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瀬戸内神戦譚 ー守護者歴代最弱ですが、八海神「要」として瀬戸内を守りますー  作者: 黒木のゆ
第3章 禍海坊再来 編

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第13話 広島の守るべきもの

「けれど、そのためにはただ祈るだけでは足りない。この地に伝わる“舞”――神楽を通して、月と潮を結びつける儀が必要になるの。」


 颯月が目を丸くする。


「神楽?それって、綾ちゃんが踊るってこと?」


 綾は小さく笑みを浮かべた。


「本来なら巫女たちで奉納するものだけれど、満月の日に要としての私が舞うことで、月龍の加護を直接この地に降ろせるの。……ただ、代償もある。」

「代償?」


 義久の声が低く響く。綾は一瞬、言葉を選ぶように沈黙した後、ゆっくりと言った。


「力を借りるぶん、私の身もまた“月”に近づく。人の姿を保つことが難しくなるかもしれない。それでも――今はやらなくては。」


 強いまなざしは、綾の決意と宿命に対する覚悟が宿っていた。


「ふぅ・・・まあ、それも宿命よね。代々受け継がれてきたこの力、使わない選択肢はないしね。まぁ、人の姿を保てなくなった人を聞いたことがないから、全然大丈夫だと思うけど。」


 一息ついて、重くなった空気をかえるべく綾は明るく言った。


「さてと……満月が南中するのは、真夜中頃よ。今からだと、かなり時間があるわ。」


 結界の説明を終えた綾は、蓮たちを見回して言った。


「皆、それまでに心を整えておきましょう。緊張ばかりでは身が持たないわ。」


 その言葉に、汐音がすかさず手を挙げる。


「ハイハイ!じゃあ!お姉ちゃんの代わりにいろんなところ私が案内してあげる!」


 得意げに胸を張る汐音に、蓮はげんなりした顔を向ける。


「……別に、観光なんかいいだろ。俺はここで待ってる。」

「はぁ!?せっかく広島まで来ておいて、神社に引きこもる気?」


 汐音はぷくっと頬を膨らませる。


「どうせ不器用で、街歩きとかしたことないんでしょ?田舎者っぽくてダサい~。」

「……っ!」


 蓮の眉がぴくりと動く。


「おい、誰が田舎者だ。」

「じゃあ証明してみてよ!広島駅、今すっごく変わったんだから!どうせ、駅なんてスルーしてきたんでしょ?“ミナモア”行ったことないでしょ?」


 汐音は勝ち誇ったように笑みを浮かべ、颯月の袖を引っ張る。


「ほらほら、颯月さんも行きたいでしょ?」


 颯月は楽しそうに笑い、即答した。


「うん、行きたい!広島の新しいスポット、気になってたんだよね。まじめな蓮と義久兄のせいで、素通りしてきたけど。」


 義久もため息をつきながら頷く。


「……まぁ、確かに張りつめていても仕方ないか。綾殿の言う通り、心を整えることも務めだ。神楽の準備を邪魔しても悪いしな。」


 義久は、汐音の気持ちを何となくくみ取りつつ、不器用に同意するのだった。

 蓮は観念したように首をかしげ、ぼそりと呟いた。


「……少しだけ、な。」


 15時頃、蓮たちは広島駅に到着した。ガラス張りの巨大な吹き抜けに、最新のショップやレストランが並ぶ。

 汐音は目を輝かせながら案内役を務める。


「ね? すごいでしょ!ここが“ミナモア”!因島とは違うんだから。」

「どこと比べてんだよ。こっちは、大自然と大景色と大海があるんだよ!」


 蓮はむきになりつつも顔をしかめながらも、つい周囲を見回してしまう。ガラス越しに差し込む光が、広大な空間に反射してきらめいていた。


「ふふ、素直じゃないなぁ。」


 颯月は楽しそうに笑いながら、土産物を手に取っている。



 その後、一行は広島駅二階に乗り入れている路面電車に乗り、平和記念公園へと向かった。

 窓の外では、駅前のビル群がゆっくりと後ろへ流れていく。電車は街の中心を縫うように進み、車道を走る車や行き交う人々のすぐそばを、がたん、ごとん、と小さく揺れながら進んでいった。

 やがて街並みの合間に川面が見えた。

 幾筋もの川が街を抱くように流れ、その先に、平和記念公園の緑が静かに広がっている。かつて大きな悲しみを刻んだ場所でありながら、今は祈りと記憶を抱え、訪れる人々を静かに受け止めている場所だった。

 川面には午後の光が揺れ、橋を渡る人の影がゆっくりと伸びていた。戦いの気配などどこにもない、穏やかな広島の景色だった。


「ここからの眺め、好きなんだ~。」


 汐音は橋の上から公園を指差す。


「街も、川も、ぜんぶ繋がってるみたいで……。だから、私たちの守ってるものって、ほんとはこんな景色なのかなって思うんだ。」


 その言葉に、蓮はふと微笑んだ。生意気な口ばかり叩く妹分の背中に、わずかに宿命を受け継ぐ者の一端を見た気がした。



 しばらくして、颯月がまたきょろきょろし始める。


「あちこち歩いたら、お腹すいた~。ねぇねぇ、晩御飯何食べる?汐音様、お勧めありますかね?」

「広島と言えば、お好み焼き、牡蠣、あなご飯、つけ麺いろいろありますぜ、颯月ねぇ様。」

「せっかく広島来たんだし、やっぱお好み焼きっスかね?汐音様。」

「やっぱ、お好み焼きかぁ―――。選択、素晴らしいっス、姉さま。」


 謎の会話が始まると、二人で義久を上目遣いで見ながら、


「ごちになります!」


 と声をそろえて先手を打つように言い放った。


「そんなときだけ、息ぴったりだな。しゃぁねぇな、ダブル妹には勝てん。年長の俺が、どーんと行ってやるぜ。」

「じゃぁ、全部乗せたのもーっと。」

 マジでダブル妹恐るべし

 蓮と義久は眼を合わせて、ため息をついたのだった。


 ――――――――


 厳島神社に戻ってきた頃には、すっかり夜の帳が降り、厳島神社の朱塗りの回廊が淡い月光に照らされていた。

 潮の満ち引きに合わせて波が静かにさざめき、社殿の下をさらさらと流れてゆく。

 神楽台の周囲には、すでに綾の仲間たちが集まっていた。

 篝火かがりびの炎に浮かび上がるその姿は、それぞれが只者ではない雰囲気を放っている。

 最初に声を上げたのは、金剛槌を肩に担いだ大柄な青年――神田剛志だった。


「おぉ!お前が因島の要ってやつか!名は何だ?」


 豪快な笑みと共に蓮の肩を叩く。鉄槌を握る腕の力強さに、蓮は思わずたじろぐ。


「……っ、あんた力強すぎだろ。村上蓮だ。」

「ははは、すまんすまん!けどお前、思ったより細っこいな。大丈夫か?」


 からかうような言葉だが、その瞳には試すような光が宿っていた。

 その隣で、白鴉を従える白峰咲紀がふわりと舞うように歩み出た。


「剛志さん、脅かさないの。蓮くん、初めまして、ようこそ厳島へ。綾を支えてくれる人が来てくれて、私も嬉しいわ。」


 柔らかな声音と微笑みが、緊張を解くように蓮に降り注ぐ。


「……いえ。こちらこそ。」


 思わず言葉を詰まらせる蓮の後ろから、颯月がくすっと笑った。


「ふふ、蓮ってほんと女の人に弱いんだよね。」

「なっ……余計なこと言うな!」


 そんなやり取りを見て、回廊の柱にもたれかかっていた安倍悠幻が口を開いた。


「なるほどなるほど。噂の因島の若武者は、意外と初々しいわけだ。」


 軽口を叩きながら、指先で式札をくるりと回す。

「俺は安倍悠幻。戦うときは幻術でちょっと場を操らせてもらうよ。まぁ、信じるかどうかはご自由に。」

「軽そうでいて、なかなかの手練れと見た。ただ、なんか胡散臭いな。」


 義久が警戒を隠さずに呟くと、悠幻はにやりと笑った。


「その目、いいね。兄さんとは気が合いそうだ。」


 最後に、篝火の影の奥から静かに歩み出たのは、氷川静だった。白蛇が首元に絡むようにまとわりつき、氷のように冷たい気配を漂わせる。


「……あなたが蓮、因島の要。綾にとって必要な人…だそうだな。」


 低く抑えた声は感情をほとんど乗せていない。だが、明らかに値踏みしている。蓮は返す言葉を探し、ただ頷くしかなかった。静はそれ以上何も言わず、白蛇を撫でて黙り込む。

 緊張感の中、場を和ませたのはやはり汐音だった。


「ねぇねぇ、みんな蓮のこといじりすぎじゃない? でも……確かに、昔からちょっとカッコつけで子どもっぽいとこあるんだよね。」

「お前まで言うな!お前の方が年下で、子供っぽいだろうが!」


 蓮が赤くなって抗議すると、綾が小さくため息をついた。


「少しでも私の舞が蓮の役に立つといいのだけれど。」


 にこりとしながらもその眼差しは真剣で、仲間たちも同じように蓮を見据えていた。


 颯月がいつになく真っ直ぐに綾へ向き直る。


「厳島の要――結城綾。私たち因島の者として、今夜の神楽を共に見届けさせてもらう。異論はないわね?」


 綾は静かに頷く。


「ええ。むしろ歓迎するわ。今夜は満月。揺らぎかけた結界を立て直す、大事な夜だから。」


 潮騒を静かに抱く厳島の夜。

 朱塗りの回廊を抜けると、眼前に神楽台が現れる。海に浮かぶように設けられた舞台は、松明たいまつの灯で幽玄ゆうげんに照らされ、満月の光を受けて神秘の輝きを放っていた。

 舞台の上ではすでに、綾の仲間たちが結界強化の準備を進めていた。

 ――神器を呼び出し、力を合わせて「月龍神楽」を成立させるために。


 咲紀が、白装束に朱の緋袴をまとい、神楽鈴を静かに鳴らした後、


「舞い踊れ、神器《月祓扇つきはらいのおうぎ》」


 手にしたのは神楽扇。炎が扇先にちらりと揺れ、舞台全体に澄んだ空気を広げる。咲紀は深く一礼し、舞台中央に進む。彼女の周囲だけが、結界の核のように清められていくのが感じられた。

 巨躯の剛志が、ゆっくりと手を掲げる。


「打ち砕け、神器《剛嶽ごうがく》!」


 金剛槌が甲板を踏み抜くように現れ、青白い雷が周囲を走った。

 剛志は豪快に笑う。


「今夜は暴れ足りねぇ雷を、妖どもじゃなく結界に叩き込むとするか!」


 少し離れた場所で、悠幻が気怠そうに札を空へ散らす。


「眩ませ、神器《幻書ノ札》」


 手元の符札が宙を舞い、満月の光を受けて紫紺の光を帯びる。


「ほら、火や雷ばっかりじゃ舞台映えしないだろ?少し幻想を足してやる。」


 鵺の影が背後に揺らぎ、舞台の周囲に幻灯のような光景を広げる。観客はいないはずなのに、どこか「千の目」に見られているような不思議な感覚が漂った。

 最後に、寡黙な静が掌を合わせる。


「凍てつけ、神器《氷蛇珠》」


 氷蛇珠が淡く輝き、舞台の下から氷柱のような清気が立ちのぼる。


「結界を凍結し、月の光で強固にする……」


 彼女の言葉は短いが、その冷気は確かに舞台を護る鎧となっていった。最後に、綾は舞台中央に立ち、蒼月の太刀を呼び出した。


「月に輝け、神器《蒼嶺》。」


 綾の手に光が集まると、月のごとき白さと海の蒼が溶け合ったようなすらりとした太刀が顕現し、刀身に蒼白い龍が走る。

 仲間たちの力が一つの円を描くように集まり、厳島の神楽台は巨大な陣となって完成していく。


「ふふん、すごいでしょ?これ、舞台照明とかじゃないんだよ?」


 隣で蓮は腕を組みながら小さく答えた。


「お前がやってんじゃないだろ。でもさすがにすごいな。」

「まだまだ、これからよ。感心してないで、ちゃんと見てなさいよ。」


 汐音は蓮をじろりと睨む。その一言に颯月がくすっと笑い、義久は肩をすくめる。綾は微笑みつつ、しかし真剣な声で告げた。


「間もなく満月が南中する。舞が始まれば、結界を張りなおす間、守りが薄くなって妖たちが反応するかもしれないわ。ここからが本番よ。」


 舞台は整い、結界強化の儀式「月龍神楽」が始まろうとしていた――。


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