64. 魔物討伐
翌日、私たちは朝ご飯を軽く済ませ、組合の派出所に来ていた。
魔物の討伐依頼を受けることに決まり、私とシュラさんは依頼板に貼られた依頼が書かれた木片を吟味していた。
魔物討伐といっても危険性を考えてなるべく弱い魔物がいい。ちょうどよくそんな依頼あるかな?
「お、この依頼いいんじゃないか?」
そう言ってシュラさんが指さした先の木片にはこう書かれていた。
『南の森に大量発生している 小兎を間引きせよ。兎一羽につき銭貨1枚と交換可能。狩猟の証は小兎の尻尾とする。』
小兎は、どこにでもいる下級の魔物で、攻撃力は低く、小柄な体を活かした俊敏性でちょこちょこと逃げ回るのが得意な魔物だ。これならファティマちゃんに危害を加えられることもない。
「これいいですね。」
私はシュラさんに賛同し、後ろで待っていたユウトとファティマちゃんのところへ持っていく。
「それは何の依頼?」
「 小兎という魔物を討伐する依頼です。小兎はすばしっこけど攻撃力はほとんどないからファティマちゃんに危険は及ばないと思います。」
木片を指さし質問してきたユウトに対して私はそう答えた。
「うさぎさんを捕まえるの?」
ファティマちゃんが私を見上げて訊いてきた。
「そうだよ。」
「やった~!うさぎさんだ!」
彼女は嬉しそうに跳ねた。
私はその木片を受付に持っていき、「この依頼を受けます。」と告げた。
——————
私たちは町から南に1時間ほどの森に来ていた。この森の中で小兎が大量発生しているらしい。
すると...
「うさぎさん!」
ファティマちゃんがそう叫び走っていく。
「ちょっと!走ったら危ないよ!」
私はそう言いながら彼女を追いかける。その先にはすばやく動く灰色のものが見えた。あれが、小兎....?
「つかまえたっ!」
ファティマちゃんは小兎の手を掴み身動きを取れなくしていた。それを私に見せてくる。
「マーヤお姉ちゃん!つかまえたよ!」
兎は足をバタバタさせているが宙に浮いているので何もできていない。
「ファティマちゃん!すごいね!」
私は彼女の頭をワシワシと撫でた。彼女は嬉しそうにそれを受け入れていた。
その後、私はしゃがんで兎と向かい合い、懐に差していた小刀を取り出し....
グサッ、
兎の首を刺した。刺し傷からボタボタと血が落ちていく。兎はぴくっと動いたがすぐに全く動かなくなった。私はそれを確認し小刀を引き抜く。
するとボトッと兎が落ちた。ファティマちゃんが手を離したのである。驚いて彼女を見ると、恐ろしいものでも見る目をしていた。
「ファティマちゃん、大丈夫?」
私は彼女に触れようとしたが右手が兎の血で汚れていることに気づき、そっと手拭いで拭いた。
その間も彼女は固まっていた。
「な...なんで....」
体を震わせながら彼女は絞り出すようにそう言った。でも私は彼女が何を言いたいのか分からなかった。
「ごめんね。もう一回言ってくれると嬉しいな。」
「な、なんで、うさぎさんを殺したの!?」
眼をうるわせながら言った。
私はその言葉に驚いていた。魔物「討伐」というのだから、魔物を殺すのは当たり前だと思っていた。今回の依頼も兎の尻尾を持ってこないと獲物として数えられないから、尻尾を削ぐには小兎を殺さなきゃいけない。
「ええと、魔物討伐だから魔物を殺さなきゃいけないんだよ。」
私はそう言ったが納得いってないようだ。
「かわいそうだよ!」
彼女は叫ぶようにそう言った。純粋なその瞳が突き刺さる。
彼女の前で魔物を殺すのは早かったのかもしれない。
「でもファティマちゃん。魔物を殺さなきゃ魔物に殺されちゃうってこともあるんだぞ?」
後ろから優しくシュラさんが声を掛けた。
「でも、このうさぎは危なくないんでしょ!?」
彼女は涙ながらにそう主張する。その勢いにシュラさんは押し黙ってしまった。
どうしよう。私もかける言葉が思いつかない。
するとユウトがゆっくりと近づいてきた。
ユウト!何か言って!ファティマちゃんに現実を教えてあげて!
でも彼は何も言わず優しく彼女を抱きしめた。
耳元で小さくささやく。
「そうだよね。可哀そうだよね。」
彼の目には涙が浮かんでいた。
「でもね....しょうがないんだよ。この世界はね、少しおかしいんだよ。」
彼は寄り添うようにそう言った。
ファティマちゃんは何かを理解したようだった。やっと腑に落ちたみたいな顔をした。
彼女は涙をこらえゆっくりと私に目を向けた。
「わがままいって、ごめんなさい....」
彼女はそう言い頭を下げた。私は慌てて、
「ちょ、ファティマちゃんは謝らなくていいんだよ。急にうさぎさんを刺しちゃってごめんね。」
と頭を下げた。
「いいよ!」
彼女は明るく許してくれた。
「じゃあ行くぞ。早くしないと陽が落ちちゃう。たくさん兎を狩るぞ!」
シュラさんが空気を変えるようにスパッと言った。
私は地面に放置されていた兎の皮を剥ぎ、尻尾を切った。その尻尾と皮を袋に詰め、残った肉の部分を塩でもんで葉っぱでくるみ、それも袋に入れた。兎肉はかなりおいしいのだ。もったいないから持っていく。
シュラさんは私に構いもせず森を進み始めた。ファティマちゃんは彼についていく。よかった元気を取り戻したみたいだ。
その後、順調に私たちは兎を狩っていった。ファティマちゃんは足で兎を追いかけて手でつかみ、ユウトは魔法で仕留め、シュラさんは刀で一刀両断していた。私はすばしっこい兎を全くつかまえられなかった。
昼過ぎにはみんな合わせて20羽ほど兎を仕留めていた。でも私が仕留めた兎は一羽もいなかった。
「もうすこし集めたいところだが、大事を取って町に戻るか。」
シュラさんがそう言った。私はそれに頷き、ユウトも「そうしましょうか。」と言った。ファティマちゃんだけがまだやりたがっていた。
しかしここで重大なことに気づいた。
「あれ?町の方向ってどっちでしたっけ?」
私のその声は森の緑に染み渡った。
誰も答えない。え?まさか、誰も把握してなかった!?
森に入り込みすぎた私たちは町の方向を見失い、迷子になった。




