起きた事変
「…あれ?…まだユーリ達は帰ってきてないのか。」
4日目の会談を終えノードルマン邸に帰ってきたオウギはいつもなら出迎えてくれるユーリとカノン、グーちゃんがいないことに違和感を覚えていた。
「ティーシャもまだのようですな。いや、いつも連れ回してしまい申し訳無い。この娘が早くに独り立ちしてしまったので…娘を持つ親らしいことを出来るのが嬉しいのでしょう。」
ザラスが困ったような苦笑いの顔をして頭を掻きながら言う。娘のエリザベスは幼い頃から聖女と呼ばれる程の治癒の能力を世の中のために使う為旅に出ていた。
「お父様、私は領主の娘として何不自由なく暮らしてこれました。ならばこの身に宿ったこの力を世の役に立てるのは当然のことです。…その、お母様に寂しい思いをさせていたのは…反省していますわ。申し訳ございませんオウギ様、母にはよく言っておきますので。」
エリザベスが少し拗ねたように言う。エリザベス自身も冒険者として旅をするのが好きなので実家に帰る機会を減らしていたことを反省しているのだ。
「あぁ、別に困ってるって訳じゃ無いんです。ユーリ達も喜んでいるので。やはり僕では女の子のことは分かりませんからね。」
「そうですなぁ。…それにしても…ティーシャはこういうことにはしっかりしているので…誰か人をやって探させましょう。恐らく商店…」
オウギの意見に賛同しつつ、嫌な予感がするのか誰かに探させに行かせようとするザラス。しかしその声は遮られることになる。
『パリーーンッ‼︎。』
部屋の窓が破られそこから白い塊カノンが飛び込んでくる。
『…キューーッ‼︎。…キュキュキュ!キュ!。』
着地に失敗して床をゴロゴロと転がるカノン。体には複数傷が付いており血も流している。しかしそんな事など気にもとめずオウギの姿を確認して飛びつく。
「カノン⁉︎。その傷はどうしたんだ!。ちょっと待って今回復を…」
カノンの傷に回復魔法を使おうとするオウギ。しかしそれすらもカノンが遮り頻りに頭を擦り付けてくる。それを見たオウギはある行動に出る。
「…『かの者の瞳に写りしものを我が前に現せ。』…これは…。」
カノンの記憶を覗くオウギ。その手は自然と握り込まれていく。オウギが自分の記憶を見たことを見届けたカノンは気を失ってしまう。
「…カノン、良く頑張った。ここからは僕がやる。君はゆっくり休んでおいてくれ。…すいませんザラスさん、エリー、敵の狙いは僕のようです。それにティーシャさんを巻き込んでしまった。」
「敵はイシュタル家当主。街で大勢で襲い掛かられ連れ去られたようです。その時咄嗟にカノンを逃したようです。」
「なんと!ロイドめ、そこまでするのか!。今すぐ兵を送る。それに…」
「僕がいきます。…カノンに付いた血はカノンだけのものでなかった。ユーリのものも付いていた。今すぐに向かいます。」
風の魔法を使い街を駆けようとするオウギ。その手をエリザベスが掴む。
「私もご一緒致します。あの時のご恩をお返しする時です!。」
「オウギ殿、是非エリーを連れて行ってくだされ。その回復魔法は必ずお役に立ちます。」
「…分かりました。それでは…『天翔』。」
オウギとエリザベスの姿が消える。
「…おい!だれかいないか!。イシュタル家以外の大公家当主に使いを出せ。それと兵を送れ。恐らく戦闘になる。住人を避難させるのだ。この家の敷地を使っても構わん。」
2人を見送ったザラスは自分の役割を果たす。自分にこれからの戦いに介入する力は無い。しかしするべき事は多くある。例え愛する妻の安否が不明でも職務を遂行する。それが領主なのだ。
「頼みますオウギ殿、貴方が闇を払う星であると信じている。」




