68. 了承
私が宿に帰ったら、まだシュラさんとファティマちゃんは剣の特訓をしているらしく、ユウトだけが一人布団にくるまっていた。
「おかえり、マーヤ。」
「うわぁ!」
寝ていると思っていた彼から急に話しかけられて驚いてつい大きな声を出してしまった。
「"うわぁ!"って何?俺が起きてることはそんなに変?」
「ち、違うんです。ユウトが自然に起きるなんて珍しいなって思って。」
「やっぱり俺が起きてるの変なんじゃん。」
「あ、いや、そういうつもりはなくて...」
つい口を滑らせてしまった。付き合いが長くなってきたから大分心が緩んでるところはあるけど、超えちゃいけない一線はあるから、気を付けなきゃ。
「いいんだよ。それよりさっきまでどこか行ってたみたいだけど、どこ行ってたの?」
でも彼は気にしていないという風に返事をして、話を振ってきた。
「派出所に行ってたんです。王猪の皮と牙の鑑定がどれくらいで終わるかを確認したくて。受付の人によると、あと1,2日で結果が出るそうです。」
「そうなんだ。案外短いね。」
「それと、そこで竹の位の冒険者に誘われたんです。一緒に依頼を受けないかって。」
「え!?冒険者に誘われた!?誘った人は男性?女性?」
気になるのそこ?
「男性ですけど....」
「その人はイケメン?」
この人は何を聞いてんだ?
「顔は良かったですよ。体を鍛えているみたいでガタイも良かったですね。」
と見た目の話だけした。中身の話をしちゃうと彼を必要以上に罵倒しそうな気がしたからやめておいた。
「マジか.....で、その誘いは受けたの?」
「まだです。仲間と相談してから決めてもいいですか。と言って戻ってきました。」
「良かった~。てっきりマーヤがその男に惚れたのかと思った。」
「はぁ?私があいつに惚れる?そんなのあり得ません!」
「そうなの?それならいいんだけど....」
ユウトは何を心配しているの?私があんな性格のやつに惚れるわけないじゃん。あ、そっか性格の話はしてないのか。
一旦ユウトにもこの話をどう思うか聞いてみよう。
「ユウトはどう思います?この話。」
「えっと、竹の位の冒険者と一緒にやるってことだよね。竹の位ってどれくらいすごいんだろう。」
「めっちゃすごいですよ!成の位より上の梅・竹・松・極の位は討伐依頼じゃないとほとんど得点が入りません。なので戦いが強くしかも生き延びる運を持った人でないと昇格できない域なんです。」
「討伐依頼を厳選してる俺らとはレベルが何段階も違うってことね。」
「そうです。そんな熟練者に冒険者としての戦いを教えてもらうのは、私はいいと思います。」
「確かに。俺の魔術も無敵ってわけじゃないし、みんなで冒険者のいろはを教え込んでもらうのはいいかもね。」
と彼は賛同してくれた。
そのあとユウトと取るに足らない話をしていたら、夕方ごろシュラさんとファティマちゃんが訓練から帰ってきた。
二人にも同じ話をしたら、二人とも了承してくれた。シュラさんは「いい経験になるだろう。」と言って、ファティマちゃんは目を輝かせていた。
みんなで話し合って明日、派出所に行ってディナムさんに話をしに行くことで決まった。
今日は未だ余っていた兎肉を塩漬けにしておいたものを煮た。鶏肉みたいにあっさりした兎肉はどんな味付けでも合いそうだ。これはご飯が進む。
お腹いっぱいになった私たちは素早く布団を敷いてそのまま眠りに落ちた。
翌朝、寝ぼけ眼をこすりながらユウトとファティマちゃんを起こし、急いで身支度をする。
朝のこの時間は昼間の稼働にむけて依頼を受ける時間だ。今ならディナムさんに会えるかもしれない。
急いで派出所に向かうとそこは人でごった返していた。
冒険者ってこんなにいるの!?
いやいや感心している場合じゃない。ディナムさんを探さなきゃ。でもこんな人混みの中でどうやって探せばいいんだろう。
キョロキョロと首を動かしていると、いきなり肩をポンと叩かれた。
驚いて振り返ると、知っている顔がそこにはあった。
「やぁ、昨日ぶりだね。」
ディナムさんだった。後ろには彼の仲間と思しき人たち5人がこちらを覗き込んでいる。
「おはようございます。今日は昨日の返事がしたくてやってまいりました。」
「そう。昨日の今日でありがとね。そちらに居るのは仲間かい?」
「はい。そうです。」
「ほう。ホルミ族、キンミ族にドーラ族の少女か。これは全く戦えそうにないね。よく成の位に上がれたものだ。」
彼は私たちに聞こえるようにそう言った。私は拳を握り締めて怒りを抑え込む。
くそ、好き勝手言いやがって。うちのユウトはとんでもなくすごいんだから。
「それでどうするんだい?一緒にやるかい?」
男は私の怒りなど気づいていないようで能天気に聞いてきた。こいつはムカつくけど手練れであることは間違いない。性格はあれだけど吸収できるものはたくさんあるはずだ。この機会を逃すのはもったいない。
「はい。謹んでお受けいたします。」
私たちはディナムの仲間の方々と共に卓を囲んでいた。
一通りの自己紹介が終わった時、ディナムが口を開いた。
「で、問題は何の依頼を受けるかだ。俺らは竹の位でお前らは成の位だ。実力差があるから下の方に合わせるとして、俺らは成の位の依頼をもう受けれないんだよ。だから必然的に梅の位の依頼になるが、大丈夫か?」
「大丈夫です。上位冒険者の方々と同行できる機会はそうそうないので、その程度で文句を言うつもりはありません。」
と私はきっぱり言った。
「そうか。なら、梅の位の依頼を受けるわけだが、ちょうどいいものは無いかな?」
その時、ディナムさんの仲間の女性が言った。
「遺跡に住まう魔物の鱗を集めるだけの依頼があったはず....それならあなたたちでも出来るんじゃない?」
「おぉ!それいいな。ありがとうレイヘン。」
そうと決まったら、話はトントン拍子に進んだ。ディナムさんは依頼板で依頼を確認し、私たちの分も含めた陣形を考え、もしもの時の助けの呼び方まで教えてくれた。
仲間たちと話し合いながらサクサクといろんなことを決めていくディナムの姿は、昨日見た嫌味な男と全くの別人で、すごく頼もしく思えた。
「よし、じゃあこのまま依頼を受けちゃって今日中に片付けよう!」
彼はそう言い、受付に走り去っていった。
その隙に私は彼の仲間の一人レイヘンさんに話しかけた。
「あの...ディナムさんっていつもあんな感じなんですか?」
「そうね。いつもああやって思いつきで行動して、振り回されることも多いけど、やるときはやる男だから安心していいわよ。」
「それもそうなんですけど、昨日会ったときはもっと嫌味な感じだと思ったんですけど....」
「ああ、彼はそういうところあるのよ。後輩冒険者を見つけたら見栄を張りたくなっちゃうのよね。特に女の子に。あなたは大丈夫だった?」
「ええ、私は大丈夫ですけど。」
「よかった。あなたも彼に変に魅了されてるんじゃないかと心配だったわ。」
「はぁ。あの人のどこが魅力的なんですか?」
「ふふふ。そうよね。でも思ってもそんなことは言っちゃだめよ。特に本人の前ではね。」
「す、すいません。」
「いいのよ。」
彼女と話していたらディナムさんが戻ってきた。
「依頼受けたぞ!今から行こう!」
そう言い彼が拳を上げると、彼の仲間たちが「おぉー!」と同じく拳を上げた。
私の仲間はみんなきょとんとした顔だ。ディナムさんたちの動きが早すぎて頭が追い付いていない様子だ。私もよく分かってない。
まあとりあえず今回は大船に乗ったつもりで彼らを頼ってみよう。
私はダメだと思いつつも、ずっと張り詰めてきたから今は気楽な考えに飛び乗ってもいいのかなと考えていた。




