2時間制
「…そういえば晩御飯のことなんですけど。何か違和感を感じませんでしたか?。」
良い匂いにつられ部屋を飛び出して行くカノンを追いかけながらユーリが言う。
「そうだね、今思えば、鍵を見せたら食堂に入れるとしか言われてないな。」
オウギが朝の女主人とのやりとりを思い出しながら言う。
「ご飯代が宿代に入っているとしても普段なら紙を貰うのにな。」
一般的な宿では先ずご飯の有無を聞かれる。冒険者は自分が狩ってきた獲物を食べる場合もあるからである。そしてご飯付きの場合食事券を発行される。それを使うことで食事が一人前提供されるというもので、今回はその券の配布もなかった。と、疑問に思うまま食堂の前に到着する。カノンは食堂の前で待っていていつまで待たせるのか!とご立腹である。
「ふあぁ!いい匂いです!。」
先ほどから漂っていた良い香りはやはりこの食堂から流れ出てくるもので間違いないようだった。ユーリの尻尾もブンブンと振れている。
「あの、鍵を見せれば良いって言われたんですけど。」
その様子を見て微笑みながらオウギが食堂の前に立つ男に鍵を見せる。朝の説明では鍵を見せろとしか言われていない。
「はい、えーと301号室のお客様ですね。確認させていただきました。時間は2時間までとなっておりますのでお気をつけ下さい。」
男がオウギの出した鍵を確認し紙と改めて言う。
「?2時間?、…それは一体…」
男の発言に更に疑問が深まるオウギ。しかし、
「あ、カノンちゃん!。まだ…うわぁぁ…!。」
カノンが勝手に開けた食堂のドア。それを止めるために中に立ち入ったユーリが歓声をあげる。それ程素晴らしい光景が広がっていた。
「ユーリ?…おぉ、これは…。」
後を追って中に入ったオウギも同じく歓声をあげる。
「当宿自慢のブッヘェで御座います。並べてある料理は全て食べ放題となっており飲み物はあちらに御座います。」
「食べ放題⁉︎お、オウギ様早く席に着きましょう!。」
『キゥイキュイ!。』
男の発言を聞きユーリは慌てて席に着く。2時間をフルに使うつもりなのだ。しかしユーリの奴隷としての矜持なのかオウギが席に着かない限り取りに行くことは無い。カノンはオウギが取りに行ってくれないと食べれないのでオウギを急かす。
「そんなに慌てなくても2時間も食べ続けられないと思うけど。…行こうか。」
ユーリを引き連れて料理が並ぶエリアに向かう。カノンはオウギの頭の上に着陸している。
「…えーとここで皿を取るのか。ユーリにもはい。」
「…ほ、本当にどれでもとっていいんでしょうか?。」
壁に沿って並ぶ大皿を前にユーリが唾を飲む。
「いいと思うよ、みんな取ってるし。おー、これは美味しそうだ。あ、こっちのもいいなぁ。」
「わ、私も…これと…あ、あれも欲しい。」
オウギとユーリがおもいおもいの料理を皿に並べる。
「料理がたくさんありすぎて皿に載らなかったです!。食べたらまた取りに行きます。」
料理を取って席に戻ってきたユーリは意気込む。
「…食べ過ぎて動けないようにならないでね。」
『ガツガツ。』
カノンはオウギが取ってきた料理にがっついている。
「カノンもだよ。君が食べ過ぎて寝ちゃったら持ってくの僕なんだからね。」
そう注意するがオウギの声が届くことはなかった。