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うちの村に異世界から無能がやってきました  作者: 投降の旗印
第四章 霧の里編

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閑話. 里の訪問者

 マーヤとユウトとシュラが里を去った翌日、陣十郎の屋敷に一人の男が訪ねてきていた。


 その男は、赤と青の派手な法被を着ており、頭は坊主だった。誰が見ても変人の恰好をしている彼は反吐が出そうな不気味な笑みを浮かべ、受付の女に話しかけた。


「やぁ、陣十郎様はいるかい?」


 見た目からして怪しいその男に受付の女は警戒感を強める。


「あの...どちら様ですか?」


「ああ、ごめんね。これを見せなきゃいけないんだった。」


 そう言って、彼が懐から出したのは、陣十郎の名前が書かれた謁見許可証だった。


「は、はい。かしこまりました。すぐに準備いたします。」


 彼女は謁見許可証なるものを見たことがなかった。陣十郎がほとんど書かないからだ。しかし、その紙に書かれていた字は確実に陣十郎のものであった。彼女は急いで屋敷の奥にいた陣十郎に報告した。


--- (陣十郎視点) ---



 ワシは謁見許可証を持っていることだけで、誰が来たのか分かった。その人を謁見の間に通すように彼女に命じ、すぐに自分も準備を始めた。

 

「よく来たな。パキル。」


 わしは彼を朗らかに受け入れる。


 その男パキルは、恭しく礼をした。


「陣十郎様、お招きいただきありがとうございます。」


「そこまで畏まらなくてもよい。今回の報告をくれ。」


 ワシはそのように彼を催促した。パキルはベルモンド家に潜り込んでいる里のスパイである。ベルモンド家の重役の一人となりつつ、重要な情報は里に流している。


「はい。かしこまりました。陣十郎様、朗報がございます。」


「ほう。それは何かね?」


「ホルミン王国はもうすぐ東のジョグリブ王国と戦争になる見通しです。」


「ほう。」


 王国は里と戦争をしたばかりである。それなのに、また戦争をするのか?


 いや待て、我々の時には嘘みたいなほど弱い素人集団が相手だった。ならむしろ我々との戦争が突発的なもので、ジョグリブ王国との戦争の方は入念に計画されているものなのかもしれない。


 憶測で何かを決めるのは良くない。パキルの話を聞こう。


「ゲリスの東側、ローブレア山脈の向こうのプシパル地域に巨大な魔鉱床が見つかったのです。」


「巨大な魔鉱床....。それがジョグリブ王国と何の関係があるのだ?」


「はい。プシパル地域は、ホルミン王国とジョグリブ王国の境、ローブレア山脈とマティ川に囲まれた地域です。そこはマリタンの誓いで所属が明確になっていない地域でした。


ただ、プシパルは深い森で覆われ、強力な魔物も出現する危険な土地であり、良港となる場所もないため、両国ともその土地に関心がありませんでした。50年前にホルミン王国がその土地を実効支配したときもジョグリブ王国は何の反応も示しませんでした。


しかし、今は違います。プシパル地域に魔鉱床が見つかり、プシパルの価値は跳ね上がっています。


その機を見て、ジョグリブ王国は国際社会に訴えました。世界の中心ダーラ・ホムーラで行われる全大陸会議において、ジョグリブ王国の代表団は『ホルミン王国が当該地域を支配していることは、国際法違反であり即時撤退を求める』と表明しています。


一方でホルミン王国の代表団は、マリタンの誓いで明記されていなかった地域を実効支配して認められた事例を取り上げ、『私たちがそれと同じことをしたまでだ』と主張しています。しかしその事例は、支配に反対していた先住民が長い時を経て帰化し、実質的にその国の領土となっていたところを法的に認めた事例であり、今回の件とは全く違います。


そのため、他の二か国もジョグリブ王国側の見解に賛同しております。よって『当該地域から兵を引き挙げよ』という決定がなされる可能性が高いです。

 

しかしホルミン王国もおいおいと重要な地域を手放さないでしょう。『ジョグリブ王国が強硬手段に出れば、我々も迎え撃つ用意がある』と表明しております。

 

実際、ゲリスに正規兵が続々と集まってきています。ジョグリブ王国と衝突する時は近いでしょう。

 

そうなれば、ベルモンド家およびホルミン王国は里を攻める余裕がなくなります。」


 パキルはそう報告した。ワシは彼の情報網に驚嘆していた。ダーラ・ホムーラの情報まで得るとは。


 ダーラ・ホムーラは四大神が降臨されたとされている場所で、現在は世界的諸問題を話し合う国際会議の場となっている。そこへ行くには船を使っても1年はかかる。そんな遠いところでの出来事を彼はどうやって手にしたのだろう。


「素晴らしいぞ!パキル。でかした!」


 ワシは素直に彼を褒めた。


「ありがたき、お言葉。」


 口ではそう言っているが、表情はほとんど動いていない。その態度は可愛くはないが、彼の有能さはそこに目をつむっても余りあるほどだから、もうあまり気にしていない。


「これで、しばらくの間は王国は攻めてこないということだな?」


 ワシは彼に確認を取る。

 

「はい。しかし、ジョグリブ王国との諍いが収まった後、ユウトの存在を口実にまた攻撃を仕掛けてくるでしょう。」


 パキルはあの戦争で王国がユウトの引き渡しを要求してきたことも知っているらしい。


「ユウトは里を出ていったぞ。」


「え?そうなんですか?」


 彼は聞きなれない間抜けな声を出した。彼が調べたことは何でも知っているが、知らない情報には弱いのだ。


「ああ、彼とともに来たマーヤと、シュラを連れてね。」


「え、シュラ君も出ていったんですか?」


「ああ、彼がジェクトの奴と内通していたらしくてな。」


「そうなんですか。シュラ君が....。」


 彼の声が少し曇った。

 



 パキルは、まだ里にいた頃に小さいころのシュラとよく遊んでいたからな。そりゃあ落ち込むのも無理はない。


 だが、すぐに立ち直った。スパイとして仕事を続けるには、ある程度の「非情さ」が必要なのだ。


「でも逃がしてよかったんですか?里の裏切り者には厳しいあなたが。」


「ああ、彼は下っ端だろうからな。奴がワシらに感づかれないように、敵と連絡を取れるか怪しい。だから裏切り者はもう一人いると、ワシは踏んでいる。」


 ワシは胸に秘めていた懸念を打ち明けた。


「それを私に調査してほしいと?」


 パキルは理解が早くて助かる。


「そうだ。やってくれるな?」


「もちろんでございます。では、ベルモンド家への調査は一旦お休みというわけですね。」


 彼は少し残念そうに言った。ワシから見ると、パキルはベルモンド家への潜入を楽しんでやっているように見える。どこに楽しい要素があるのかワシには全く分からないが。


「そうだな。この大事な時期に情報が得られないのは痛いが、中から崩されるほうが厄介だからな。」


 そうだ。外からの攻撃もあれば、中からの崩壊もあるのだ。そのどちらにも万全な対策を取っておかなければならない。


 里の外の情勢は、先ほどのパキルの話で大体わかった。あの話を踏まえれば、外から情報を得るだけでも、何が起きているかわかるだろう。


 しかし内側については分からない。里のほとんどの人物は、ワシに忠誠を誓う姿勢を見せてくれてはいるが、本人の心の中が実際どう思っているかまでは分からない。


 その調査を彼に求めるのも酷なことだとは分かっているが、里を守るためには仕方のないことだ。彼には悪いが、ワシの手先として頑張ってもらうしかない。


「分かりました。里の裏切り者の発見に尽力させていただきます。」


「よろしく頼むぞ。」


 話が終わり、早速調査に行くと思っていたが、彼はまだ話し足りないようだ。


「どうかしたのか?」


「陣十郎様、僭越ながら提案させて頂きます。私のような密偵を一人でもよいので増やすのはいかがでしょうか。そうしますと、内通者の発見と国の内情調査どちらもできます。」


 パキルは顔を伏せながら提案した。ワシに意見してくれる者は少ないから嬉しいことだ。なぜかは分からないが、ワシを前にすると皆固くなってしまう。


「それは分かっておる。しかしパキルのような人物はいないんだ。今や里の者はこの地で生まれた者が多い。一生外の世界を知らずに死ぬものもいる。だから君みたいな、里のことを良く知っていて、なおかつ外の世界のことも知っている人なんかそうそういないんだよ。それに密偵をやるとなれば信頼に足る人物かも見極める必要がある。」


 ワシも何度か密偵を増やせないかと検討したことがある。パキルの仕事量が多すぎるからだ。彼は全てこなしているが、もし彼がいなくなったときに困るのはワシだ。


 だが、全く見つからなかった。里のことも外の世界のことも知っていて、なおかつ秘密を漏らす恐れのない人物。そんな人は誰一人としていなかった。パキルが有能すぎるために、ワシの密偵水準が高くなってしまっているかもしれない。


「いるではないですか。ついさっきまで里にいた人物です。」


 パキルが事もなげに言った。そんな人いるか?ついさっきまで里にいた人物?


「誰だ?まさか、ユウトではないだろうな。彼は素直すぎる。そのような役回りは向いていないと思うぞ。」


「いいえ、違います。マーヤです。彼女は頭が回ります。ユウトがこの里へ来れたのも彼女の働きが多分にあるでしょう。」


 なるほど、マーヤか。確かに彼女は賢いし、状況判断が早い。また口の堅さも信用できる。だが....


「それはいい提案だが、彼女は受けてくれるのか?今は指名手配のユウトをどう逃がすかに頭がいっぱいな中で、密偵活動もさせるのは酷ではないか?」


「そうですね。しかし、全ての密偵を私の様にガチガチに管理しなくてもいいのですよ?彼女とはもう少し緩い関係を続けるべきだと思います。これから彼女たちがどこへ向かうのか我々にはまったく想像もできません。だからこそ、彼女がその肌で感じたことが、我々にとって最も有益な情報となるのではないのでしょうか?」


 なるほど、一理ある。だが....


「それは密偵というのかね?ただの協力者に聞こえるが。」


「そ、そうですね。いっそ密偵にこだわる必要はないのかもしれません。彼女と緩く長い関係を続けていくことが大事だと思います。このまま彼女との関係が途切れてしまうのは、もったいないです。」


 もったいないか。確かにそうかもしれない。密偵として彼女を縛るのではなく、協力者として彼女とのつながりを保つ。情報の質はパキルに比べたら劣ってしまうかもしれないが、そこから得られるものもあるだろう。


 ワシももうしばらくは里を出ていない。外のことを何もわかっていないと言われても仕方のない知識量だ。


 ワシが知らないことを若い子に教えてもらうか.....ワシも年老いたな。


「わかった。マーヤを『里の協力者』として情報提供を要請する書簡を書く。それを彼女の元まで届けてくれるか?彼女は昨日出発したばかりだから、まだあまり遠くへは行ってないはずだ。」


「はい。かしこまりました。」


「突然任務を増やしてしまって申し訳ない。」


「いえいえ、私が言ったことですから。」


「では、書簡を届けた後は内通者の捜索も頼んだぞ。」


「はい。存じております。」


 その言葉にワシは満足げに笑い、部屋を後にした。パキルは彼を見送ってから屋敷を出る。


 彼はこの里でも忙しく働くのだろう。彼に楽をさせるためにも、新しい密偵を見繕わねばな。


 ワシはそう決意した。

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