クリーナを知る男
「…そうだな、ここでは少しあれだ。場所を移そう。…俺の店で良いか?。」
「え、えぇ、僕達は別に構いませんが。…1つ、僕達が貴方の依頼を受けるかどうかは話を聞いてから決めさせてください。僕はこの子をちゃんと育てないといけない。僕が真っ当だと認めた依頼以外は受けません。」
流れのままに男について行きそうになるオウギ。しかしユーリの事を考え断りを入れる。この世界は決して綺麗な事だけではない。冒険者なら自ら進んでその方向へ行かねばならない時もあるだろう。それでも…自分の庇護下にある内は段階を踏んで育てていきたいとオウギは思っていた。
「あぁ、それで良い。俺としては寧ろ兄ちゃん達への信頼が跳ね上がったがな。」
そんなオウギの言葉を聞いて男は相好を崩して笑う。そして目線でついて来いと合図し冒険者ギルドを出る。
「…行こう、ユーリ。」
「悪いな、こんな所に来てもらって…って、まぁ俺の城なんだけどな。」
男に案内されてオウギ達はクリーナの服を購入した店にやって来ていた。
「そんで…先ずは名乗っておくか。俺の名前はガードル。…一応この街で装飾を生業としている連中のまとめ役を任されている者だ。」
「えーと、僕の名前はオウギです。そしてこの子がユーリ、あとはカノンとグーちゃんです。」
男、ガードルから自己紹介を受けたオウギが名乗り、ユーリやカノン、グーちゃんの事を紹介する。
「ふんふん、兄ちゃん達は冒険者って事でいいんだよな?。」
「…ええ、そうですね。冒険者ギルドに所属しています。カードは…すいません訳あって開示出来ないのですが…」
「あぁ、それは別に構わない。…俺も昔は冒険者なんかやってたからな。分かるんだよ、兄ちゃんが只者じゃねぇってのがな。そんでそんな兄ちゃんにさっき言ったように頼みたい事があるんだ。」
「その前に良いですか?。貴方はクリーナの何を知ってるんですか?。」
「…どこで気づいた?。」
「守ってやってくれって言葉ですね。守ってくれではなくやってくれなのはその存在をしっかり認識しているから。それに初めて会った時から貴方からクリーナを守ろうとする気配を感じていました。」
「俺の目もまだ曇って無かったって訳か。…兄ちゃんの言う通り俺はクリーナの事を知っている。そして今の状況もな。…ここから先は依頼を引き受けてくれないと話せない。どうする?俺は兄ちゃんの意思を尊重するぞ。」
「…オウギ様…」
「うん、分かりました。この依頼、受けさせていただきます。」
「おぉ、そうか!。…それじゃあ詳しく話すぞ。…兄ちゃんはこの街にスラムがあるのを知ってるか?。」
「?、いいえ。こんな綺麗な街にあるんですか?。」
「あぁ、人が集まるところにはそこから何かしらの理由であぶれた奴が集まるところがあるもんだ。この街も例外じゃねぇ。そんで俺がクリーナと出会ったのはそんなスラムの一角だった。」
「冒険者から足を洗って次の仕事のタネを探してスラムを歩いてた。その時クリーナに出逢ったんだよ。なんてことはねぇ只のスラムのガキだった。そんで例に漏れず物乞いさ。偶々懐に小銭があったから恵んでやったさ。そしたらクリーナは一枚の布を渡してきた。何処からか拾ってきた布切れを縫い合わせて作ったそれは斬新にして激烈。俺は目の前の子供の才能に驚いた。そして自分の秘める可能性について説いた。」
「それから俺は服飾の店を始めた。そして偶にクリーナから買った商品を並べてたのさ。勿論ちゃんと金は払ってたぞ。だがクリーナはその金を自分より小さな子供の為に使ってた。スラムでは子供は搾取される者、最底辺だ。クリーナはそれを守ってた。本当なら自分も愛され守られるはずの歳なのにな。」
「そんなクリーナだが所詮は子供。大人の介入が始まればまた毟り取られる存在になる。だから俺はクリーナに正体を隠すように言った。幸い俺がここら辺の頭を張るようになったから詮索を抑え込めた。初めてあった時に言った髭の男って言うのはクリーナから遠ざける為の嘘だ。」
「そんでこっからが本題だ。最近クリーナの様子がおかしい。…何かに怯えている。夜も寝れてないみたいなんだ。そして好きなはずだった服も作れなくなった。いや、服を作れないとかはどうでも良い。あの子には…真っ当に生きてもらいてぇんだ。俺も結局はあの子のお陰で金を儲けた、汚い大人だ。でも…この気持ちだけは本物だと思いてぇんだ。」
思いの丈を一気に吐き出すガードル。その言葉に隠しきれないクリーナを思う気持ちが込められていた。
「…兄ちゃん達にはクリーナを脅かす存在の調査と…出来れば排除をお願いしたい。知っての通りこの街にはクリーナを利用しようとする連中が溢れている。だから旅人の兄ちゃん達にしか頼めなかった。」
「もう一度聞く、この依頼受けてくれるか?。」
「勿論です。僕達が原因を明かしてみせます。」
「うぅ、私感動しました。クリーナ君も私と同じく良い人に出会ったんですね。それを脅かすなんて許せません。」
ガードルの話を聞き憤りを露わにするユーリ。自分と同じく救い出された存在。それを脅かすことはユーリにとって許せない行為だった。
「ん?…あぁクリーナは女だぞ。」