58. 悩む最年長
翌日から私たち四人はリューベへ向け出発した。
と言っても、リューベは遠い。国の西側をぐるっと回って行かなきゃいけない。徒歩で行くと大体1年はかかるとシュラさんは言っていた。
まあでも、千里の道も一歩からである。ゆっくりでも着実に進んでいけば、必ずたどり着く。
今は街道を2列になって歩いている。前に私とシュラさん、後ろにユウトとファティマちゃんの陣形で歩いている。陣形と言っても街道上を歩いていれば魔物に遭遇することはそうそうない。だから適当に歩いていたらこうなったみたいな感じだ。
ユウトは髪を染めなくても特に指を差されることはない。王国がユウトを追うのを諦めたかはまだ分からないが、確実に追手の域から離れていっているという感覚がある。
そろそろ気を抜いてもいい頃合いなのかもしれない。でも私は肝心な時に気が緩んでしまって失敗することが多い。この前のファティマちゃん救出作戦の時もそうだったからな。だから気が緩みそうなほど気を引き締めなきゃ。
すると、隣を歩いているシュラさんがこそこそと話しかけてきた。
「あの、マーヤ。少し相談なんだが....」
「はい。何でしょう?」
シュラさんからの相談とは珍しい。何か新しい問題が見つかったのかな。それともいいことを思い出したとか?実は王都まで直接行ける船があったとか?
そんなわけないか。というかそんな船があったとしても、ユウトが逃げられないから乗れないけど。
しかし、彼の口から出た言葉はそのどれでもなかった。
「ファティマちゃんと仲良くなるためには、どうしたらいい。」
「え。」
そんなこと?
彼はファティマちゃんに嫌われていることを気にしていたのだ。
冷静沈着な顔して、本当は心が繊細なの?意外。でもやっと彼に人間味を感じた気がする。
私の中のシュラさんの評価がぐっと上がった。
「もしかして、相談ってそれですか?」
「ああ、そうだ。マーヤが一番ファティマちゃんと仲がいいから。ユウトも俺と同じかと思っていたんだが、あれを見て自信を無くしてしまってな。」
そう言って彼が指を差した先には、後ろで楽しそうに喋るユウトとファティマちゃんの姿があった。
ファティマちゃんは溢れんばかりの笑顔だ。ユウトも楽しそうに彼女と話している。ユウトって初対面の人苦手じゃなかったっけ?
彼も旅の中で成長してるのかもしれない。人見知りを直したいって言ってたしな。
私は変わってるのかな。自分だと変化はわかんないけど外から見たら違うのかも後でユウトに聞いてみよ。
「だから、教えてくれ。マーヤ。」
そう言われ彼の方を見ると、シュラさんはいつもの冷たい目で見下ろしながら頼んできた。彼は悪い人ではないんだけど、こういう所がちょっとムカつく。
「あの、人に頼むときの態度はそれで合ってますか?」
言葉に少し怒気を込めて私は言った。
「あ、ごめん。えっと...」
シュラさんはサッと謝り、目線を外して、どう頼もうかと逡巡している。
「マーヤさん、お願いします。教えてください!」
彼はそう言いながら立ち止まり、腰を直角に折り曲げた。
前にいたシュラさんが立ち止まったことで後ろの二人と玉突き事故になる。
「え?どうしたの?マーヤまさかシュラさんになんかした?」
ユウトが意地悪な表情を浮かべ、そう言ってきた。
「私は何もしてないよ!」
「マーヤねえちゃん、怒ってる...?」
ファティマちゃんに不安そうな顔をさせてしまった。
「大丈夫だよ。ごめんね。急に大きな声出しちゃって。大丈夫。怒ってない。」
私はそう言って彼女の頭をなでる。彼女は嬉しそうに笑った。
「シュラさんわかりました。教えます。教えますから、頭を上げてください。」
そう言うとやっとシュラさんは頭を上げてくれた。後ろの二人はなんのこっちゃ分からないという顔をしていたけど、シュラさんはにべもなく歩き始めた。
そういう所なんじゃないかな。シュラさん。
「教えてくれるんだろ?まず、俺は何をすればいい?」
「まず口調を柔らかくすることです。」
「それはやっている。」
「一度強い口調になったことありましたよね?」
「一回だけだぞ?そんなことで....」
「一回だけでも気にするんです。特に彼女は人身売買を生業とする男たちに囲まれてたんですから、余計神経質になるでしょう。」
「まあ、それもそうだな。で、話す話題はどういうのがいい?」
「はぁ~それも教えなきゃいけないんですか?」
「お願い!頼むよ~。」
今度は腰を低く、手を合わせて頼んできた。
どうしてこうも男性陣は頼りないのだろうか。
「話題は何でもいいんですよ。好きな食べ物とか。でもシュラさんが話しすぎるのは良くないです。ただでさえ印象が悪いのに、自分の話ばかりするおじさんなんて思われたら最悪ですよ。」
「え....おじさん....」
シュラさんはおじさんという言葉に衝撃を受けたみたいだった。
ちょっと言い過ぎたかな。でもファティマちゃんくらいの年の子だったら、そう思っていてもおかしくないし、ここは心を鬼にして言おう。
「ファティマちゃんから見れば、シュラさんはおじさんです。」
「そ、そんな....」
彼は私の顔を見ながら固まってしまった。
まだ20代の彼を「おじさん」呼ばわりするのは流石に失礼だったみたい。
「すみません。調子乗って酷いこと言ってしまいました。謝ります。私はシュラさんのこと「おじさん」なんて全く思ってませんからね。」
と謝罪をし、ついでに補足もしておく。
「あはは....いいんだよ....」
でも彼の心には響かなかったようだ。
シュラさんはさっきまでの自信はどこ行ったんだと思うほどに弱々しくなっていた。心なしか少し老けたような気もする。
「でもそうだよな。ありがとうマーヤ。俺頑張ってみる。」
すると決心がついたのか、そう言って顔を上げた彼の眼には凛々しい光が宿っていた。
「じゃあ、私がユウトを呼びますね。その間にファティマちゃんと話していてください。」
「ああ、何から何までありがとう。」
「いえいえ。」
彼は何度も私に頭を下げていた。でも感謝するのは私の方だ。彼がいなかったら、あの時人身売買の場から逃げられなかったかもしれないから。
これで借りを返したとか思ってはいけない。彼らは命がけで私たちを助けてくれたのだ。その労力に合う何かを私から返さないと....
じゃあまずは、もう一人の命の恩人に感謝を伝えなきゃだね。
「ユウト!ちょっといいですか?」
私は後ろを振り返り、ファティマちゃんと話し込むユウトに声を掛けた。
「あ、話してるところごめん。」
「全然いいよ!話って何?」
ユウトはそう言うと駆け足で私に近づいた。その間にシュラさんは歩を緩め、ファティマちゃんの隣へ移動する。
シュラさんとファティマちゃんが仲良くなれますように。
そう心の中で願いをささやいた。
よし。心を切り替えて....
私は隣を歩く見慣れた男に話しかけた。




