神託
「…これで3日目の会議は終了ですかな。」
七大公会議は3日目の終わりに差し掛かっていた。初日と打って変わりここ2日は特に問題もなく議題が消化されていく。初日に揉め事を起こしたイシュタル家当主も大人しく討論を交わしていた。連れている護衛は初日とは違い女性、オウギが宿で言葉を交わした者に変わっていた。粗相をした前護衛がどうなったのかは想像に難しくない。
「ええ、既に粗方の議題は消化し終わりましたな。あとは個別案件になるかと思います。」
ザラスの言葉に反応したのはハイヘルムであった。個別案件とはそれぞれの領主が個別に話し合いを設けることで隣接する領地などで行われる。それにより小競り合いの発生を未然に防ぐ意味もある。
「…それではその個別会談は明日からに致しましょう。後程明日の行程を使者に届けさせます。」
ザラスの言葉を受け護衛を引き連れ部屋を後にする大公達。しかし1人の大公がザラスの元へやってくる。他の大公達が退室したのを確認したその大公はザラスの目を見据え話し出す。
「ザラス殿、貴方に神託が降りました。キアラ・ライオルトの名において貴方に伝えます。」
ライオルト家当主キアラ・ライオルトは銀髪の女性で神秘的な雰囲気を漂わせている。ライオルト家の当主は代々ある適性を継承する稀有な一族である。一族の女性にだけ受け継がれるその適性は時にこの国を救うこともあった。その功績から大公家に叙されている。
『七連の星に陰りが訪れる。背徳の星は更なる闇に連なる者に付き従う。しかし慌てることなかれ。混ざりし星が闇を払う。』
詞を歌い上げるようにキアラが言う。キアラ自身も発言の意味を理解することはない。ただ伝達するのみ。色々な意味で神が降りて来た感じである。
「…七連の星。…それに闇に付き従う者。うぅむ、確かに神託を授かりました。」
「…はい…。っと、久し振りですね、神託が降るのは。内容はお聞きしても大丈夫でしょうか?。」
キアラが纏っていた雰囲気が和らぐ。キアラ自身は自分が何を言ったかも知らない。ただその対象者の前に立つと神託を無意識に述べるのだ。そんなキアラにザラスは今聞いたばかりの言葉を伝える。
「…七連の星ですか。7という数字は偶然ではないですね。恐らく…」
「我ら大公のことでしょう。闇に付き従うは…魔族の可能性もありますな。問題はその背徳の星が誰か。」
「…現状で下手な推測はやめておきましょう。」
ザラス、キアラの頭にはイシュタル家当主の顔が浮かんだが証拠はない。下手な推測は初動の遅れをもたらすことになることを2人は理解していた。
「…少し考えがあります。明日もう一度よろしいですか?。」
「勿論、私としてもザラス殿とは会談を設けたいと思っておりましたから。」
ザラスとキアラは握手を交わし密談を終えるのだった。
(この神託が私に降ったと言うことは…その状況を動かすのは私と言うこと。そして星は大公、…もしくは…。オウギ殿に少しご助力いただくことになりそうか。)
ザラスは1人考える。神託が大公全員でなく自分だけに降った理由。それは舵を切るのが自分である証拠。そして…大波を起こせる可能性がある人物にも心当たりがある。これから起こるであろうことに思いを馳せながらザラスの思考は加速していく。
「…それで、ノードルマンの護衛の事はわかったんだろうな?。」
「は、はい。…これまで殆ど表に出ていなかったそうです。最近突然現れたと。冒険者をやっているらしいですがランクは不明。ただAランク冒険者ガロウと交流があるそうです。」
「ふんふん、…それだけか?。なら…お前は死ね。」
ロイドが報告を行った黒服に銃の引き金を引く。何かリアクションを起こす間も無く男は事切れる。
「他には無いのか?。…無ければ全員死んでもらうが。」
「…そ、その護衛は1人の子供を連れています!。獣人の奴隷で大切にしているそうです。」
「ほぉー、そいつは有益な情報だ。…なら次の仕事だ。その奴隷を拉致してこい。生きていればそれでいい。時間はそうだな、…2日後の夕方までだ。成功すれば幹部に取り立ててやる。さぁ!行け!。」
「…そこからアネッサお前の仕事だ。人質を取られ手出し出来ないあの護衛を嬲り殺しにしてくれ。」
「うーん、気が乗らないけど…そういう契約だしね。私の望みのために…やっちゃうか。」




