バリアの張り手
俵屋が、白塔の周辺全体に、バリアを張り始めた時、その力の質感が、全ての勢力に伝わった。
それは、単なる防御のバリアではない。
霊気力そのものを制御し、その使用を制限するバリアだ。
古い。深い。何かの本源的な技術。
魔泉道が、その俵屋の展開に呼応し、別の角度から力を加え始めた。彼の白く濁ったような霊気力が、バリアを補強していく。その動作は、洗練されていた。長年の研究と実践の積み重ねを感じさせるものだ。
吾妻は、その瞬間、状況を把握しようとした。
「飛鳥。バリアの性質は」
飛鳥が、端末を操作しながら、即座に分析結果を報告した。
「総隊長。このバリアは、霊気力の展開を約七十パーセント制限します。物理的な動きは可能ですが、高位の力の使用は困難です」
吾妻は、その情報を聞いて、刀を握る力を強めた。
だが、その握力も、バリアの影響を受けていた。彼の動きが、わずかに緩慢になり始めていたのだ。
虺竜文は、その制限に激怒した。
「何だこれ。弱くなってんじゃねーか」
虺竜文の勾玉の光が、激しく赤く輝こうとした。だが、その光も、バリアに制限されていた。通常の三分の一ほどの強度にまで落ちてしまっていたのだ。
周囲の無機物も、形を変えることができなくなり始めた。バリアが、その変化を抑制し始めたのだ。
虺竜文は、その抑制に対抗しようとした。彼の勾玉がさらに強く輝き始める。だが、その対抗も、バリアによって、次第に押し返されていく。
獅子島は、その戦況を見ながら、敬語で呟いた。
「これは。厄介だ」
クリス・レイシアは、その制限の中でも、落ち着きを保っていた。
彼女のケルト神話の魔物の影が、バリアの中でも、かすかに浮かぶことができていた。だが、その強度は、通常の五分の一ほどにまで低下していたのだ。
彼女は、スウェプト・ヒルト・レイピアを握ったまま、その二人の男を見つめていた。何かを計算するような視線だ。
相模は、その制限を受けても、特に激怒することなく、静かにそれを受け入れていた。
彼の古い白い力も、バリアに制限されていた。だが、彼の表情には、受け入れの色がある。
「君たちの力は。古いんだ」
相模が、子どもっぽい口調で呟いた。
「白塔と同じくらい。古い」
俵屋は、相模の言葉に反応を示さなかった。
代わりに、彼は、白塔の入口へ向かって、何かを呟き始めた。古い言語。その音が、白塔全体に響き渡り始めた。
その呟きと共に、バリアが、さらに強化され始めた。
複数の勢力の霊気力が、さらに制限され始めたのだ。
吾妻は、その強化を感じ取った。
「飛鳥。現在のバリアの強度は」
「更新されました。現在、約八十五パーセントの制限です。このレベルでは、高位の力の使用は、ほぼ不可能です」
吾妻は、その報告を聞いて、判断を下した。
「全班に通達。現在のバリアの中での行動に切り替えよ。物理的な戦闘態勢へ」
学連の戦闘員たちが、その指示に従い、物理的な武装を準備し始めた。
虺竜文は、その制限に対抗し続けていた。
「くそ。何だこれ。誰だてめーら。何ができるんだ」
虺竜文の叫びは、バリアに吸収された。その音さえも、制限されていたのだ。
だが、虺竜文は、その制限の中でも、動こうとしていた。彼の身体は、物理的には制限されていない。霊気力さえ使わなければ、彼は動くことができるのだ。
だが、その時、魔泉道が、別の力を展開させ始めた。
それは、物理的な動きさえも、制限する力だ。
バリアが、全ての動きを遅延させ始めた。
複数の勢力の戦闘員たちが、その制限を感じ取った。
彼らの動きが、次第に緩慢になり始めたのだ。
志乃は、その制限の中で、虚西の手を握ったままでいた。
虚西は、その制限を受けても、特に抵抗していなかった。
代わりに、彼は、白塔の奥を見つめていた。その瞳は、相変わらず、別の次元を見ているようだ。
「コウ」
志乃が、低く呟いた。
「今、何が起きているんですか」
虚西は、答えなかった。
ただ、その瞳が、わずかに動いた。
それは、認識だった。
俵屋と魔泉道が、その動きに気づいた。
「虚西コウ。お前の力さえ、我々のバリアに制限される」
俵屋が、低く言った。
「お前の白い光も、ここでは、その力を十分に発揮することはできない」
魔泉道が、その言葉に続いた。
「白塔は、我々の領域だ。ここで、お前は、逃げられない」
複数の勢力が、その言葉を聞いて、絶望に近い感情を抱き始めた。
吾妻は、その状況の中で、なお、戦う方法を探していた。
虺竜文は、その制限に対抗し続けていた。
クリス・レイシアは、静かにその状況を見守っていた。
相模は、何かを計算するように、その二人の男を見つめていた。
そして、志乃と虚西は、バリアの中で、白塔の奥を見つめ続けていた。
バリアは、全てを制限していた。
だが、その制限の中にも、わずかな隙がある。
白塔の奥からは、かすかに、女性の声が聞こえ始めていた。
その声は、志乃に呼びかけるように、聞こえていた。




