表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
goodbye my friends  作者: 朝比奈侑生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

10話 なんで素直に言えねーんだよ

「ビール一つ」

「あっ、俺も」


 慌てて後追いで注文するも、今日はビールの気分じゃなかったな、と届いてから思った。


「飲まねぇの」

「あっ、いや、今日はビールの気分じゃなかったな、って」


 そう言って眉を下げると、蓬田はテーブルに肘をつき、頬杖をつくと、俺のビールジョッキを力強く奪い、一気に飲み干す。


「あっ、なっ」

「ほら、次頼めよ」

「あ……りがとうございます」


 次第に言葉を先細らせながら額で返事をすると、メニュー表を寄こす。

 アルコール類のページを見ても心が沸かない。越野は烏龍茶に心を決めると、注文のボタンを押した。


「何にしたの」

「烏龍茶っす」

「烏龍茶?なんだその女子みてーな選択は」


 焼酎にしろ、と勝手に頼もうとする蓬田の手を止める。もう酔っているのだろうか、少し顔が赤くなり始めている。


「課長って酒飲む割に弱いっすよね」

「ああ、うん。別に好きで飲んでるわけじゃねぇし。付き合いで飲むようにはなったけど」

「じゃ、俺の前でまで飲まなくても」


 呆れてため息をつくと、お通しの水を差し出す。

 すると、蓬田はコップを掴む越野の手に手を重ねて、指を絡ませる。


「お前の前じゃ、可愛い俺でいたいの」


 指先で、越野のかさついた爪を撫で回す。

 蕩けた瞳が、越野の生唾を飲み込んだ。


「烏龍茶のお客様ー」


  その声に、反射的に手を離すとジョッキが倒れた。


「お客様、大丈夫ですか」


 慌てて烏龍茶をテーブルに下ろし、台拭きで手際よく机を拭く店員の無骨な手に、見覚えがあった。

 見上げると、そこには店員の制服を着た輝がいた。


「輝……」


 目が合った輝は、信じられないものを見た、と言った様子で瞳孔を潜めた。

 ジョッキを下げ、烏龍茶を越野の前に差し出すと、ごゆっくりと頭を下げて逃げるように出ていく。


「あれ、今の店員……こないだの、お前の元カレじゃね」

「……よく覚えてますね、っつか元カレじゃないですし」

「職業柄、人の顔は一度見たら忘れないもんでね。……バイトしてんの?」

「さぁ、こっち帰ってきたばっかだし、仕事見つかるまでバイトしてんじゃないっすか」


 適当に返すと烏龍茶に口をつけ、やっぱり酒にすればよかった、ともう一度メニュー表を開く。


「男前だよなぁ、タッパもあるし」

「そりゃ元芸能人ですから」

「……なるほど、そういう人ってやっぱ物が違うっつーか、雰囲気違うよな」

「でも、あの程度、都会にはいっぱいいるんじゃないですか、あいつだってうまくいかなくて帰ってきたんだし」

「ふーん、夢破れて、って感じか」

「さぁ、夢破れたんだか何だか知りませんけど。あ、そういえばあいつ、今日カウンターに来てた清瀬電機さんの息子っすよ」

「清瀬さんの?ふーん、じゃ、夢破れたわけじゃないかもな」


 越野の手からメニュー表を奪うと、蓬田は即座に焼酎をロックで頼み、すぐに越野へ戻す。


「……どういうことっすか」

「清瀬さん家、今日来てただろ。電気屋畳むみたいなんだよ。体調が悪いみたいだって次長が言ってた。ほら、次長って地元出身だからさ、そういうの詳しいわけ」


 親父さんの体調不良で帰ってきた……

 越野は注文のボタンを押すのを躊躇った。


「……焼酎ロックのお客様」


 あからさまに小声で店員が入ってくる。輝は体を縮めて視線を外した。


「はーい俺。ついでにこいつに梅酒ロックお願い、元カレ君」

「元カレ、君……?」


 輝に絡む蓬田に、越野は大きな声を出して誤魔化す。


「あー!俺トイレに行きたくなっちゃったなー!店員さんちょっと案内してくれる!?」


 そういって輝のエプロンを掴み、引っ張る。もう何度も来ている店のトイレの場所など知らないわけがない。

 廊下まで出ると、心臓を抑えて辺りを確認する。端へ寄り、邪魔にならないように壁にもたれる。


「お前何でこんなとこで働いてんだよ」

「いや、経験者だし……」

「は?何お前居酒屋でバイトしてたの」

「うん、まぁ……」

「つかこっち帰ってきてもう2か月近くたつんだろ?ちゃんと仕事探してんのかよ」

「……探してるけど、未経験だし色々と厳しいんだよ」

「まだ若いんだからなんでもできんだろ」


 違う、こんなことを言いたいんじゃない。そうは思ってもつい厳しく責めてしまう。

 昔から、変わらない……


「ごめん、トイレ行くわ」

「……待って」


 足を踏み出す越野の手を掴む。


「今度、飲み行かん……?ここじゃないとこ。つか、連絡して、いい……?」


 輝の手が震えている。

 連絡していい……?そんな当たり前のことを。


「当たり前だろ、ばーか。たまにはお前から連絡してこいよ。じゃ、小便漏れっから」


 輝の手を振り払うと、トイレに入っていく。一度も振り返らずにドアを閉めると、ドアノブを握ったまま壁にもたれた。


「……なんで素直に言えねんだよ、ばーか……」


 手のひらを額に当て、天井に深いため息を吐く。

 薄汚れた鏡に映った自分は、随分幼く見えて、こんな顔をして戻ったら蓬田にすぐ察されるだろうな、と思うとしばらくトイレから出ることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ