69. 協力
私たちは町から半日ほど離れた洞窟の中にある遺跡へ来ていた。
この遺跡は今から1000年ほど前の千年戦争の時代に作られたものだという。当時のホルミ族の居住地兼軍事要塞として機能していたとレイヘンさんが教えてくれた。
大きな氷のような柱が何本も洞窟の天井まで聳え立っている。その柱の至る所に細かい彫刻が施されている。
遺跡って初めて見たけど、こんなにすごいんだ。私は語彙が全く浮かばないほどに感動していた。
ディナムさんたちはその遺跡に目もくれず依頼場所に直行していた。彼らは何度もこの洞窟に来ていて見慣れた景色なのだろう。
今回受けた依頼場所はこの遺跡の巨大な門の前、ここは蜥蜴帝の通り道でよくその鱗が落ちているらしい。
「あった!」
早速、ファティマちゃんが鱗を見つけた。これを集めるだけの依頼だ。かなり簡単である。
しかし回収を始める前にディナムさんから注意された。
「あの遺跡の向こうは蜥蜴帝の住処だ。決して近づくんじゃないぞ。」
蜥蜴帝は松の位に属する魔物だ。だから私たちはもちろんディナムさん達でも討伐するのは難しい。
ここは波風立てず、静かに鱗を回収していけばそんな魔物に遭遇することもないだろう。
順調に鱗を集めていき私たちだけで50枚は集めたかというときに、洞窟のどこかから異音がした。
ブォォォォォン...ブォォォォォン...
不気味なほど低いその音は床を這いずるように洞窟全体に響いた。
その場にいた全員がこの音は何だと身構えた時、ディナムさんの仲間が叫んだ。
「あそこを見ろ!蜥蜴帝がこっちへ向かってくるぞ!」
そう言われ指が差された先を見ると壁の隙間から数十匹いや数百匹のトカゲがこちらへ全速力で走っていた。
まずい!このままじゃみんなやられちゃう!
ディナムさんはトカゲたちと向かい合い私たちに言った。
「お前らは地上に避難しろ!ここは俺たちで何とか食い止める。」
そんなこと言ってもディナムさん達で食い止められるか分からない。と一瞬考えてしまい、動作が1秒遅れてしまった。
その時、一番前のトカゲがもう私のすぐそばまで来てしまっていた。
そのトカゲと目が合ってしまう。私の体より何倍も大きいそれは、美味しい獲物を見つけたかのように私を見つめていた。
ドォォォン!
横から大きな氷の矢が飛んできてトカゲの脳天に直撃する。トカゲはそのまま横に倒れた。ピクリとも動かない。
魔法が来た方を見るとディナムさんの仲間であるホルミ族のグラチェスさんが立っていた。
「ありがとうございます。」
私がそう礼を言うと、
「礼はいいから早く逃げろ。」
とグラチェスさんは短く言った。
私は頷き、ファティマちゃんを背負って洞窟の出口の方へ走り出した。
走りながらディナムさん達の考えが分かってきた。彼らも心のどこかではこんな強力な魔物にかなうわけがないと思っているかもしれない。
でも一人でも多くを助けるために、彼らは死ぬ気で戦っているのだ。その覚悟を無下にすることはできない。
遺跡を見渡せる高台まで来た時、下で地鳴りのような土砂崩れのような音がした。
ディナムさん達に何かあったんではないかと思い振り返ると、ユウトが蜥蜴帝に土の雨を降らせていた。
その雨によって蜥蜴帝が次々と地面に突き刺さり死んでいく。しかし雨をかいくぐったトカゲがユウトめがけて一目散に迫っていく。
それをディナムさん達が魔法で何とか倒していくが、それでも一体倒しきれずユウトに迫るトカゲがいた。
やばい!ユウトが危ない!
そう思ったとき、そのトカゲは真っ二つに割れた。
血しぶきの先にはシュラさんが刀を構え立っていた。彼が目にも留まらぬ速さでトカゲを一刀両断したのだ。
それを境にディナムさん達とユウト、シュラさんの攻勢が始まる。
まず手始めにユウトが蜥蜴帝の現れた壁の隙間を土で塞ぐ。迫ってくるトカゲたちをディナムさん達の魔法とシュラさんの剣術で一匹ずつ倒していく。
壁をふさぎ終えたユウトは残ったトカゲを土の雨で一掃、取りこぼした個体はディナムさん達やシュラさんにより一匹残らず処理された。
やった!全部倒した!
そう喜びに浸る時間はなかった。ディナムさん達を見ると腕や足からぽろぽろと血が滴っている。私は急いで高台から降り、彼らに駆け寄って治癒魔法をかけた。傷口は持参してきた薬で消毒した。
シュラさんも深い傷ではないが至る所に傷を負っていた。彼の傷も癒し消毒する。
ユウトは無傷で立っていた。
疲労感と安心感と達成感が場を支配する。でも誰も口を開こうとしなかった。死の淵を何とか生還できたことに心が追い付いていないのだろう。
しばらくの沈黙の後、ディナムさんが口を開いた。
「ユウト、お前魔術を使えたんだな。しかもすごい魔法だ。」
「あ、ありがとうございます。」
ユウトは照れくさそうに頭を掻いた。
「それにシュラ。あんたもすごい剣術を持っているようだ。」
「ええ、剣には自信がありますので。」
シュラさんはさも当然かのようにその賛辞を受け取っていた。でも私は彼が後ろを振り返るときに口元が綻んでいるのを見逃さなかった。
「じゃあみんな!帰ろう!」
ディナムさんのその一声で皆動き出した。
町に帰り回収した鱗の換金を済ませたら、ディナムさんがそのお金の半分を私に差しだした。
「これはお前たちの分だ。」
「いやいや、こんなに戴けません。」
人数差も実力差も違うのに報奨金の半分貰うなんてできない。そう思い私は断ったが、彼は引き下がらなかった。
「お前たちのおかげで俺らは助かったんだ。後輩はいやいや言わず先輩の恩情を受け取るがよい。」
そう言われてしまったら受け取るほかない。私は申し訳ないと思いながらもそのお金を受け取った。そしたらディナムさんは見たこともない爽やかな顔になって、
「じゃあな。またどこかで会おう!」
と言い去って行ってしまった。もっとたくさんお礼を言いたかったのに、その隙も与えず彼らは町の帳の中に消えていった。
「いくらもらったんだ?」
ディナムさんとのやり取りを後ろで聞いていたシュラさんが話しかけてきた。私は袋の口を開けシュラさんに見せる。
「こんな貰っちゃダメだろ!早く追いかけないと!」
「私もいらないと言ったんですけど、後輩なら貰っとけって言われて....」
「ならいいんじゃない。貰っておけば。あの人もカッコつけたいところがあるっぽいし。」
ユウトが口を挟んできた。
「それは、そうかもしれんな。」
シュラさんが珍しくユウトに丸め込まれていた。
「じゃあ俺らも帰るか。」
そうユウトがつぶやいたが私は首を振って言った。
「まだやることがあります。」
私はみんなを連れてもう一度派出所に入った。そこで受付の人に鑑定はどうなったかを聞いた。するともう鑑定は終わっているようだった。
「こちら、王猪の皮と牙とおっしゃっていた品物がどちらも本物だと分かりました。よって皮は金貨2枚、牙は金貨3枚で買い取らせていただきます。」
えっ!ということは二つで金貨5枚!!
「今買い取ってもよろしいですか?」
「はい!お願いします!」
私は二つ返事で了承した。これで私たちは大金持ちだ。
受付の人が皮と牙を奥にしまい込み、そして机の上に5枚の金貨を取り出した。
その金貨はキラキラと光って眩しささえ感じた。それを受け取り袋に入れた時の高揚感は筆舌しがたいものだった。
帰り際で高級品のカニを買い、4人で夜まで馬鹿みたいに騒いだ。
ああ、そう言えばこんなこと一回もしたことなかったな。ずっと気を張っていて、息抜きはあんまりしてなかったかも。夜まで騒ぐなんて馬鹿のすることだと思っていたけど、実際にやってみると本当に楽しい。
現実はつらいことだらけだけど、この一瞬だけはそれを忘れてもいいような気がした。
一方で、マーヤたちが金貨5枚を受け取ったと知ったディナムは、もう少し自分たちの取り分を多くすればよかったと後悔するのだった。




