素顔
虚西の白い光が、最大に達した。
部屋全体が、白と赤に分断されていく。相模の古い力は、その激突の中で、一歩引いていた。彼は、虚西とは異なる、別の次元の力を感じ取っていたのだ。
虺竜文は、その白い光を見ても、怯まなかった。むしろ、その興奮が高まっていた。
「いいな。もっとだ。もっと強くなれよ」
虺竜文の勾玉の光が、さらに激しく輝いた。周囲の金属の刃が、全て、虚西に向かって収束し始める。
虚西は、その圧倒的な力の中で、ついに動けなくなった。
部屋の壁に、完全に追い詰められたのだ。
その時、虚西がゆっくりと手を上げた。
パーカーのフードが、その手によって、引き下ろされた。
素顔が、初めて、完全に光の下に露わになった。
その顔は、予想よりも若かった。だが、その瞳——その瞳だけは、若さとは無縁の何かを宿していた。
その瞳は、どこか別の次元を見ているようであった。
深く、遠く、何かの彼方を見つめているかのような、沈んだ色。
志乃は、その瞳を見た時、何かが胸を刺した。
その瞳の奥には、確かに何かがある。
絶望か。あるいは決意か。
それとも、その両方か。
虺竜文は、その素顔を見ても、構わず攻撃を続けた。
「てめーは何がしてぇんだ!?」
虺竜文の声は、純粋な興奮と、純粋な怒りが混ざったものだった。
複数の金属の刃が、虚西に向かって一斉に飛び始めた。
その刃は、もはや、虚西の身体を貫くためのものだ。とどめを刺すための、最後の一撃。
虚西は、その刃を避けることができなかった。
彼の身体が、壁に釘付けにされたまま、その刃が迫り始めた。
相模は、その光景を見ながら、子どもっぽい声で呟いた。
「君はここで終わりなのか? 虚西コウ」
その言葉は、悲しみではなく、ただの事実認識だった。
志乃の身体が、反応した。
彼女は、獅子島の監視から逃れるため、床を蹴った。
その身体が、虚西の方へ、一直線に飛び出した。
「コウ」
志乃が、初めて、虚西の名を呼んだ。
その声は、小さいが、部屋全体に響き渡った。
虚西の瞳が、その声に反応した。
その瞳が、別の次元から、一瞬だけ、この世界へ戻ってきた。
虚西は、ゆっくりと、彼の白い光を展開させた。
それは、防御ではなく、別の何かだ。
その光が、志乃を抱き留めるために、展開されたのだ。
虺竜文の複数の刃が、その瞬間、虚西の身体を捉えた。
彼の肩から、腕から、腹部から、血が流れ始めた。
だが、虚西は、その痛みに顔を歪めなかった。
彼の瞳は、相変わらず、どこか別の次元を見ていた。
志乃は、その光に抱き留められたまま、虚西を見つめていた。
その目には、何かの認識がある。
この青年は、自分を守ろうとしている。
その覚悟は、単なる保護ではなく、何かの選択なのだ。
虺竜文は、その光景を見て、さらに興奮した。
「いいな。もっとだ。もっと」
虺竜文の勾玉の光が、最大に達しようとしていた。
部屋全体が、赤く染まろうとしていた。
相模は、その光景を見て、ただ観察を続けていた。
子どもっぽい口調で、彼は呟いた。
「やるね」
その言葉が、虚西に向けられたのか、それとも、別の誰かに向けられたのか、それは不明だった。
獅子島は、志乃が逃げた瞬間に、微かに眉を上げた。
だが、彼は、それを止めなかった。
彼は、敬語で、低く呟いた。
「興味深い展開ですね」
虺竜文の最後の一撃が、虚西に向かって迫り始めた。
その刃が、虚西の心臓を貫こうとしていた。
その瞬間——
別の気配が、部屋に入ってくるのを、誰もが感じた。
それは、新たな勢力の到来を示唆していた。
虚西の瞳が、わずかに変わった。
何かの、期待。
あるいは、何かの、確認。
その瞳の中に、再び、別の次元の光が、蘇り始めたのだ。




