65. 迷子の冒険者
やばい....どうしよう....
私たちは深い森の中で帰り道を見失っていた。
「ど、ど。どうしましょう!早く帰らないと、日が落ちちゃう!」
私は動揺が隠せず、震えた声でそう言った。
「落ち着けマーヤ。日没までまだ時間はある。ゆっくり探していけばいい。」
シュラさんは落ち着いた口調で言った。こんな状況で何でこんなに落ち着けるの?
「で、でも、どうするんですか?なんか方法はあるんですか!?」
「だから落ち着け。分からんが何か方法があるだろう。山の中なら迷ったときの対処法を多少知っているのだが...」
なに、シュラさんも分かんないんじゃん!じゃあどうすればいいの!
私の焦りを感じたのかユウトが口を開いた。
「俺、木に登って町を探してみるよ!」
止める間もなく彼は近くの木にすいすいと登っていった。
「ダメだ!葉っぱが邪魔で見えない!」
上の方からユウトの声が聞こえた。
そりゃそうでしょ。ここは森なんだから。
またすいすいと下りてくる。
「ダメだったね。」
彼は残念そうに言った。
彼の突飛な行動で私は少し落ち着くことが出来た。ありがとうユウト。
さてどうするか。森の中で迷った私たち。目印も何もつけてなかったのは失敗だったな。
森に入ってどれくらい経ったかな。朝に依頼を受けてすぐに出発して1時間ほどで森に着いた。だから9時ぐらいに森に入ったとして、今を昼過ぎだとすると3~4時間くらい森の中にいる?
ただ私たちはまっすぐに歩いてここに着いたわけではない。すばしっこくちょこちょこ方向を変える 小兎を追いかけながら来たから、ジグザグみたいな感じで来たのかもしれない。どうしよう...方角が全く分からない。
「おい、ユウト。太陽はどこにあったか分かるか?」
私が考え込んでいるとシュラさんがユウトに質問した。
あっ!そっか!太陽の位置が分かればなんとなくの方角がわかる。天才!シュラさん!
「えっと、どこだったっけな。多分あっちの方だと思う。」
とユウトは指を差した。ということはあっちはの方向は大体南ということだ。
そしてここは町の南にある森、北に向かえば町がある。だから太陽とは反対方向に向かえば町に戻れるはず.....!
シュラさんも分かったみたいでユウトが指を差した方向と逆に歩き始めた。
ユウトは最初「なんで?」という顔をしていたが、少ししたら腑に落ちたみたいだ。
ファティマちゃんだけ不安な顔でついてくる。そうだよね。大人たちがこんなにいるのに森で迷って不安だよね。不甲斐ない大人でごめん。
北の方向に歩いていくと、地面に赤く染まった葉っぱを見つけた。これは兎の血。ここで兎を仕留めたということだ。
着実に来た道を戻っている。やった。これで帰れる....
そう思ったとき、シュラさんが突然歩みを止めた。
「どうかしたんですか?」
「しっ」
彼は小指を口に当て、静かにするように促した。
なに?何が起きたの?
彼はあたりを慎重に見回している。
息をひそめた声でみんなに言った。
「何かが近づいてきている。気を付けろ。」
ただそれだけだった。「何か」が何なのか教えてくれなかった。多分彼も分からないのだろう。
不安な気持ちがどくどくと心を締め付けていく。無意識にファティマちゃんを手繰り寄せぎゅっと抱きしめていた。
その時、
「来た!」
とシュラさんが叫んだ。
彼の向いた方向をみると、大きな大きなイノシシがこちらを睨みつけていた。
「王猪か。なんでこんなところに。」
シュラさんはすっと刀を抜いて中段の構えをとっていた。
「マーヤ!ファティマちゃんを担いで走れ!まっすぐじゃなくて、木を縫うように走れ!早く!」
私はシュラさんのその迫真の命令に、考える間もなくファティマちゃんを背負い走り始めた。
木を縫うようにジグザグと走り続けた。無我夢中に走り続けた。シュラさん...ユウト...お願い....
--(シュラ視点)--
俺は王猪を前に刀を構え、冷や汗をかいていた。
こんな大きな魔物と対峙したことはない。右手が震えていることに気づき、心を締めなおす。
「ユウト!いるんだろ!」
「はい!」
上から声が聞こえた。木に登ったのだろうか。いつの間に。
「俺は王猪の突撃を躱すからその隙に攻撃してくれ!」
「分かりました!」
王猪は俺らのやり取りを待っていたかのように動き始めた。迷わず俺に向かって突進してくる。
大きいのに足速いな。でも大丈夫だ。この速度なら避けられる。
俺はぎりぎりまで引っ張り、もうぶつかると思ったところで横に飛んだ。王猪の巨体を難なくかわす。避けたついでに王猪の側面に刀を立てたが、皮が厚く全く刃が入らなかった。
王猪は止まり切れずに正面の木にぶつかった。
ドガーン
と大きな音がし、木が根元から折れた。とんでもない威力だ。俺が真っ向から受けてたらと考えると武者震いする。
木にぶつかり、王猪の動きが止まった時、大きな火の玉が飛んできて奴の全身を包んだ。
ユウトか!?
あんな大きな魔法を瞬時に出すとか、やはりこいつはバケモノだ。
王猪は大きな炎を纏い悶え苦しんでいるが、まだ死なないようだ。
奴は俺の方へ向いた。猛烈な憎悪を感じる。
「いや、その魔法を打ったのは俺じゃないぞ!?」
猪に俺の言葉など届くはずもなく、奴は突進を始めた。
しかし、動きのキレは微塵もなく楽々避けられた。
王猪はまた木にぶつかるも今度は折れなかった。
奴はそこで力尽きて倒れた。巨体を覆う業火が焦げ臭い匂いを運んでくる。
待て。このままじゃ山火事ならぬ森火事になるぞ!
「おい!ユウト!早く火を消せ!」
俺は上に向かってそう叫んだ。
「はいはい。分かりました。」
しかし返事は後ろから聞こえた。いつの間に木を下りたんだ。しかも全く気配を感じなかった。こいつの不気味さに俺は恐れおののいた。こいつが仲間でよかったと心底思う。
ユウトは倒れた王猪に手を向けると、何かをつぶやいた。すると王猪の周りに大雨が降りだした。
それでも火は粘り強く燃えていたが、ユウトも手を緩めることなく雨を降らせ続けた。
しばらくしてやっと鎮火した。真っ黒になった王猪の巨体から溢れんばかり煙がのぼっていく。
「はぁ~何とかなったか。」
「意外と楽でしたね。」
ユウトが近づいてきて飄々と言った。
「それは、お前が規格外なだけだよ。王猪は松の位以上から討伐可能になる魔物だ。そんな奴を一発で倒したんだ。誇っていいぞ。」
「ほんとですか!やった。」
彼は本当に嬉しそうな表情をする。全くかわいいやつだ。さっき無慈悲に巨大な火の玉を浴びせたやつとは思えない。
「.....すごい火事が見えたんですけど、大丈夫ですか?」
すると、ファティマを背負ったマーヤが戻ってきた。あの大きな炎を見て心配になったらしい。
「大丈夫だ。あれはユウトの魔法だ。その炎も彼が鎮火してくれた。」
俺はあきれた声でそう説明した。
「本当ですか!?ユウトすごい!」
マーヤはいろいろな誉め言葉をユウトに浴びせていた。彼女はユウトが怖いとか思わないのだろうか。
まあずっと一緒らしいからな。信頼しているのかもしれない。俺は彼をまだ怖いと思うから信頼しきれてないのかもしれないな。
その後、俺たちは再度進む方向を確認し、森を歩き続けた。
西日が空を赤く染めるころ、俺たちは森を出ることができた。




