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ロストテクノロジーは誰のためにあるのか  作者: 維岡 真
第1章 ”零を探せ” 第6節 四天王の座

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対峙

暗い部屋の中で、志乃は床に座ったまま、動けずにいた。


足音は聞こえない。だが、何かが近づいてくるのを感じた。それは空気の変化だ。霊気力の揺らぎ。かつて図書館で水島桃李の存在を感じたときと同じ——何かが、この場所を支配し始めている。


部屋のドアが、音を立てずに開いた。


そこに立っていたのは、パーカー姿の青年だった。虚西コウだ。


フードは被ったままだ。その表情は暗闇に隠れている。だが、志乃は彼の存在を感じた。かつて、何度も自分を見つめていた、あの視線。


「ここにいたか」


虚西が、静かに言った。


それは命令ではなく、確認のような響きだった。


志乃は立ち上がった。


「あなたは、一体?」


答える代わりに、虚西は部屋の中へ踏み込んだ。その動作は緩慢だ。足を引きずっている。月砂のアジトから脱出する過程で、既に何かと接触したのか。


「学連を出た」


虚西が呟くように言った。


「本部は、俺を何かにしようとしている。ジョーカーとか、四天王とか。そういう名前を付けて、支配しようとしている」


志乃は、その言葉を理解しようとした。だが、彼の口調には、怒りがない。ただ、淡々とした事実の陳述があるだけだ。


「だから、来た。お前を連れて、ここから」


虚西が手を差し出した。


その手に、かすかな白い光が浮かんでいた。


志乃は、その手を取ろうとした。


その時だ。


部屋の奥から、別の気配が現れた。


相模楸棲だ。


彼は、虚西の背後から、ゆっくりと現れた。その動作には、敵意がない。むしろ、何かの満足がある。


「来たか」


相模が言った。その声には、妙な親密さが込められていた。まるで、虚西の到来を、待っていたかのように。


虚西は、振り返らなかった。志乃のみを見つめたままだ。


「相模。お前は、この娘を」


虚西が言った。


「保護しているだけさ。だけど、それだけでもない」


相模が答えた。彼は部屋の中へ更に進み、かつての実験装置の輪郭に手を置いた。古い金属。錆びたネジ。その上には、かすかに、霊気力の痕跡が残っている。


「この娘は、君と同じ側にいるべき人だ」


相模が続けた。


「あるいは、君の対になるべき。その判断は、これからの戦いの中で決まる」


虚西が、初めて相模を見た。


その瞬間、二人の間に、何かの共通認識が流れた。言葉を超えた何か。過去の何か。あるいは約束か。志乃には、その内容が理解できなかった。ただ、その沈黙の中に、膨大な意味があることだけは感じた。


「俺は、こいつを連れて帰る」


虚西が言った。


「お前には、関係ない」


「そうか」


相模が、微かに笑った。


その笑みは、虚西の言葉を聞いて、何かを確認したかのようだった。


「じゃあやるしかないね」


相模が呟いた。


同時に、虚西の霊気力が、部屋の中で、かすかな光を放ち始めた。それは赤くもなく、青くもない。白に近い、淡い光。制御されていない霊気力。


志乃の体も、それに応じて、かすかに反応した。本で読んだ最後のページが、脳裏に蘇る。


『零は選ばれるのではなく、集約される』


「君はどうする?」


相模が、志乃に問うた。


「彼に従うのか。それとも、別の道を選ぶのか」


志乃は、その問いに、まだ答えられなかった。


ただ、彼女の中で、何かが共鳴し始めていた。


虚西の白い光と、自分の中にある何かが、同じ周波数を持ち始めている。


部屋の床に埋め込まれた金属プレート。零という文字が、その共鳴に応じて、より明るく輝き始めた。


相模は、その光を見つめながら、口角をわずかに上げた。


何かを確認したかのように。


「良いね」


相模が呟いた。


「じゃあ始めようか」


その時、部屋の外から、突然の轟音が響き渡った。


複数の爆発。金属が壊れる音。


アジト全体が、揺れた。


相模の表情は、変わらなかった。まるで、この爆発さえも、何かの計画の一部であるかのように。


「今度は別の誰かがアジトを襲撃したみたいだね」


相模が静かに言った。


「紅叉だ。虺竜文が動いている」


虚西は、志乃の手を握ったままだった。


だが、その握力は、弱くなり始めていた。


「逃げられない」


虚西が呟いた。


「全て、一点へ集約されている。俺も、お前も。そしてこいつも」


志乃は、その言葉の意味を、まだ理解していなかった。


だが、彼女は感じていた。


今、複数の勢力が、この場所へ向かって来ていることを。


暗い部屋の中で、零という文字が、静かに輝き続けている。


その光の中心に、三人が立っていた。


虚西、相模、そして志乃。


全ての勢力が、一点へ寄り始めたのだ。

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