56. 次の目的地
私たちはフォーリオの町を出て王都へ至る街道を4人で歩いていた。王都へ至るといっても徒歩で行けば2年ほどかかる。
それに私たちには目的地がない。ただ追ってくる王国の者から隠れるだけ。それじゃあ、心が擦り切れちゃう。
ファティマちゃんは私の左手を掴み俯きながら歩いていた。彼女に聞きたいことが山ほどあった。親はどこに行ったのか、なぜホルミン王国にいるのか、どうして人身売買組織に攫われてしまったのか。
でも彼女の暗い顔にそういった疑問は吹き飛んでいった。今は彼女を安心させなきゃ。
「ファティマちゃん、ずっと歩いてきたけど、足は痛くない?」
「うん....」
ファティマちゃんはうつむいたまま答えた。こっちを向いてくれないかな~。
「そういえば、二人を紹介してなかったね。左側の青髪のお兄ちゃんはシュラさんで、右の黒髪のお兄ちゃんはユウトっていうの、仲良くしてね。」
私がそう紹介すると、前を歩いていた二人が振り返り、優しい声で「よろしくね。」と言った。
「....よ、よろしく...おねがい...します...」
彼女はずっと俯いている。自信がなさそうな感じだ。どうすればこの子が心を開いてくれるんだろう。
そう考えながら歩いていると、宿場町に着いた。
私とシュラさんで先に入り高札場を調べると、ユウトのことは一切載ってなかった。ベルモンド家の領地を抜けたからと言えばそれまでなんだけど、あれ?国がユウトのこと狙ってなかったっけ?
一応聞き込みをしてみたが、誰も「重要指名手配犯」のことを知らないみたいだ。
私はユウトを呼びに行った。彼には念のためキンミ族の多い低地のほうから入ってもらった。でも誰から何も言われることなく、変な目で見られることもなかったという。
私たちは4人で町に入ることが出来た。早速宿を取り、畳の上に囲んで座って作戦会議を始めた。
「はい。では第十一回作戦会議を始めます。拍手。」
私はそう宣言する。今やシュラさんがまとめ役みたいになってるけど、一応「暁の旅路」の頭は私だ。
「今回の議題は、「次の目的地をどうするか」です。ユウトの捜索の手が緩んだことで比較的行動しやすくなりましたが、ずっと同じ場所に居続けるわけにも行きません。どこか目標地点を決めてそこへ旅をするという形がいいと思います。」
私のその意見に対して、シュラさんが反応した。
「そうだな。俺もそう思う。だがここまで来てしまってはかなり選択肢が限られてしまった。ベルモンド領内であれば、ジョグリブ王国の港町への直接行ける船便があったのだが、ここからだと、一度ゲリスを経由してジョグリブ王国へ行くしかなくなる。そうなればユウトはすぐに捕まってしまうだろう。東への道は断ち切られた。」
シュラさんは神妙な顔で続ける。
「さらに、南には「ホルミンの屋根」と呼ばれる龍嶺山脈が横たわっている。この山脈の踏破は無理だ。その難易度は霧山の比ではない。険しい山と厳しい寒さだけでなく、強力な魔物が至る所にいる。山頂近くには龍も棲んでいる。また北は海に覆われている。つまり我々は西にしか行けない。」
その言葉は私たちの現状を物語っていた。いくら捜索の手が弱まり、自由に動けたとしても私たちの選択肢は一つしかないのだ。なんか誰かに仕組まれていたかのように感じる。どこからだ。私たちは自分たちで行き先を決めていたはずなのに。
わからない。どれだけ頭を使っても分からない。
「ねぇ、お姉ちゃん、何の話をしてるの?」
ファティマちゃんが不安げに尋ねてきた。
「ごめんね。難しい話だったよね。」
私は頭の中で考えていたことを一旦脇に置いて目の前の少女と向き合う。
「簡単に言うと、これから行く場所を決めてるんだよ。ファティマちゃんはどこか行きたいところはある?」
「えっとね....ファティマ、リューベに行きたい。」
リューベ?どこ?
私とユウトの頭には?の文字が浮かんでいたが、シュラさんだけは違った。
「お前、なぜその名前を知っている。」
シュラさんが強い眼光をファティマちゃんに向けた。
「ご、ごめんなさい....」
シュラさんの圧にファティマちゃんは萎縮してしまった。
「ちょっと、シュラさん!もう少し優しく言ってください!」
私がそう注意する。
「すまない。少し驚いてしまって。ごめんな。ファティマちゃん。えっと....リューベはどこで聞いたのか教えてくれるかな?」
シュラさんは今度は優しい口調で話しかけた。彼がこんなに簡単に態度をコロコロ変えられるのはちょっと引いてしまう。
「えっとね....リューベにはね。お姉ちゃんがいるの。だから...行きたいの...」
ファティマちゃんは必死に言葉を探しながら話した。
「ファティマちゃんってお姉ちゃんがいたの?」
「うん。やさしくてね。かっこいいんだよ。ずっとファティマと一緒にいてくれてね。」
「そうなんだ!優しいお姉さんだね。」
私はそう言いながら違和感を抱いていた。さっきから親の話が全く出てきていない。
「あのさ。ファティマちゃんのお父さんとかお母さんはどこにいるの。」
私がそう質問すると、ファティマちゃんは泣き出してしまった。
「えっ!ごめん。聞かれたくなかった?」
「だ、だいじょうぶ....。あのね。お父さんとお母さんはいなくなっちゃったんだ。お姉さんは『ずっと見守ってくれてるから大丈夫だよ』って言ってたけど、会いたいよ....」
まだ赤い目をこすりながら彼女は言った。『いなくなった』のは、捨てられてしまったのか、それとももっと悲惨なことが起きたのか、分からないけど、それを彼女に問うことはできなかった。
何しろ、彼女を家族に会わせてあげなきゃいけない。まずは場所が分かっているお姉さんから。
「じゃあ、ファティマちゃん。行こう。リューベに。」
「え!いいの!」
ファティマちゃんの顔がパッと明るくなった。
「二人ともそれでいいですか?」
私はシュラさんとユウトに確認を取る。
「もちろん、大丈夫だよ!」
ユウトがファティマちゃんに負けないくらい元気に答えた。
「シュラさんは大丈夫ですか?」
彼には何か懸念点があるみたいだったが、「ああ大丈夫だ。」と考え込んだ表情で答えた。何か彼にも考えがあるようだが、後で確認するとしよう。
「じゃあファティマちゃん!みんなでリューベに行こう!」
「おー!!」
ファティマちゃんは元気よく腕を伸ばし拳を上げた。
彼女の明るい声が優しく部屋に響いた。




