62. 北西の港町
それから数週間後、ホルミン王国北西部で一番大きい港町ハーフェンに到着した。
その町はゲリスほどは大きくはないけど、これまでの町と比べたら段違いに大きかった。
商店街は賑わっており人の往来も多い。この町はどんな感じなのか散策していると、港の近くまで来た。そには大きな帆の付いた船が何隻も停泊していた。
「おぉ~!おおきい!」
ファティマちゃんは気分上々だったが、私とユウトはゲリスでもっと多くの船を見ていただけにあまり驚きはしなかった。シュラさんは黙ってるけど、本当はすごく感動してたりして。
私たちはまず冒険者組合の派出所を探すことにした。ハーフェンは大きな町なので組合の施設があると思ったら、すぐに見つかった。
商店街の先に大きめの宿屋のようにそれはあった。
そこに入り、まずシュラさんとファティマちゃんを冒険者登録し、「暁の旅路」に加入させた。二人はだいぶ前から仲間だったけど、書類上では赤の他人だったのだ。
これまで宿場町などで受けてきた依頼を報告した。依頼をこなした数で得点がもらえ、一定の得点が貯まったら次の位に昇格できる。これまで受けた以来は組合の管理外の依頼であるため、公認の依頼より得点が半減してしまうが、宿場町に入るごとに依頼をこなしてきたので雑の一つ上の「並の位」に昇格することが出来た。そしてその次の位である「成の位」にすぐ昇格できる位置まで来ていた。
「成の位」になれば下級の魔物を討伐する依頼を受けることが出来る。受付のお姉さんからそう説明されると、ユウトが目をキラキラさせていた。
「魔物討伐だってよ!絶対やりたい!」
派出所の二階の食堂で彼は机から身を乗り出して目を輝かせている。
「でも、ファティマちゃんがいるし危ないんじゃないですか?」
「そうだけど....でもせっかく冒険者になったんだし、魔物討伐依頼を受けてみたいよ~」
彼はそうごねた。もう子供じゃないんだから。するとシュラさんがユウトの気持ちを察したのか口を開いた。
「じゃあ俺がユウトを連れて行って、マーヤとファティマが町で待っていればいいんじゃないか?」
「あ~それいいですね。」
私はシュラさんの提案に乗った。ユウトは満足げに頷いている。その時、ファティマちゃんが私の袖を引っ張った。
「ファティマも行きたい。まもの退治。」
「えぇ~?」
ファティマちゃんの懇願に私たちは困ってしまった。彼女には安全なところにいてもらいたいのは3人とも一緒だった。
「まあ下級の魔物だし、俺とシュラさんがついてるならファティマちゃんはついてきてもいいんじゃない?」
ユウトは彼女の頭をなでながらそう言った。嬉しそうに撫でられるファティマちゃんを私は見つめる。
「でも、外は危ないんじゃ...怪我をするかもしれないですし....」
私はユウトの考えを受け入れられずにいた。どうしても彼女には危ない目に遭ってほしくない。
「なら、マーヤも来ればいいじゃん。そしたらすぐに怪我を治療できるでしょ?」
ユウトは簡単なことのように言う。
でも小さい子を治療するのは難しいんだよ。私は霧の里で少しだけ小さい子の治療をしたことがあるけど、子供は痛みを正確に伝えるのが難しいし治療のためにじっとさせるのも大変だ。
あの時は安全な屋内だったけど、それでも子供の治療は大人の2倍ほど時間がかかった。それが町から離れたところでしかも魔物に襲われるかもわからない中で治療するのがどれだけ難しいか。
「そんな簡単にいかないんです!魔物に襲われる中で、ファティマちゃんと私を守りながら魔物討伐できるんですか!?」
私は感情が乗り語気を強めて言ってしまった。
「まあまあ、まだ魔物討伐の依頼を受けられないのだから、成の位に昇格してから考えてもいいんじゃないか?」
シュラさんが間を取り持ってそう言ってくれた。その言葉に私もユウトもとりあえず納得し、しばらくは昇格のために依頼をどんどん受けていくことに決めた。
その後、町のはずれの安宿を取った。いつもお金がなくて一つの部屋に4人が詰められるので、みんなに窮屈な思いをさせてしまって申し訳ないと思う。
昇格してお金に余裕が出来たらもっと広い宿に泊まることが出来るのだろうか。魔物討伐の依頼は依頼料が高いし、ユウトはそう言う意味でも魔物討伐の依頼を受けたいのかな。彼はそういうこと考えてなさそうだけど。
翌日からガンガン依頼を受けていった。2人組に分かれて効率よく依頼をこなしていくことになった。
私はシュラさんとともに町の近くの林を歩いていた。依頼は迷子の犬探し。探している犬と特徴の一致した犬がこの林に入っていったという話を聞いたので、林の中を捜索していた。
「ユウトとは仲直りしないのか?」
草をかき分けて進みながらシュラさんが聞いてきた。
「しません。私は悪くないですし。それにあの人は他の人のことを何にも考えてないんですよ?いつも自分のことばっかり。少しは周りの人のことを考えてほしいです。」
私は捜索を続けながら彼の目を見ずに答えた。
「確かにあいつは我儘ところがあるが、他の人のことを『何にも考えてない』っていうのは言いすぎなんじゃないか?彼も彼なりに周りの人のことを考えているよ。」
「なら、なんであんな提案をするんですか?子供を危ないところに連れていくのはどう考えてもおかしいじゃないですか。」
「それはユウト自身が魔物討伐したいってのもあるんだろうけど、ファティマちゃんの意志を汲んでるんだよ。」
「でも、ファティマちゃんが怪我したときの対処を私に押し付けるのは違くないですか?」
「そうか。マーヤちゃんはそう受け取ったのか。」
「それ以外に受け取り方ってありますか?」
「考えてみてくれ。ファティマちゃんが依頼の途中で怪我をしたときにマーヤちゃんの仕事量は確かに多いだろう。しかしマーヤちゃん以上に仕事量が多いのはユウトなんだ。俺は剣術しかできないからな。近距離でしか戦えない。だから遠距離から迫ってくる魔物全てをユウトは相手する覚悟をしてるんだ。自分で提案したからにはそのくらいの覚悟はしなきゃいけないと彼は言っていた。」
そう、なんだ。そこまで考えてたんだ。ユウトは。覚悟か。
「それにさ。ファティマちゃんはお姉さんに会えるかどうかも分からない。俺らとずっと一緒にいてくれるかもわからない。そんな彼女に冒険者としての経験を積ませてあげることも大人である俺たちの役目なんじゃないかな。」
シュラさんは優しい声でそう言った。彼はファティマちゃんの将来も心配して考えていた。
「でも.....」
まだ心に不安はある。ファティマちゃんが危ない場所に居てほしくないという気持ちもある。ファティマちゃんにはまだ早いんじゃないかと思う気持ちもある。でもそれ以上口から言葉が出てくることはなかった。シュラさんとユウトの気持ちが少しわかってしまったから。
「お!いたぞ。捕まえた!くそっ暴れるなっ」
私が頭の中でぐるぐる考えているうちにシュラさんが探してた犬を見つけたらしい。
私たちはその犬を抱えて林を出て依頼者のもとへ届けた。依頼完了済みの板を届けに派出所へ行くと、ちょうど依頼を終えたユウトとファティマちゃんがいた。
「おお、二人も終わったの?ならこれで「成の位」に上がれそうだね。」
とユウトはいった。その言葉通り、二つの依頼を完了したことで得点が2依頼分入り、「暁の旅路」は「成の位」に昇格した。
「やった~!これで魔物討伐依頼が受けられる!」
ユウトがそう喜んでいた。隣でファティマちゃんもぴょんぴょんと跳ねて喜びを爆発させていた。
「もう遅いし、宿に帰るか。」
シュラさんがそう言い、四人で束になって宿に帰る。
部屋に着き、ユウトとファティマちゃんが魔物討伐の話をあれこれと話している時、私は全員に聞こえるように言った。
「みんなでちゃんと話し合いましょう。魔物討伐のことを。」




