60. 次の宿場町へ
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俺の目の前には端正な顔立ちをしたピンク髪の男が立っていた。
「マリタン様、次の目的地はホルミ族バルト派の村でございます。」
俺の隣にいたキンミ族の男が、ピンク髪の男に声を掛けた。
この人がマリタン様か。かっこいいな。
めっちゃイケメンだ。こんなメロい人モテるんだろうなぁ。
マリタン様の横にぴったりくっつくように和服でちょん髷を結った男がいた。この人がもしかして神後流初代宗家の鰐淵平衛門様!?
すごいな。歴史の一場面を見させてもらっているみたいだ。
だんだんと周りが見えるようになってきた。左手には大きな山脈が横たわり、右手には広大な海が静かに佇んでいる。
ここは、昨日歩いた街道かな?
我々の部隊は十数人ぐらいでそんなに多くなかった。マリタン様って歴史上の偉人だからもっと多くの人に囲まれているのかと思ってた。
強そうな人はそんなに多くない。平衛門様だけオーラが全く違うけど.....
「バルト派の村はあそこか。」
マリタン様がぽつりと言った。彼の向く方を見ると、堀と塀に囲まれた小さな村がぼんやりと見えた。小さい村ではあるけど敵が襲ってきたら迎え撃つ覚悟がうかがえる。
これからあそこに行くのか...。
「マリタン様、本当に行かれるのですか?危ないのでは?」
俺は気づいたらそう口走っていた。
やばい。俺なんかがマリタン様に口を出せるわけがない。しかもこんな生意気なこと....
するとマリタン様はこちらをチラッと振り返り爽やかに言った。
「なに心配することはないさ。さあ行くぞ!」
その声は頭の中にこだまし、視界が淡く白くなっていった。
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「.............ユウト!......起きて!早くしないと!」
俺はマーヤのその声に目が覚めた。
なんだ。夢か。
「なに、ぼうっとしてるんですか?」
マーヤが呆れたように聞いてきた。
「ちょっと、夢を見てて....」
「何の夢ですか?」
「マリタン様と一緒に冒険する夢。昨日マーヤにマリタン様の話を聞いたから出てきたんだろうね。」
「え!?ほんとですか!?いいなぁ~。」
マーヤは羨ましそうに言った。マーヤはマリタン様の話になるとすごく目を輝かせるんだよな。昨日もすごく楽しそうにマリタン様の話をしてたし。もしかして推しなのかな?
確かにそう考えたら、マリタン様の人気すごそう。だって戦乱の世を争い無しで平定したんだから、男の子も女の子も大好きでしょ。それにマリタン様が締結した「マリタンの誓い」が今でも効力があるんだから本当にすごいよなぁ。
俺は夢の中だけど、マリタン様に会ったのか。めっちゃ嬉しい。元の世界で夢の中でも織田信長とかに会えなかったもんな。でも織田信長には会いたくないかも.....怖そうだし.....
そんなことを考えていると、他の三人がもう旅の準備を終えていることに気づいた。
「あ、ごめんさい。すぐ準備します。」
俺はすぐに準備を終わらせて土の小屋を出る。みんなも小屋を出たことを確認してから、それを解体した。小屋があった場所は何事もなかったように芝生に戻った。ちょっとでも俺がいた形跡は消さないとね。
そして俺たちは街道を歩き始めた。
左手には大きな山脈、右手には広大な海、夢で見たまんまの光景が続く。
あれは予知夢だったのか?
いやいや、この景色は昨日腐るほど見た。その光景が脳の一番近いところにあっただけだろう。
「おい、次の宿場町バルトが見えてきたぞ。」
前を歩くシュラさんがそう言った。えっ今「バルト」って言ったよね。彼の指を差した先を見ると....
あれは....
塀がないし、規模も大きくなってるけど、夢の中でみた「バルト派の村」だった。
不思議だ。初めて見るはずなのに、なんか懐かしい感じする。あの夢は本当にあったことなのかもしれない。
俺たちはその町に向けて歩き、昼前に到着した。
「まずは、宿を取りましょうか。」
マーヤが町に入って早々に提案した。
「そうだな。」
シュラさんが賛同する。俺も頷いた。ファティマちゃんは町を行き交う人を興味深そうに眺めていてマーヤの言葉を聞いていなかったようだ。
「そういえば、お金って大丈夫なの?」
町で下から三番目くらいの宿を取った後、俺はマーヤに聞いた。
「それが、かなりやばいんですよね。陣十郎様からもらったお金も少なくなってきたし....」
「陣十郎様からお金貰ってたの!?」
「うん。旅費に使ってくれって。」
「いつの間に....。でもそれも無くなりそうなんだ。」
「そうですね。」
「冒険者として依頼で稼ぐのは?」
「それもいいですけど、ファティマちゃんがいるので、あんまり危ないところへは行けないなって。」
「そうだけどさ。ネコ探しとかファティマちゃんでも出来そうなものもあるし、やらないよりはやった方がいいんじゃない?」
「.....そうですね。じゃあ、冒険者組合の施設を探しますか。」
そうして俺たちは町中をあちこち探し回ったが、組合の施設は見つからなかった。こんな小さな町にはないのか。コンビニ感覚で探すもんじゃないな。
「依頼を受けたいなら、高札場の隣に依頼板があったりするぞ。」
シュラさんに相談すると、そう教えてくれた。
「シュラさんって冒険者にも詳しいんですね。」
俺がそう褒めると、少し照れてそっぽを向き、
「まあ、冒険者とも話す機会が多かっただけだ。」
とぼそっと言った。
やっぱりこの人、時々乙女の一面を見せるんだよな。BLならここから新たなラヴロマンスが始まりそうだが、俺はそういうのはちょっと遠慮しておきます。
「あ、本当だ。高札場のすぐ横に依頼板がありました!」
俺の思考はマーヤの嬉しそうな声でかき消された。
その依頼板を見てみると、木の板に文字が書かれていて絵馬みたいにたくさん掛けられていた。
でも俺はこの世界の文字は読めないんだよ。漢字っぽい形のものが沢山並んでいるけど、細かいところは漢字と違うからなんか気持ち悪いし。
俺の隣でファティマちゃんも難しい顔をしてそれを眺めていた。
ファティマちゃんも読めないのか。まあこんな小さい子が文字読めたらすごいか。ここは二人に任せよう。
マーヤとシュラさんは様々な札を指さしたり手に取ったりしながら話し合っていた。どんな話をしてるんだい?俺はそっと近づき聞き耳を立てる。
「この依頼いいじゃないですか?子猫探しで銀貨5枚もらえますし。」
「その依頼はダメだ。たかが子猫探しに銀貨5枚は高すぎる。何か裏があるかもしれない。」
「そうですか?富豪の猫ちゃんだから高い依頼料を出せるのかもしれませんよ?」
「こんな小さな宿場町に富豪なんかいるか?この依頼は怪しいからやめておけ。」
「そうですか....」
なんか依頼探しに難儀してるみたい。銀貨5枚って日本円にすると5万円くらいか?子猫探しで5万は高いか。確かに怪しいな。
「あのな。マーヤ。この依頼板にある依頼は組合を通さずに勝手に出されてるものなんだ。だから依頼通りの仕事をしても料金を払わないやつが大勢いる。そんな中で料金をしっかり払ってくれるような信頼できる依頼者を探さなきゃいけないんだよ。」
シュラさんはそう説教をしていた。彼もいろんな経験をしてきたんだろうけど、まだマーヤは新米冒険者なんだから、もうちょっと優しくしてよ。
マーヤは唇をかみしめて「はい。」と答えた。マーヤがかわいそうだよ....
しかしシュラさんはにべもなく依頼板を眺めていた。この人って人の心がないよね。
「お、この依頼はどうだ?『野菜の品出し 時給:銅貨2枚 お父さんが腰をやってしまったので応援が欲しいです。日没まで』っていうのがあるぞ。」
野菜の品出し?なにそれバイトじゃん。1日で終わるやつだから、どっちかって言うとタイミーか。
「いいですね。でも依頼料はみんなで一つなんですね。」
「まあ依頼はそう言う形式が多いからな。それでも悪くないだろ。」
「そうですね。これを受けますか。」
そう言ってマーヤはその札を手に取った。
「それで、どうすれば依頼を受けられるんですか?」
「ここに書かれてる住所のところにこれを持っていくんだ。」
「なるほど、じゃあ行きましょう。」
そういうとマーヤは札を見ながら歩き始めた。それに俺たちはついていく。久しぶりの冒険者としての依頼だ。楽しみだな。




