63. 仲間との話し合い
「みんなでちゃんと話し合いましょう。魔物討伐のことを。」
私がそう言うと、部屋の空気がピリリと引き締まった。
「ユウトは魔物討伐依頼を受けた方がいいっていう意見だったよね?」
私は向かいで胡坐をかくユウトに話を振る。
「そうだね。俺はやっぱり魔物討伐に行った方がいいと思う。これから冒険者として旅を続けていくためにも魔物との戦い方を身に着けていった方がいいと思うんだ。」
ユウトは私の顔の少し下を見ながらも、はっきりとした声で言った。
「でもファティマちゃんに危険なところへ行かせたくないと私は思います。別にユウトは魔物討伐に行ってもいいですが、ファティマちゃんを巻き込まないでください。」
私はユウトの意見にそう反論した。
「巻き込んでないよ!ファティマちゃんを連れていくのは彼女が行きたいって言ったからで、俺も彼女には痛い目に遭ってほしくないよ。」
「それなら....」
「でも、魔物退治っていう一大イベントを宿に籠って待たなきゃいけないっていうのは可哀そうだよ。彼女行きたがってるんだよ?」
「ファティマちゃんは魔物に出くわしたことがないんです。だからその怖さを知らない。彼女に魔物の怖さを教えるのは大人の役割じゃないですか?」
「だから、それを肌で感じようって言ってるの!魔物は実際に見るとものすごく怖いけど、それを倒したらすごく高揚感がある。ファティマちゃんにはそういう経験をしてほしいんだ。」
私たちの議論は白熱してしまった。ファティマちゃんとシュラさんのことはお構いなしに二人の間で激論が繰り広げられていく。
私はいつの間にか汗をかいていた。この部屋が暑いわけじゃない。何を言っても意見を一向に曲げないユウトに苛立って顔が熱くなっているのだ。
私たちの口論は小一時間続いた。二人は我を忘れていた。目の前の相手をどう言い負かすかということだけを考えていた。
「そこまで!」
シュラさんがそう言って止めた時も、私はまだ続けようとしていた。
「お前ら白熱しすぎだ。ファティマちゃんが震えているじゃないか。」
シュラさんにそう言われて、ハッとなってファティマちゃんの方を見る。彼女は部屋の隅で布団をかぶり震えていた。
私はゆっくりと彼女に近づいた。
「ごめんね....怖かったよね....」
優しい声で言い、背中をさすると彼女の体がビクっと震えた。
「ごめんなさい....私のせいで....」
彼女は小さく震えた声でそう言った。
その言葉に私は我に返った。
なんて馬鹿なことをしてしまったんだ。こんな小さな子の前で本気の口喧嘩を見せてしまうなんて。しかもずっと仲が良かった私とユウトがあんな風に喧嘩するところを見せてしまうなんて。
「ファティマちゃんのせいじゃないよ。」
私は優しくそう言ったが、彼女はより布団を深くかぶり塞ぎ込んでしまった。
そこで私は重大な過ちをしたことに気づいた。彼女は自分のことで二人が口論しているのを幼いながらも分かっている。それなのに私は無責任に「あなたのせいじゃない」と言ってしまった。そんなことを言って、ファティマちゃんはそんなの嘘だと思っちゃったのだろう。本当に私がそう思っていても。
部屋に重い空気が立ち込める。誰もしゃべらないし動かない。息苦しさだけがへばりついていた。
どうすればいい。私はどうすれば....
そのときシュラさんが口を開いた。
「じゃあ、まず、一回魔物討伐依頼を受けてみたらどうだ?それでファティマちゃんが嫌と言うならやめたらいい。」
「でも....それは....」
私の不安が抑えきれずに口から零れる。一回だけだとしてもファティマちゃんに危険が及ばないとは限らない。
「わかった。やる。」
私のそばで震えていた少女が、決意を固めたようにそう言った。
彼女がそう言っても私の心は揺らがなかった。今重要なのは彼女の意志じゃなくて、彼女に危険が及ばないことを保証できるかじゃないの?
でもユウトもシュラさんもファティマちゃんも、それが着地点と言わんばかりに顔を見合っている。
私は考えすぎなのかな。心配しすぎなのかな。
わかってる。魔物討伐という死と隣り合わせの環境で、危険がないことを保証することなんて無理だということを。
なんせ私たちの中で戦闘員は2人しかいない。いくらユウトの魔法が強力だとしても、シュラさんの剣術がすごくても、二人を守りながら戦うのは、限界があるだろう。いざというときは私も剣を握るけど、私如きの剣術でどうにかなるか分からない。
でもファティマちゃんがそう言うなら、それでいいのかな。
私はふと初めて魔物と出くわしてしまったときのことを思い出した。そのとき私は何もできなかった。恐怖で体が固まり動けなかった。そんな私をユウトが助けてくれた。圧倒的な魔術で倒してくれた。それで私はユウトを強く信頼できるようになった。魔物に対する恐怖が少しだけど和らいだ。
ユウトはそう言う経験をファティマちゃんにさせたいと思っているのか。
やっとユウトの言いたいことが腑に落ちてきた。楽観的かもしれないけど、魔物討伐でみんなの絆が強まったら、いいことなのかもしれない。
「わかりました。やりましょう。」
私は意を決してそう言った。
「よし決定だな。明日、下級魔物の討伐依頼が無いか探してみよう。」
シュラさんが話し合い締めくくった。各々が布団に入っていく。
私は布団に入っても全然寝れなかった。あの息苦しい空気が忘れられない。
私が思いやりだと思っていたものは、お節介だったのかな。何も文句を言わずユウトの案を受け入れた方が良かったのかな。ただ周りの空気を悪くしてかき乱しただけだったのかな。
そう考えると胸が苦しくなって、涙がこぼれてきた。
枕がぐちょぐちょに濡れていく。
窓から入る月明かりが私の顔を仄かに照らす。
私、何してんだろ。




