59. 穏やかな旅路
---(シュラ視点)---
俺はマーヤの計らいに感謝し、ファティマちゃんに近づいていく。
彼女と並んで歩く。いざ近づいてみたはいいものの、何を話せばいいのか分からない。
前を見ると、マーヤとユウトが楽しそうに話していた。二人はとても仲がいい。この中だと一番付き合いが長いから当たり前なんだが、あの内気なユウトがマーヤの前だとすごく楽しそうに話す。マーヤには人を魅了して心を開かせる何かがあるのかもしれない。
いかんいかん。前ばかり見てはダメだ。ファティマちゃんと話すために順番を変わってもらったんだ。
ふと、ファティマちゃんの方を見る。彼女は先ほどと打って変わって、地面を見ながら歩いていた。多分俺が近づいたことに気づいている。そのうえで俺とあまり目を合わせないようにしている気がする。
何を話すんだっけ....。そうだ、飯の話だ。
「ファティマちゃんは、好きな食べ物は何かな?」
彼女を怖がらせないように、努めて優しく声を掛けた。
しかし、彼女はプイっとそっぽを向いて俺の言葉を無視する。
「えっと....町に着いたら、ご飯を食べようとしてるんだけど......何が食べたい?」
その言葉も彼女は無視する。
何も答えてくれないとは思わなかった。そんなに俺の印象が悪いのか....。
こういう時はどうしたらいいんですか!?マーヤさん!
そう思い目線を前に向けたが、変わらず楽しそうに喋るマーヤの姿があった。
ダメダメ、全部他人任せはダメだ。自分で決めるんだ。まずは深呼吸。冷静に、冷静に。
せめて俺のことを好きにはならなくても嫌いじゃないくらいにはなってほしい。
でもファティマちゃんは俺を怖がってるんだよな。俺を人身売買をする奴らと同等だと思っている。まずはその誤解を解かなきゃ。
「ううう....。悲しいよ。」
俺は泣いたふり作戦に出た。かなり下手な演技だとは思うが、このくらいの歳の子を振り向かせるにはこういう作戦しか思い浮かばなかった。
「え....。えっと....大丈夫....ですか?」
ファティマちゃんがやっと反応してくれた。でも敬語だった。マーヤやユウトにはタメ口で喋っているのを知っているからこそ、より心の距離を感じてしまった。
いや、ここからだ。ここから関係を築いていけばいい。
「ファティマちゃんが、冷たくて、お兄さん悲しいよ~」
俺は泣く演技を続けながらそう答えた。
「えっと...すみません。」
彼女を謝らせてしまった。体がガチガチになってしまっている。そんなに怖いかな?俺。
「いやいや、謝らなくていいんだよ。お兄さん怖い人じゃないよ。」
「そ、そう...ですよね....」
彼女はさっきよりも心を閉ざしてしまったように感じた。なんでだ?
あ、そうか。ファティマちゃんは「怖い人たち」に囲まれて生きてきた。その「怖い人たち」は自分を「怖い人」などとは言わない。『怖くないよぉ~、こっちに来なぁ~』みたいな感じで優しく話しかけてくるはずだ。
だから本人が『怖くないよ』と言っていても、彼女が「怖い人」と感じたら、その評価で固まってしまう。
どうしよう。それじゃあ俺出来ることないじゃん。
そんなことを考えながらファティマちゃんを眺めていると、左腰に見慣れたものが下がっていることに気づいた。
「ファティマちゃん、左腰に下げているものは何?」
「えっと....これは、ね....刀。お姉ちゃんから、貰った...です....」
刀!?彼女は短刀を腰に下げていた。護身用ってことかな?でもよく取り上げられなかったなぁ。
「それ、怖い人に取り上げられなかった?」
「うん...えっと...お姉ちゃんに、これは隠しておいてって言われて、隠してた....」
すごい。怖い人がたくさんいる中で凶器を隠しきるなんて。
「でも、何で今は腰に下げてるの?」
「それは....マーヤお姉ちゃんが、言ったの....すぐ抜けるようにって....」
マーヤの指示だったんだ。確かにずっと隠しているより、いざって時にすぐ抜けるように腰に差しておく方がいいか。
「実はね。お兄ちゃん、刀が上手なんだ。」
俺はこれだと思い、そう言った。
「そ、そうなの....?」
「ほら、俺の左腰に着けてるこれ、これも刀だよ。」
「すごい!長~い!」
「でしょ?」
お、食いついてきた。刀の話をすれば、彼女と仲良くなれるかもしれない。
俺は久しぶりに偽りのない笑顔がこぼれた。
---(マーヤ視点)---
シュラさんは後ろへ行き、ファティマちゃんと並んで歩き始めた。二人が仲良くなれるといいな。
「で、マーヤ。話って何?」
彼と替わって前に来たユウトが聞いてきた。
「ユウト、私って成長してますか?」
「どうしたの急に。」
「えっと、ユウトがファティマちゃんと仲良く話してるのを見て、ユウトは成長したなぁって思って。私は成長してますかね?」
「してると思うよ。」
「そうですか?あまり実感ないけど....」
「そうだね....。例えば決断力がついたところとか。ほらゲリスに行くって決めたのはマーヤのお母さんが言ったからでしょ?でも今は何でも自分で決めるし、俺たちのこともすぐ決めるし、めっちゃスパッて決めるマーヤに俺は助かってるんだよ。」
「えへへ...そうですかね....」
そういいつつ、笑みがこぼれてしまう。ユウトに褒められると何かこそばゆいなぁ。
「それと、視野も広くなったよね。いろんな人のことを考えて気を回すのとか、前から得意だったと思うけど、より磨きがかかったみたいな?」
そう言われて、笑みが止まらない。
「今もそうでしょ?シュラさんとファティマちゃんを仲良くさせるために俺を呼んで二人で話せる環境を作ってるんだよね?」
「気づいてたんですか。」
「俺も気になっていたから。一緒に旅するんだし、仲良くしてもらった方がいいよね。」
「そうですよね!」
「わぁ、びっくりした。そんな大きな声出さないでよ。」
「ごめんなさい。私と同じことを考えてるのが嬉しくて、つい。」
「二人はどんな話してんのかな?」
ユウトがそう言ったのでこっそりと後ろを見てみたら、二人の間に気まずい雰囲気が漂っていた。
「まだ仲良くなるのは難しそうだね。」
「そうですね。」
それからユウトと時間を忘れて話し続けていた。
ユウトは前にいた世界のことを教えてもらった。でも難しい話が多くて、よくわからなかったな。スマホというものは無いと死んじゃうくらい大事なものらしい。どういう物だろう?めっちゃおいしいお菓子とか?
私は地元に来ていた吟遊詩人から聞いた逸話を話した。マリタン様のこととか、誰でも知っている話でもユウトは目を輝かせて聞いていた。
そうこうしているうちに、いつの間にか日が暮れかけていた。
「まずいな。宿場町はまだなのか?」
ファティマちゃんと話していた、シュラさんが後ろから問いかけた。二人は仲良くなれたっぽい。よかった。
私は前の町で買った。街道の地図を広げた。
「えっと、次の宿場町まではまだありそうですね。」
「そうか.......なら、野宿する方がいいかもしれない。」
とシュラさんは言った。
「そうですね。このまま歩いても町に着くのは深夜ごろになるでしょうし。」
私もその意見に賛同する。
「じゃあユウト、街道から少し離れたところに土の小屋を作ってくれ。」
とシュラさんは指示した。
「はい。おまかせあれ!」
そう言うと、ユウトはあっという間に小屋を作り上げた。
「おぉ~!」
ファティマちゃんが小さく拍手している。
私とシュラさんで森から葉っぱを取ってきて簡易的な寝床を小屋の中に作る。
小屋は思ったより狭く、四人でギチギチだった。
寒さからか、不安なのか、震えるファティマちゃんの体を優しく抱きしめて私は眠りに落ちた。




