白髪の男
白塔の内部は、迷路のようだった。
志乃は、女性の声に導かれながら、その迷路を進んでいた。
背後から、複数の勢力が、彼女に続いていた。
吾妻を先頭とした学連。虺竜文と獅子島率いる紅叉。クリス・レイシアと相模率いる月砂。
全ての勢力が、白塔の内部へ侵入し始めたのだ。
だが、白塔の構造は、複雑だ。
通路が、複数に分岐していく。
各勢力が、別々の通路へ進んでしまい始めたのだ。
志乃は、その分裂に気づかなかった。
彼女は、ただ、女性の声に導かれ続けていた。
やがて、彼女は、白塔の別の領域へ到達した。
古い扉が、その前に立っていた。
その扉の向こう側から、女性の声が、より明確に聞こえ始めた。
「志乃よ。ここまで来たのか」
志乃は、その扉に手をかけた。
その時、別の気配が、後ろから近づいてきた。
志乃は、振り返った。
そこには、一人の白髪の男性が立っていた。
その男の年齢は、四十代か五十代。だが、その目には、何かの深い悲しみがある。
その男の側には、一人の少女がいた。
志乃と同じくらいの年齢。その少女の表情には、何かの決意がある。
少女は、短い黒髪を持ち、その瞳は、何かを見つめていた。
「あなたは」
志乃が、その二人に向かって言った。
白髪の男が、低く言った。
「虚西コウの友人だ」
その男の声には、複雑な感情が混ざっていた。
「そして、彼を追っている」
少女が、志乃に向かって言った。
「私は冷花。虚西は、大事な人」
その少女の名は、冷花。
その言葉には、確信がある。
志乃は、その二人を見つめた。
白髪の男は、続けた。
「虚西コウは、白塔の奥にいる。あの二人の男に、拘束されている」
白髪の男の表情に、怒りが浮かび始めた。
「俵屋と魔泉道。奴らは、虚西を利用するつもりだ」
白髪の男は、古い言語を呟き始めた。
その音が、白塔全体に響き渡り始めた。
古い扉が、ゆっくりと開き始めた。
その向こう側には、地下への階段が広がっていた。
冷花が、志乃に向かって言った。
「一緒に来て。虚西を取り戻す」
志乃は、その少女の言葉を聞いて、頷いた。
放心から、覚悟へ。
その転換が、完成していた。
白髪の男が、先導し始めた。
「私は、虚西の古い友人だ。奴を知っている。その力を知っている」
白髪の男は、地下への階段を降り始めた。
冷花が、志乃の手を握った。
「怖いですか」
冷花が、低く聞いた。
志乃は、答えなかった。
ただ、その手を握ったまま、階段を降り始めた。
白髪の男の後を、二人は追い始めたのだ。
白塔の地下。
かつての何かの遺跡。
そこに、虚西がいる。
そこに、俵屋と魔泉道がいる。
そして、白塔から聞こえていた女性の声も、そこにいるはずだ。
白髪の男が、階段の下で、ゆっくりと立ち止まった。
その先には、古い施設が広がっていた。
複雑な機械装置。複雑な霊気力制御装置。
その中心に、何かが浮遊していた。
白い光。
それは、虚西コウの白い光だ。
俵屋が、その白い光を見つめながら、何かを呟き始めていた。
古い言語。儀式の言葉。
魔泉道が、その儀式に呼応するように、別の言語を呟き始めていた。
白髪の男は、その光景を見て、静かに言った。
「儀式が、始まっている」
白髪の男の表情に、焦りが浮かび始めた。
「急げ。虚西を取り戻す。それが、唯一の道だ」
白髪の男は、地下の深層へ向かい始めた。
冷花が、志乃の手を握ったまま、その後を追い始めた。
志乃も、その二人に続いていった。
白塔の最深層へ。
虚西がいる場所へ。
複数の勢力が、別々のルートから、同じ場所へ向かい始めていたのだ。




