48. 陣十郎様との話し合い
「何でダメなんですか?」
私は陣十郎様に対して、強い口調で反論してしまった。
彼は私の「シュラさんを連れていく。」という提案を即座に却下した。
その反動でつい突発的に失礼な聞き方をしちゃったと思ったけど、陣十郎様はいつも通り怖い顔で答えた。
「奴の処罰は火あぶりの刑と決定した。これは先代への誓いをもって決定されたことであり、これを覆すことはできない。」
陣十郎様はきっぱりと言った。異論は認めないという強い覚悟が見える。
それでも私は、食い下がらなかった。
「でも!シュラさんは里の仲間じゃないですか!なぜそんな非情な結論を出すんですか!?」
私の怒りは収まらず、誰にものを言っているのか忘れてしまっていた。
その言葉を聞いた陣十郎様は鋭い目つきで私の目を見つめる。
私は「やばいこと言っちゃった...」と思った。陣十郎様にこんな失礼な口を聞いたら、今度処刑されるのは私かもしれない。
もっと柔らかい表現をすればよかったと後悔が胸を埋め尽くす。けど、もう遅い。言ってしまったことを無かったことにすることはできない。
陣十郎様はじっと私を見ていた。何を考えているのか分からない。怒っているのか、私を責めているのか、全く分からない。でもその眼光は威圧感は凄まじく私は押しつぶされそうになる。でもダメだ。ここで負けてはいけない。
「彼は敵に情報を流したのだ。もう里の仲間ではない。」
陣十郎様は落ち着いた声で言った。その言葉は私に向けられていると同時に陣十郎様自身に言い聞かせているように感じた。
もう里の仲間ではない.....か。
私は陣十郎様がシュラさんのことをどれくらい気にかけていたのか分からない。よく考えれば私は里の内部事情をよく分かっていない。
来たばかりのころは、シュラさんが陣十郎様の近くにいて補佐みたいな役割だったぽいけど、いつの間にかいなくなっていたし、かと思ったら彼は里を裏切ったことが分かり、火あぶりの刑が決まった。
私はシュラさんが処刑されることをサリアンさんに言われるまで知らなかった。
里に来て数ヶ月で、私は「里の一員」になれていたような気がしていたけど、こんなに重要なことも知らず、里の長達の関係性も知らないでいて、私は何を知った気になっていたんだろう。
私は里の人から見れば、今だ「外の人間」なんだ。
陣十郎様の鋭い眼光が注がれている中で、手を伸ばせば届きそうな距離にいる彼との圧倒的な距離を感じていた。
でもいいの。私は一人じゃない。私の隣には、ちょっと頼りないけど、いざというときにはやってくれる男がいる。彼と一緒なら私は大丈夫だ。
ていうか。私は今のこの立場を上手く活かせるかもしれない。
「外の人間」だからこそ言えることがある。「外の人間」だからこそ救える命がある。
私は腐っても医者だ。それは変わらない。変わりようがない。どれだけ剣術が上達しても、その剣を「誰かを殺すため」じゃなくて、「誰かを守るため」に振る。それが私なんだ。ファミル族の娘である私の宿命なんだ。
私は意を決して口を開いた。目の前にいるこの里の長に歯向かうのは怖い。でも、これは私にしか
言えないことだ。私が言うしかないんだ。
「陣十郎様。シュラさんは確かに里を裏切りました。裏切って敵に情報を流したことで戦が起きました。そして後方にいた私が簡単に攫われてしまったのも彼の情報によるものがあるでしょう。
しかし、私はそのことで怒っていません。私自身が油断していたこともありますし、もっと私が戦えていれば逃げる隙を作れたはずです。
もちろん彼がやったことは許されるべきことではありません。しかし、それで火あぶりの刑というのは、あまりにも罪が重すぎるのではないでしょうか?
私が言うのもおかしいと思いますが、彼はまだ若いです。大きな失敗はしましたが、まだやり直せると私は思います。」
「何が言いたいんだ。」
陣十郎様が隙を突いて言った。早く結論を言えといった顔だ。
「つきましては、私たちマーヤとユウトは、彼、シュラさんを旅に連れて行きたいと思います。シュラさんはどう思うか分かりませんが、彼の了承と陣十郎様の許可を得られれば、すぐに旅立ちたいと考えております。」
私はもう一度、先ほどの提案を復唱した。
何も内容が変わってないけど、私の気持ちが伝わって、陣十郎様の心が少しでも動いてくれたら嬉しい。
しかし、そんな私の儚い希望は次の陣十郎様の一言で断ち切られた。
「それを了承することはできない。」
私の頼みは、あまりにもあっさりと、そしてバッサリと断られてしまった。
「シュラを処刑する決定を覆すことはできない。」
陣十郎様も先ほど言ったことと同じ理由を口にした。
しかし、そのあとに続いた言葉は私の予想外のものだった。
「だが、処刑日に当の本人がいなくなってしまったら、処刑自体が出来ないのだから、仕方ないな。」
陣十郎様は目線を外し、独り言のように言った。でもその言葉は確実に私たちに届いた。
「分かりました。今日のところは失礼します。お時間を取っていただきありがとうございました。」
私はそう言って、頭を下げた。
屋敷を出た直後、私はユウトに話しかける。
「ユウトわかった?」
私はユウトに目配せする。
「うん。もちろん。」
彼も陣十郎様の裏の意図に気づいたようだ。なら私たちがやることは一つしかない。
「じゃあ、彼を救いにいきましょう!」
そうして、またあの洞窟へと向かう私たちであった。




