学連の介入
虺竜文の最後の一撃が、虚西の心臓を貫こうとしていた時、金属音が部屋に響き渡った。
刀が、紅叉王の力を受け止めたのだ。
淡い青白い光が、虺竜文の赤い光を押し返した。
吾妻だ。
学連の総隊長が、部屋の崩壊した壁から、刀を抜いたまま現れた。その動作は、何の迷いもない。決定的だ。
虺竜文は、その介入を見ても、怒らなかった。むしろ、興奮の色が強まった。
「誰だ。今のは誰だ」
虺竜文の勾玉が、さらに激しく輝き始めた。彼の関心は、虚西から、吾妻へ移ってしまったのだ。
吾妻は、虚西と志乃の前に立った。その刀は、虺竜文に向けられている。
「吾妻か」
獅子島が、敬語で呟いた。その声には、驚きはなく、むしろ、何かの確認のような響きだった。
「やはり、お出ましですか」
吾妻は、獅子島に答えなかった。ただ、虺竜文を見据えた。
「虺竜文。ここまでだ。そこにいる二人は現在我らの保護観察下にある」
吾妻の声は、低く、だが確実に部屋全体に響き渡った。
虺竜文は、その言葉を聞いて、嗤った。
「保護観察? そんなの関係ねぇ。強い奴がいるなら、倒すだけ」
虺竜文の勾玉の光が、吾妻に向かって展開され始めた。
周囲の無機物——今度は、部屋の壁そのものが——が、凶器へと変化し始めたのだ。
吾妻は、その力に対して、刀を構えた。
その瞬間、戦いの構図が、完全に変わった。
これまでの戦いは、相模と虚西の対峙、虺竜文による一方的な圧倒だった。
だが、今、三つの勢力が、部屋に存在していた。
吾妻の学連。虺竜文の紅叉。そして、相模の月砂。そして、虚西。
相模は、その瞬間を見て、ゆっくりと戦闘態勢を解いた。
彼の古い白い光が、部屋から引き込まれ始める。
相模の目は、虚西から、吾妻へ向けられた。子どもっぽい口調で、彼は呟いた。
「吾妻総隊長か」
吾妻は、相模に答えなかった。ただ、虺竜文との戦いに集中していた。
虺竜文の赤い光と、吾妻の青白い光が、部屋全体で激しく衝突し始めた。
複数の無機物の刃が、吾妻に向かって飛び始めた。
吾妻は、その全てを刀で受け止めていた。その動作は、完全ではない。だが、極めて効率的だ。
虺竜文は、その戦いの中で、さらに興奮していた。
「いいな。やっぱり強い。もっと、もっとだ」
虺竜文の攻撃が、加速していく。
だが、その加速は、同時に、戦局を流動化させていた。
吾妻の戦闘が、虺竜文の全力を吸収し始めたのだ。
その間に、虚西は、志乃を抱き留めたまま、ゆっくりと身体を起こした。
彼の身体には、複数の傷がある。血が流れている。
だが、その瞳は、再び、別の次元を見つめていた。
相模は、その光景を見守りながら、ただ立っていた。
彼の戦闘態勢は、完全に解かれている。
それは、逃げたわけではなく、観察者の位置へ移ったということだ。
獅子島も、同様だった。彼は、敬語で、低く呟いた。
「なるほど。やはり、学連も動きましたか」
獅子島の目は、吾妻と虺竜文の戦いを見守りながら、同時に、虚西の方も視線を向けていた。
この戦いは、もはや「誰かを倒す」ものではない。
それは、全ての勢力が感じ取り始めていた。
吾妻の介入により、戦局は「状況の流動化」へ転換したのだ。
虺竜文と吾妻の戦いが、部屋全体を支配し始めた。
その激しい衝突の中で、虚西と志乃は、ゆっくりと別の場所へ移動する機会を得た。
相模は、その移動を見ても、何も言わなかった。
子どもっぽい口調で、ただ呟いた。
「月砂の領域の奥へ。そっか」
相模の指示が、月砂の戦闘員たちへ届いたのか、部屋の奥から、別の通路が開かれた。
吾妻は、その動きを見ていた。だが、虺竜文の攻撃が激しく、彼はそれを阻止する余裕がなかった。
「逃すか」
吾妻が、低く呟いた。
だが、それは選択だった。虺竜文を止めることが、今、最優先だったのだ。
虺竜文の赤い光が、吾妻の青白い光と、さらに激しく衝突し始めた。
部屋が、その衝撃で、さらに崩れ始める。
その混乱の中で、虚西と志乃は、月砂の通路へ消えていった。
相模は、その光景を見守りながら、ただ立っていた。
獅子島も、同様だ。
二人は、観察者だった。
吾妻と虺竜文の戦いが、全てを吸収し続けている。




