50. 説得
--- (ユウト視点) ---
マーヤは行ってしまった。
俺はシュラさんと二人きりになる。
何を話せばいいんだろう。すごく気まずい。
前は何を話してたんだ?シュラさんが監視役だった時は。
ああ、そうか。その時はシュラさんから話しかけられてたのか。内容はそんなにいいものじゃなかったけど。
でも、その時とは二人の関係は変わってしまっている。俺が里一番の戦力になった一方、彼は里の裏切り者となった。そして彼は俺たちに助けられた。
あの時とは全く立場が違うのだ。もう前のようには話しかけてくれないだろう。なら俺から話しかけなければ....
どう、声を掛けたらいいんだろう?陰キャな部分が出て、どうしてもキョドってしまう。でも俺はコミュ強になると決めたんだ。勇気を出して....
「ユウト。お前は俺のことどう思ってるんだ?」
目を合わせずシュラさんはそう聞いてきた。
先に質問されてしまった。くそ~早く何か言えばよかったぁ。いやいや、まだ大丈夫。ちゃんと質問に答えるんだ俺。
「えっと、どう思ってるか。ですか?」
動揺を隠すように、俺は質問を復唱する。
「そうだよ。どうせ俺のこと下に見てるんだろうがな。お前はいつだって俺をボコボコに出来るわけだし、しかも俺は里を裏切った大犯罪者だ。前の俺の様にいびるんだろ?」
露悪的な笑みを浮かべて彼は言った。
「そんなことしませんよ。これから三人で旅をしようって言ってるのに、シュラさんをいびるようなことをしたら空気悪くなりますし、マーヤに怒られます。」
「くそっ、優等生ぶりやがって。本当はどう思ってるんだよ?」
「これが本心ですよ。」
「うそつけ。」
「本当です。」
押し問答のようなラリーが続いたが、途中でシュラさんが諦めたように、
「まぁいいや、じゃあ俺のやってしまったことはどう思ってんだ?」
と聞いてきた。
「そりゃあ、許せることではないですよ。」
俺は冷たく、しかし彼を非難しすぎないような声色で言った。
確かに彼がやったことは許されることではない。でも火あぶりの刑はやりすぎな気がする。それは俺が裁判制度が整っている現代日本の感覚でいるからな気もするけど、でも俺は彼に死んでほしくない。
だが彼にはそこまでは伝わらなかった。
「そうだよな。なら、こんなすぐ裏切りそうな人物、連れて行かない方がいいだろ。俺がお前の居場所をジェクトに売るかもしれないぞ?」
彼は自虐的な話を続ける。これは、俺が思っていることをちゃんと伝えないと分かってくれないんだろうな。
「そうかもしれないですね。ですが....シュラさんはもう二度とそんなことをしないと思うんです。」
「はぁ?何でそう思うんだよ?」
「何でですかね?直感?ですかね。」
俺の言葉をシュラさんは鼻で笑った。
「馬鹿じゃねぇの。何で感覚で、そんな大事なこと決めちゃうんだよ。お前やマーヤちゃんの命が危なくなるんだぞ?」
それは間違っていない。こんな重大なことを感覚で決めるなんて俺もどうかしてると思ってる。でもこの感覚は大事にしなきゃいけない気がする。
「そうですねぇ。何故でしょうか。言葉にしようとすると難しいのですが、シュラさんは、もっと、なんていうか純粋な人だと思うんです。」
「はあ?裏切り者のどこが純粋だよ!」
彼は怒って声を張り上げた。でも俺は落ち着いたトーンで話を続ける。
「さっきから、シュラさんは「裏切り者」として話しているじゃないですか。前の様に高圧的な態度で俺と喋ってもいいのに。」
「えっと、周りから見たら、大分高圧的だと思うぞ?」
予想外の返しが返ってきた。
「え?そうですか?でも前みたいに言葉の節々が尖ってないですよ。」
「そうか?」
シュラさんが首をかしげる。また押し問答が始まるかと思ったとき、マーヤが帰ってきた。
彼女は、後ろにもう一人ピンク髪の女性を連れていた。
「マーヤちゃん。やっと戻ってきたか。何してたんだ。」
シュラさんはわざと明るい声でそう言った。さっきの俺との会話はなかったかのように。
「あれ?後ろの人って....」
シュラさんがマーヤの後ろに人がいると気づくと、マーヤの後ろにいた人が、よろよろとシュラさんのもとに歩いてきて、涙をこらえながら言った。
「シュラ!よかった。生きていてよかった。」
彼女は、水鏡流の医局でずっとシュラさんを見てきたサリアンさんだった。
「いや、まだわからないけど....」
シュラさんは目を伏せながら言う。
「そんなこと言わないでよ!」
その言葉にサリアンさんは怒った。彼女は続ける。
「マーヤちゃんについていくんでしょ!ならもう大丈夫じゃない。」
サリアンさんは俺たちに絶大な信頼があるらしい。何でだろう?俺たちっていうかマーヤにだと思うけど。
「いや、その....。まだ行くと決まったわけじゃ....」
シュラさんが小さな声で答えた。
「え?何言ってんの?こんな機会ないんだよ?今逃げなかったら、本当に死んじゃうよ?」
「で、でも....」
ド正論パンチがシュラさんを襲い、返す言葉が見つからないようだ。
「何もじもじしてんの!男でしょ!」
「......う~ん...」
なんかサリアンさんの前だとシュラさんはおとなしくなるというか乙女っぽくなる。俺も優柔不断だから、そんな彼の姿に親近感を湧いた。
「それに、あんたに選択権はないんだからね!」
「え?」
「だってあんた、里を裏切ったんでしょ?そのことを反省してるんでしょ?なら、里の一員である二人の申出を断る道理なんかないじゃない。」
確かにそうかも。俺もサリアンさんに説得されてしまう。というかサリアンさんは、俺たちのことを里の一員って思ってくれてたんだ。
「それは...そうかもだが....」
シュラさんも一理あると思ったのだろう。
「そうかもじゃなくて、そうなの!処刑を回避できて、しかも里から離れられるなんて願ってもない話じゃん!」
サリアンさんはさらに畳みかける。
「だが.....。彼らに恩恵はあるのか?」
サリアンさんの気迫に少し押され、シュラさんが小声で言った。
その疑問にマーヤが口を挟む。
「それはさっき言ったじゃないですか。あなたを戦力として加わってほしいって。」
確かにマーヤはそう言ってたね。マーヤは最初から感情じゃなくて、理屈でシュラさんを説得しようとしている。もちろん、彼を仲間にしようと決めた動機には感情的なものも大いにあると思うんだけど、それを見せずに、論理で話すのが彼女は本当に上手い。
「ほら、ちゃんとした理由があるじゃない。こんなにあなたのことを考えてくれているのに、それに応えないのは、不誠実じゃない?」
マーヤの論理にサリアンさんが後押しをする。
「.....だが...」
もう無理じゃない?何をそんなに守ろうとしているのか分からないけど、サリアンさんとマーヤの論理最強タッグにはかなわないって。
「もう!ぐだぐだ言わない!ほら頭を下げなさい!『よろしくお願いします』って。」
サリアンさんはシュラさんの頭をガシっと掴み、無理やり頭を下げさせた。
サリアンさんって意外と力あるんだな。
「お、おねがい、します。」
不服そうに彼は言った。
俺たちはその頼みを快く承諾する。
そういう感じで本人は納得いってなさそうだが、シュラさんが俺たちの仲間になった。
その後、里のはずれまでサリアンさんは同行してくれた。その間、俺らとシュラさんの仲が良くなるように計らってくれた。なんていい人なんだ。
「それじゃ、私はここまでで。」
山の中腹でサリアンさんは言った。
「わざわざ来てくださり、ありがとうございました。」
マーヤが彼女に頭を下げた。
「いいの。マーヤちゃん。頑張ってね。シュラを頼んだよ!」
「はい!」
そういって俺たちはサリアンさんと別れた。
別れってのはあっさりしたものだな。
「彼女に何か言わなくてよかったんですか?」
彼女と別れて少しした後、俺はシュラさんに聞いた。
「....うん....」
シュラさんらしくない生返事だった。ついさっきのことでシュラさんの頭はまだ混乱しているのだろう。
まあ少しずつ慣れていけばいい。俺たちの旅の始まりも急だったからな。
俺は目の前の切り立った斜面を眺める。この山を越えれば、もう「霧の里」ではなくなる。
草の生い茂る山道を俺たちは歩き出した。
こうして、三人での旅が始まった。




