放心
志乃は、バリアの中で、動くことができなくなっていた。
虚西コウが、俵屋と魔泉道に連れ去られた。
その光景を、彼女は目撃していた。
虚西の白い光が、消え始めた時、志乃の中で、何かが崩れ落ちたのだ。
彼女は、立つことさえできなくなった。
膝が、地面に落ちた。
バリアの中で、彼女は、ただ、その場に座り込んでしまった。
全てが終わった。
そう感じた。
虚西がいなくなってしまった。
彼女の唯一の拠り所が、消えてしまった。
白塔での不可思議な経験。
相模のアジトでの不安定な保護。
そして、虚西との出会い。
その全てが、この瞬間に、無意味なものに感じられた。
複数の勢力が、バリアの中で、それぞれの判断に基づいて動いていた。
吾妻は、白塔の正面から、突破を試みている。
虺竜文は、その同じ場所で、力での破壊を試み続けている。
クリス・レイシアと相模は、別の入口を探している。
獅子島は、敬語で、何かを指示し続けている。
飛鳥は、端末を操作し続けている。
シズクは、刀を握ったまま、状況を見守っている。
全ての勢力が、何かをしている。
だが、志乃は、そのどれもしていなかった。
彼女は、ただ、白塔を見つめていた。
その白塔から、かすかに、光が漏れ始めていた。
白い光。古い光。
その光が、白塔の奥から、わずかに露わになり始めたのだ。
その時だ。
声が聞こえた。
女性の声だ。
低く、優しく、何かの導きのような声。
それは、白塔での迷い込みの時と同じ声。
「志乃よ」
その声が、呼びかけていた。
「白塔へ」
志乃は、その声を聞いて、ゆっくりと顔を上げた。
その声には、何かの切実さがある。
何かの待ち焦がれた感情。
志乃は、その声に、次第に引き寄せられ始めた。
虚西がいない。
だが、この声は、ある。
この声が、志乃を呼んでいる。
白塔へ。白塔の奥へ。
志乃は、バリアの中で、ゆっくりと立ち上がり始めた。
その動作は、緩慢だ。だが、確実だ。
彼女は、白塔の方へ歩み始めた。
吾妻が、その動きに気づいた。
「志乃。何をしている」
吾妻の声が、届いた。
だが、志乃は、それに答えなかった。
ただ、白塔の方へ歩み続けた。
その足取りは、何かに導かれるような、確実な動きだ。
クリス・レイシアが、志乃の動きを見て、何かを理解したかのように呟いた。
「あの娘。何かを知っている」
相模も、志乃の動きを見ながら、子どもっぽい口調で呟いた。
「君は、呼ばれてるんだ。志乃。白塔から」
志乃は、白塔の入口に到達した。
その入口は、完全に密閉されていた。
だが、志乃は、その入口に手をかけた。
その瞬間、バリアが、わずかに揺らいだ。
白塔の奥から、女性の声が、さらに強く聞こえ始めた。
「志乃よ。中へ。白塔の奥へ」
その声に導かれるように、志乃は、白塔の入口を押し始めた。
その扉が、ゆっくりと開き始めた。
バリアの隙間が生まれた。
その隙間から、古い光が漏れてきた。
複数の勢力が、その動きに気づいた。
吾妻は、その隙間を見て、即座に判断を下した。
「全班。志乃に続け。白塔の内部へ侵入する」
学連の戦闘員たちが、その隙間へ向かい始めた。
虺竜文も、その動きに反応した。
「そっか。あいつが道を開くのか」
虺竜文が、その隙間へ向かい始めた。
クリス・レイシアと相模も、その動きを見て、行動を開始した。
複数の勢力が、志乃が開いた隙間へ集中し始めた。
だが、志乃は、それらを見ていなかった。
彼女は、白塔の奥から聞こえてくる女性の声に、ただ導かれ続けていたのだ。
白塔の内部へ。
古い通路へ。
地下へ。
その奥深くへ。
志乃は、その声に導かれながら、白塔の中へ消えていった。
その後を、複数の勢力が、追い始めた。
バリアは、志乃の通過によって、わずかに緩和されていた。
複数の勢力が、その緩和の中で、白塔の内部へ侵入し始めたのだ。
白塔の中。古い施設。
そこには、虚西がいる。
そして、俵屋と魔泉道がいる。
そして、志乃を呼ぶ女性の声がある。
複数の勢力が、その全てを求めて、白塔の奥へ向かい始めていたのだ。
志乃は、白塔の暗闇の中で、女性の声に導かれ続けていた。
その声が、彼女の心を満たし始めていた。
放心から、覚悟へ。
その転換が、白塔の内部で、起きていたのだ。




