61. 依頼内容:積み下ろし作業
---(マーヤ視点)---
私は手に持っている木片に書かれた住所を確認しながら町を歩いていた。
依頼人は商店街の一角で八百屋を営んでいるらしい。
目的の八百屋さんを探しながら商店街をゆっくりと歩いていき、昼を少し過ぎた頃に依頼人のお店にたどり着いた。
「ここみたいですね。」
私は後ろを歩いている三人に語り掛けた。
「ほう。八百屋か。」
「ここでバイトするんだね。」
「やさい、おいしそう。」
三者三様の反応だ。
私たちは八百屋の中に入ると、奥で座っている女性に目が留まった。八百屋の大将といえば気前のいいおじさんの印象があるけど、この店にはそういう感じの人はいないし、お店の人っぽい人は彼女しかいなかったので彼女に声を掛けることにした。
「いらっしゃい。うちは何でも安いよ!」
私が近づいてきたことに気づくと彼女は椅子から立ち上がり、八百屋の決まり文句を口にした。
「あの、こちらの依頼を受けに来たんですけど.....」
「あ、わたしが掲載してた依頼を受けてくださるんですか!?」
彼女は嬉しそうだ。「旦那が腰をやってしまって困ってたんですよ」と言いながら私たちを裏口に案内してくれた。
「あなた方には、店の裏にある蔵から、野菜の入った箱を店の裏まで運んでもらいたいんです。主人が4日前に腰を痛めてからわたし一人で運ぶのもきついですし、お店に立たなきゃいけないので.....お願いできますか?」
「もちろんです!」
私が元気にそう返事をすると彼女の表情がパッと明るくなった。
「ではお願いします。」
彼女はそう言い礼をして、お店に戻っていった。
「よしがんばりましょう!」
「お~!!」
ファティマちゃんが元気いっぱいにこぶしを突き上げた。
蔵に入っていた木箱はかなり重かった。私一人じゃ運べなそう。
シュラさんは両肩に一箱ずつ載せて運んでいる。さすが力持ちだな。
ファティマちゃんも重くて持ち上がらなそうにしていたので、反対側を持ってあげた。
「私たちは二人でひとつの箱を運ぼうね。」
「うん!」
ちょっと効率悪いかもしれないけど、か弱い女の子だしいいよね。
ユウトは木箱を3つを肩に載せ一気に運ぼうとしていた。
「ユウト!それ大丈夫!?」
私は心配になり声を掛ける。
「大丈夫....俺はゲリスで沖仲仕をやってたんだ。これくらい...へっちゃらさ....」
そう言ってるけど、肩がぴくぴく震えている。一番上の箱がガタガタと揺れていた。
ドシャーン!!
ユウトは耐えきれなくなり3つの木箱を全て落としてしまい、野菜をぶちまけてしまった。
「ちょっと!何やってるんですか!!」
「ごめん....今拾うから....」
仕方ないから私も野菜を拾うのを手伝った。気づいたらファティマちゃんもシュラさんも拾ってくれていた。
もぉ~野菜に汚れがついちゃったじゃん!
土汚れがついてしまったものは一つの木箱にまとめた。
「ユウト、これを女将さんのところに持って行って謝ってきなさい。」
そう言って私はその木箱をユウトに手渡した。
「はい....」
しょんぼりした様子でとぼとぼとユウトはお店の中に入っていった。
「まったくしょうがないですね。」
その情けない背中を見て私はそうつぶやいた。
「これじゃあ、マーヤはお母さんだな。」
後ろからシュラさんの声が聞こえた。
「シュラさん?それはどういうことですか?」
振り向きざまにそう問いかける。
「ひぇっ、なんでもございません!」
なぜか彼はその言葉に委縮して、彼に似つかわしくない敬礼をした。彼の脇でファティマちゃんもピシッとした姿勢で立っている。
「はぁ~、ふざけてないで作業を進めますよ。」
私はそう言って手元にあった木箱の蓋を閉めた。
「ファティマちゃん、ああゆうときのマーヤには気を付けるんだよ。」
と言うシュラさんの声が後ろから聞こえた。"ああゆうときのマーヤ"って何?小さい子に変なこと教えないでよ。
私はそう思いつつもシュラさんの話が聞こえなかったフリをして作業に戻る。
その後は黙々と作業を続けた。ちょっとしたらユウトが帰ってきた。すこし叱られるだけで済んだらしい。よかった減給とかにならなくて...
その後、みんな慣れてきたこともあって作業がサクサクと進んでいった。そして夕方ごろには蔵のすべての荷物を運び終えた。
「まぁ!綺麗にやってくれてありがとうございます。」
店じまいをした女将さんが蔵を確認してそう言った。
「はい、これが依頼料です。4時間やってくれたので、銅貨8枚ですね。」
そう言って彼女は私にお金を手渡した。私はそれがきっかり八枚であることを確認して、
「ありがとうございます。」
と言った。
「感謝するのはこっちのほうです。助かりました。」
と彼女は言ってくれた。
私はそのお金を無くさないように巾着袋にしまう。
「私たちは明日にはこの町を出るつもりです。短い間でしたがありがとうございました。この町で唯一の依頼者があなたで本当に良かった。」
「明日出られるのですか?それは残念ですが、またこの町に寄ったらぜひ来てくださいね。今度はうち自慢の野菜を買っていってください!」
「はい!次この町に来たら買いに来ます!」
「それでは失礼します。」と言って私は頭を下げた。シュラさんは「では」と軽い挨拶、ユウトは「野菜を汚してしまい申し訳ありませんでした。」と謝っていた。最後にファティマちゃんの無邪気な「じゃあね!」で私たちは八百屋を後にした。
「なんか、この瞬間がいつも寂しいんだよね。」
宿への帰路。ユウトがぼそっとそう言った。
「そうだね。八百屋の女将さんは半日も一緒にいなかったけど、それでも寂しいですよね。」
私はユウトの言葉に答える。
「でも、旅というものはそうやって、人と出会い別れを繰り返していくものなんだよ。」
シュラさんが悟ったように言った。
「シュラさんってこれが初めての旅ですよね?」
私はふとそう突っ込んでしまった。
「そうだが?」
「やめなよマーヤ。シュラさんは格好つけたいお年頃なんだから。」
ユウトが謎に彼を擁護した。
「おいユウトお前、今なんて言った?」
しかし逆にシュラさんの心を逆撫でしてしまったらしい。こりゃマズいぞユウト。
シュラさんが陣十郎様ばりの鋭い眼光をユウトに向け、ユウトは素知らぬふりをしていた。
はぁ~こんなところで喧嘩しないでよ。
私が仲裁に入ろうとしたとき、ファティマちゃんが間に入って言った。
「けんかは、めっ!」
そんな可愛く言われたらシュラさんもユウトもやめざるを得なかった。
ユウトは屈んでファティマちゃんと目線を合わせ言った。
「ごめんね。ファティマちゃん、俺たち喧嘩してないよ。仲良しだよ。ね?シュラさん?」
ユウトは後ろを振り返り目配せをする。
「あ、ああ、そうだ。俺たちは仲良しだ。だから安心してくれファティマちゃん。」
シュラさんもそう言った。
「ふんっ!」
ファティマちゃんは鼻を鳴らし前を歩き始めた。私たちは慌てて彼女についていく。前にファティマちゃんと私、後ろにユウトとシュラさんの陣形になった。
後ろの二人は気まずそうにしている。
タッタッと歩くファティマちゃんに私は質問した。
「ファティマちゃん、今日楽しかった?」
「うん!たのしかった!」
満面の笑みで答える彼女に後ろの二人も安心したようだ。
こうして4人になって初の依頼は無事終わった。




