49. 脱獄作戦
再び洞窟に近づいた私達は、門番に気づかれないよう木の陰に隠れていた。
「ユウト、どうする?門番がいて、入れないんですけど...」
「俺が殺っちゃおうか?」
「ダメだよ!暴力は無しです。」
「え~じゃあ.....こういうのはどう?」
ユウトが耳打ちしてきた。私はそれに少し怪訝な表情を浮かべながらも了承した。
門番は退屈な日々を過ごしていた。
陣十郎様に洞窟の警備を命じられてからというもの洞窟の入り口で立ち続けていた。時折、シュラに会いたがっている人が来るが、面会はできないというと、残念がりながらも素直に帰ってくれた。
でも昼の男はしつこかったな。いくら「面会は無理だ」といっても引き下がらなかったから、ファミル族の女の子が来て、男を連れ帰ってくれなかったら、剣を抜いてあいつのことを斬り殺してたかもしれない。こんなことで人を殺しちまったら陣十郎様に申し訳が立たねぇからな。
その時、どこからともなく臭いがした。焦げ臭いにおい。まるで草が焼けるような.....まさか!
その臭いの発生源を辿ると、やはり草が燃えていた。まずい!すぐに報告しなければ!町まで広がったら大変だぞ!
門番は町の方へ走っていった。
「よし、行ったね。」
ユウトがそうささやいた。
「ねぇ。こんな危ないことして大丈夫なんですか?バレたら終わりだよ?」
私は不安になりユウトに聞く。
「大丈夫だよ。バレないって。」
軽い口調でユウトは言った。こういうときにこの人は気楽に行動してしまうのだ。
「シュラを助け出すのはこのタイミングしかないんだから。」
ユウトは私を元気づけるように言った。
「あの... "タイミング" ってなに?」
「あ、えっと...絶好の好機ってことだよ!」
「それ、意味被ってるよ。」
「え、まあいいじゃん。行こう!」
そう言ってユウトは、手に火を浮かべ、洞窟の奥にぐんぐん入っていく。
ちょっと!洞窟の中、暗いんだから先行かないでよ!
私はユウトを見失わないうちに駆け足で彼に追いついた。
躊躇なく中へ入っていくんだけど、大丈夫かな....
--- (シュラ視点) ---
俺は暗闇の檻の中に座っていた。
自分の手も見えないくらい暗い。運ばれてきた食事も何の料理かもわからずに口に運ぶしかなかった。不味くはないけど美味しくもなかった。
今何時なのかもわからない。何日経ったのかもわからない。宴から1日経った気もするし、3日経った気もする。実は1週間経っていたとしても驚かない。
すると、遠くからこちらへ歩いてくる足音が聞こえた。
食事の時間かな。前の食事はどれくらい前だったっけ?分からない。自分が今お腹空いているのか空いていないのかもわからない。
もういいか。どうせ死ぬんだ。
明かりが近くなってくる。なんか光り方が違うような?まあ気のせいだろう。暗闇に慣れすぎて少しの光も眩しく感じるようになってるのだろう。
手に火を浮かべ、俺の檻の前に立ったのは意外な人物だった。
「..... ン!、ユ"ウト?」
しばらく声を出してなかったからか、しゃがれた声が出た。
「大丈夫ですか?シュラさん。」
なんでだ?なんで彼がここにいる?
火の光に目が慣れてきたころ、後ろにもう一人いることに気づいた。
「.... マーヤ、ちゃん?」
「はい。マーヤです。私の名前覚えていてくれたんですね。」
え?どういうことだ?頭が追い付かない?なぜ二人は檻の前に立っているんだ?
「驚いているところ申し訳ないのですが、時間がないのでいいですか?」
ユウトが急かすように言い、檻にかけられた錠に触り、右手で鍵を作ったかと思えば、簡単に鍵を開けてしまった。
え?え?
俺は全く理解が追い付かない。
「さあ早く出てください。門番が来てしまいます。」
俺は頭が混乱したままユウトが伸ばした手を掴むことしかできなかった。
二人は急ぎ足で洞窟の出口へと歩いていく。
二人に連れられ俺は外に出た。久しぶりの日光に目を覆う。
「なに、ぼうっとしてるんですか!早く行きますよ!」
ユウトに言われ、我に返る。
「ど、どこに行くんだ?」
やっと言えたのはこれだけだった。もっと聞きたいことはあるけど、時間ないらしいし、後で聞こう。
「とりあえず、森の方に逃げましょう。シュラさんが見つかったら大変なので。」
そういって二人は迷わず山の方へ上っていく。
おいおいまじかよ。
俺も仕方なく彼らについていく。
「おい。俺を助け出してよかったのか?死刑囚だぞ?」
俺は先を歩く二人に大きな声でしゃべりかけた。
「ちょっと...大きな声出さないでください!」
と怒ったのはマーヤちゃんだった。
「ごめんな。でもなんで...」
「それもあとで説明します。」
そういってマーヤちゃんは前を向いてしまった。
俺は釈然としないまま歩き続けた。
しばらく山を歩き続けると、二人が急に止まった。
「シュラさんこの木の上を見てください。」
そう言われて見上げると、木々の間にもたれかかるように土の家のようなものが出来ていた。
「あそこまで登ります。」
「え?どうやって?」
「木登りですよ。出来ますか?」
年下の少女に煽られてしまった。くそっ、できるよこれくらい。
ユウトとマーヤはするすると登っていった。
くそっ、速ぇな。俺だって!
木を登ろうとするが、雨が降った後なのか手や足が滑ってしょうがない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ!」
上から憐れむような声が聞こえる。くそっ舐めやがって!
「シュラさん!階段を作りましたよ!ここから上ってください!」
そう言われ声のした方を見ると確かに地面から入口まで階段が出来ていた。
「うるせぇ!俺は木を登るんだ。」
そう叫び足に力を入れた時、
つるっ、ドテーン!
俺は木の葉の上に落っこちた。木の葉の上だったから、大丈夫だったけど、運悪く木の根っこに頭が当たってたら危なかっただろうな。
「大丈夫ですか?」
気づいたら、マーヤちゃんが目の前で手を差し伸べていた。
「怪我がないか確認しますね。」
そう言ってマーヤちゃんは手を差し伸べ緑の光を俺の体に纏わせた。
「大丈夫そうですね。よかった。」
その声に嘲笑うような声色は含まれていなかった。
マーヤちゃんは俺の背中に腕を回し、一緒に階段を上ってくれた。
あれ、俺いつから「嘲笑われている」って思ってたんだろう。彼女はこんなに親切にしてくれているのに。
階段は気づいたら無くなっていた。恐らくユウトが出したのだろう。俺に魔法を見せびらかしてるのか?こいつ。
「お疲れ様です。シュラさん。あんな暗いところで閉じ込められてたから急に体力使って大変でしたね。すみません。配慮が足らなくて。」
あれユウトも、侮蔑の色は見られない。むしろ心底申し訳なさそうにしていた。
土の家の中は三人が入るには狭いところだった。三人で身を寄せ合って座る。
「すみません。こんなに狭くて。」
ユウトがまた謝った。そう言えば彼は俺が監視してる時もずっと謝ってたな。
「仕方ないですよ。これ以上大きくしたら、落ちちゃう。」
マーヤちゃんは自然と彼を慰める。
「それで、二人はなんで俺を連れ出したんだ?」
「そりゃあ、仲間にするためですよ。」
俺の質問にユウトが答えた。
「仲間?」
「はい、私たちはこれからの旅、ぜひシュラさんに同行してもらいたいんです。」
今度はマーヤちゃんが、付け加えるように答えた。
俺が二人に同行?なにを言ってるんだ?
「えっと、それはどうして?」
「はい。ユウトはすごい魔法を放てますが、近距離戦に弱いので、剣術に長けたシュラさんがいてくれれば、すごく助かるなと思ったんです。」
とマーヤちゃんが答えた。
「マーヤちゃんも剣術の訓練をしていたんじゃないのか?」
彼女が斬刃流の稽古をやっているらしいというのは、里全体に広まっている話だ。治癒術師が剣術の稽古をするなんて異例だからな。
「そうですね。でも私は対人戦とか相手がいる戦いは苦手みたいで。」
「なんだそれは。致命的じゃないか。」
「だから、戦える人がいないといけないんですよ。」
「それで俺なのか?もっと他にいただろ?なんで俺みたいな奴を呼んだんだ?俺は死刑囚だぞ?火あぶりにされるんだぞ?」
「あの...シュラさんは、その刑に納得しているんですか?」
マーヤちゃんが真剣な顔で聞いてきた。
「それは仕方ないだろ。陣十郎様が決められたことなんだから。」
「陣十郎様が決められたことは盲目的に信じるんですか?」
「そりゃそうだろ。あのお方は大局を見て考えて里のために最もよい判断をされている。そのお方が俺に死ねと言ってきたんだから、死ぬしかないだろ。」
俺はきっぱりとそう言った。
我ながらいいことを言ったと思う。そうだ。あんなに里のことを考えている陣十郎様が決められたことだ。その決定が間違いだったなんてあるわけがない。
「俺は裏切り者だ。陣十郎様を裏切り、里のみんなを裏切った。それに対する罰として、火あぶりの刑は妥当だと俺は思う。」
そう付け加えた。
俺は俺のしたことを反省している。でもいくら謝罪をしても許されないことは分かっている。もし、俺の命で里のみんなが納得して、平和に暮らせるなら、俺はそれがいい。
「シュラさんは死にたくないとは思わないのですか?」
マーヤちゃんは俺の思考を遮るように質問してきた。
そ.....そりゃあ..... 死にたくないよ!
でもそれを二人に言えない。
そんなダサいことしたくない。ここで情けなく「死にたくない」なんて叫ぶのは、俺の誇りが許さない。もう俺の誇りに埃ほどの価値があるか分からないけど。
俺が何も言わないのを見ると、マーヤちゃんはあからさまにため息をついた。
「はぁ~、やっぱり言ってくれないんですね。それは私たちがよそ者だからですか?」
少し毒気のある言葉にビクっとする。
「い、いや違うよ。そ、そんなことない。」
俺は即座に否定した。ユウトは結構よそ者扱いをしてしまっていたが、マーヤちゃんはしていない。いや、初めのころはしてたか?でも、彼女が斬刃流に入ってから親近感がわき、仲間だという認識になっていた。
しかし、彼女には俺の思いは届いていないようだった。
「ならなんで言ってくれないんですか!?はぁ、やっぱりあの人を連れてくるしかないみたいですね。」
「あの人って誰だ?」
「じゃあ連れてきますんで。ユウト、シュラさんをよろしく。」
彼女はそう言って、するすると木を下っていき里の方へ走っていった。
俺はユウトと二人きりになってしまった。




