同行
地下の古い施設で、白髪の男と冷花は、志乃と共に進んでいた。
白髪の男が、低く言った。
「白神だ。白神考古科学研究所の所長をしている」
その名が呼ばれた時、志乃は、その男の存在を、より明確に認識した。
白神教授。
東都研究都市の一角を担う、研究者だ。
だが、志乃には、その男についての詳しい情報はなかった。
冷花が、志乃に向かって言った。
「白神教授は、虚西のことを知っています。昔から」
冷花の言葉には、信頼がある。
その信頼が、志乃に伝わった。
白神教授は、白塔の地下へ向かう通路を、確実に進んでいた。
その足取りは、迷いがない。彼は、この場所をよく知っているのだ。
「虚西コウ」
白神教授が、低く呟いた。
「彼は、本来は、奴らに利用されるべき存在ではない」
白神教授の表情に、何かの怒りが浮かんでいた。
だが、その怒りは、冷静に抑制されていた。
「水島と、俺は、虚西を保護するために、東都に来た。だが、奴は、何度も、何度も、連れ去られてしまった」
冷花が、その言葉を聞いて、低く言った。
「教授。だから、私たちが来たんです。今度は、虚西を取り戻す」
冷花の少女らしい表情には、何かの決意がある。
志乃は、その二人を見ながら、何かを感じ始めていた。
この少女も、この大人も、虚西を心配している。
自分と同じように。
白神教授が、古い機械装置の前で止まった。
その装置から、かすかに、古い霊気力が放たれていた。
「ここからは、警戒が必要だ」
白神教授が、静かに言った。
彼の手が、何かの形を作り始めた。
その動作は、複雑で、何かの儀式のような響きだ。
彼の周囲に、かすかに、複合的な色の霊気力が現れ始めた。
それは、単一の色ではない。複数の色が混ざり合ったものだ。
土の色。水の色。火の色。風の色。
複数の異なる霊気力が、一人の男の中に存在していた。
冷花が、その光景を見て、低く言った。
「教授の複合術です。複数の霊気力を、同時に操っています」
志乃は、その光景を見て、驚いた。
複数の異なる霊気力を、同時に操ることは、通常はできない。
だが、この白神教授は、それをしている。
白神教授の複合された霊気力が、通路を保護壁で覆い始めた。
土が、壁となって、彼らの周囲を守り始めたのだ。
「行こう」
白神教授が、言った。
彼は、保護壁に包まれながら、地下の奥へ進み始めた。
冷花が、志乃の手を握ったまま、その後を追った。
志乃も、その二人に続いた。
やがて、彼らは、更に深い層に到達した。
古い施設。かつての何かの遺跡。
そこには、複雑な機械装置が、複雑に絡み合っていた。
その中心に、白い光が浮遊していた。
虚西コウだ。
彼は、拘束されている。
俵屋と魔泉道の力で。
白神教授は、その光景を見て、即座に状況を把握した。
「儀式の最中だ」
白神教授が、低く言った。
「虚西の力を、何かへ集約しようとしている」
俵屋と魔泉道は、その新しい侵入者たちに気づいた。
「白神か」
俵屋が、低く呟いた。
「何しに来た」
「決まっている」
白神教授が、答えた。
「虚西を、お前たちから取り戻しに来た」
冷花が、白神教授の側に立った。
彼女の周囲に、古い紙製のお札が浮かび始めた。
呪術の気配。
古い力。
黒條家の呪術だ。
魔泉道が、その二人を見て、微かに笑った。
「虚西コウを取り戻す。そのつもりか」
魔泉道の白く濁ったような霊気力が、さらに強くなり始めた。
虚西の白い光が、その中で、より激しく制限され始めた。
志乃は、その光景を見つめながら、白神教授と冷花の側に立った。
三人が、俵屋と魔泉道に対峙する形になった。
白神教授の複合された霊気力。
冷花の呪術の力。
志乃の、まだ明確な形を持たない力。
そして、虚西の拘束された白い光。
四つの力が、地下の深層で、衝突しようとしていた。




