだよな。ボスがお呼びなんだ…」
「今です!カノンちゃん!この事をオウギ様に!。グーちゃんは2番です!。」
今まで黙っていたユーリが腰のナイフを抜き、目の前の男に投げつける。投げつけられた男は咄嗟の事で防御出来ず足にナイフが突き刺さる。そして包囲が崩れた所からカノンが飛び出し店の出口を目指す。
「な⁉︎このガキ!。お前ら…逃すんじゃねーぞ!。死んでなきゃ多少は構わねー!。」
ユーリの行動に驚きながらもリーダーの男は周りに指示を出す。
『キュキュー‼︎。』
「行かせるかよ!。『旋風』‼︎。」
カノンに向かって魔法が唱えられる。風の渦がカノンの背後にせまる。
「…カノンちゃん!そのまま行って!。きゃぁぁぁぁ‼︎。」
しかしそれを身を呈して防ぐユーリ。渦によって皮膚が裂かれ血が飛び散る。
『キューーー‼︎。』
そのユーリの血を浴び自らも裂かれながらカノンは懸命に出口へと飛び、ついに外に出る。そしてそのままオウギの元へと向かう。
「クソが!一匹逃した!おい、ずらかるぞ早く連れて来い!。」
「…てめぇ、舐めた事をしてくれるじゃねーか!。おら!おら!おら!。」
リーダーの男が撤収を支持するがユーリにナイフを投げつけられた男が倒れたユーリを執拗に蹴る。
「やめなさい!こんな子にそんな事をして心は痛まないのですか!。」
体を2人の間に滑り込ませユーリを守るティーシャ。
「痛まねーな。俺らはそんな上等なもんじゃねーんだよ。このガキを殺されたくなかったら…大人しくついて来やがれ。あぁそうだ、運ぶのが面倒だ、お前がそれを持てよ。断るなら引きずって連れて行くからな。」
「…っ、分かりました。だからもうこの子には何もしないで。」
「それはボス次第だ。場合によっちゃ…こうだな。」
首を搔き切るジェスチャーをする男。
『…グー…ちゃん。お…願い…。』
ユーリの唇が動くだけの音の出ない言葉は使い魔であるグーちゃんにだけ届く。今回の戦闘に一切参加しなかったグーちゃんはその使命を全うする為感情を堪え存在を希薄にするのだった。そしてユーリを抱いたティーシャを引き連れ男たちは転移で消え去った。




