47. 今できること
--- (マーヤ視点) ---
宴の翌日から、私の稽古に対する熱意は一層強まった。
一振り一振り真剣に振ると、いつもよりも多く、体力を使う。毎晩へとへとになって倒れたように眠るけど、翌日全回復している。それだけ体力がついてきたってことなのかも。
ある日の稽古終わり、ソクリュウ先生に呼ばれた。
「マーヤさん、最近稽古の時の顔が変わりました。『強くなりたい』という意思が感じられます。」
「あ、ありがとうございます。」
「戦士の顔になったあなたは、ここにいるべきではありません。」
「え?それってどういう....」
「おめでとうございます。初級剣士の免許皆伝です。あなたはこれから中級剣士ですよ。」
「え!?いいんですか!?」
「はい。」
「ありがとうございます!」
やっと初級卒業だ。めっちゃ嬉しい。自分の実力が認められるって、こんなに嬉しんだ。
翌日から、中級の稽古が始まった。午前は今までと同じく素振りをして、午後は模擬戦だ。素振りは今までずっとやってきたけど、対人戦はやったことがなく相手も自分より年上で背の高い男性が多いだけに、怖気づいてしまう。
中級の先生から私の弱腰の姿勢を叱られるけど、私にはどうしたらいいか分からなかった。
相手の殺気が自分に向けられているのが怖い。戦うなら殺気を向けられるのは当然だし、それに慣れないと強くなんかなれないのに、数日たっても全然慣れなかった。
私はユウトに相談した。彼は陣十郎様と一対一で戦ったのだ。普段からすごい覇気を出しているあの方と戦うなんて私には到底できない。
すると彼はこう言ってきた。
「そりゃあ仕方ないよ。マーヤは敵に誘拐されるっていう一番怖い目に遭ったんだから。戦うのが怖いって思うのはしょうがない。苦手なことは無理に頑張らなくてもいいんだよ。辛くなっちゃうよ。」
「そういうことじゃないの。私はユウトの役に立ちたいんです。」
「そうだったね。ごめんね。でも、中級の剣士になったんでしょ?すごいじゃん。それでいいんじゃない?」
「やっぱりユウトは私のこと分かってないんですよ!
ユウトの魔法の力はすごいけど、近距離で奇襲に遭ったら対応できないと思うし、そのときに剣術が出来る人がいれば、大分楽になると思うんです。それに私を守りながら戦うのも難しいと思いますし、やっぱり私が戦えるようになった方がいいんですよ!」
私はサリアンさんの医局に来て彼女に愚痴をこぼしていた。
「うん。そうだね。でも私はユウト君の気持ちもわかるなぁ。大切な人に危険な目に遭ってほしくないんだよ。特にマーヤちゃんは優しいからさ。マーヤちゃんの手を汚したくないんだよ。」
サリアンさんは遠くを見ながら言った。
「でも、この里を出るってなったら、絶対王国が追ってきますし、追手の目をかいくぐるために魔物が多いところを行かなきゃいけないこともあると思うんです。それなのに私の手を汚したくないなんて綺麗事じゃないですか?」
「綺麗事でもマーヤちゃんのためを思って言ってくれる彼はいい子じゃん。綺麗事も言ってくれない人もいるからさ。」
なんかサリアンさんの様子がおかしい。さっきから全く目が合わない。ずっと窓の外を見ているような、何も見ていないような気がする。
「あの....サリアンさん。何かあったんですか?」
「うん....まあね.....」
生返事が返ってきた。やっぱりおかしい。サリアンさんと会うといつも愚痴が止まらないのに、今日は一つもこぼしてない。私の愚痴話を聞くときも、いつもはもっと乗ってくれるのに、今日はあまり食いついてこない。どうしたんだろう。
「サリアンさん。何かあったなら私に言ってください。私はいつでもサリアンさんの味方ですから。」
私がそう言うと、サリアンさんの目がふっと私の方を向いた。やっと目を合わせてくれた。
そしたらその目からつるつると輝く水が流れてきた。それを境にとめどなく涙があふれ、サリアンさんの顔がぐしょぐしょになってしまった。
あれ?泣かせちゃった?気に障ること言っちゃったかな?
「すみません。何も知らないのに、『私はあなたの味方です』とか無責任なこと言っちゃって...」
そう言って頭を下げようとする私を彼女は止めた。
「違うの。嬉しくて。私にそんなことを言ってくれる人がいたなんて....」
彼女はそう言って私の懐に飛び込み大声で泣いた。私はそんな彼女を優しく抱きしめていた。
泣き止んだ後、サリアンさん何があったか教えてくれた。
「え!?シュラさんが処刑!?」
「うん。彼は敵に情報を流してたから、妥当な刑ではあるんだけど....」
「でもサリアンさんは嫌なんですよね?シュラさんに死んでほしくないんですよね?」
「.....うん。私が里に来たばかりのころ、一番気にかけてくれたのが彼だったからさ。この医局を創れたのも彼のおかげとも言えるし....」
「そうだったんですね....」
シュラさん....里に来たばかりのころしか会ってなかったし、私のこと敵視してたから、あまりいい印象はないけど、サリアンさんから見たら「大切な人」なんだよね。
もしかして、私がユウトに向けている感情と同じものをサリアンさんはシュラさんに向けているのかもしれない。
そうなのだとしたら、私はサリアンさんのために、シュラさんを救いたい。
思い立ったが吉日、今すぐ行動だ。
「安心してください。私が彼を助けます。」
と言い、勢いよく立ち上がった。
「え!?......どうするの?」
「簡単です。彼を仲間に引き入れます。シュラさんはどこにいるんでしょうか?」
「えっと....里のはずれの洞窟の中に入れられているって聞いたけど....」
「わかりました!行ってきます!」
そう言って私は医局を飛び出した。
里のはずれの洞窟へ着くと、入り口で門番と一人の男が言い争っていた。
何があったの?と思い近づいてみるとその男は良く知っている人だった。
「あれ、ユウト。ここで何してるんですか?」
「え、マーヤ?君も何でここにいるの?」
「私はシュラさんと話したくて...」
「俺もだよ。」
奇遇にも同じ目的のようだ。
「シュラに会いたい奴が二人もいるからさ。入れてくれないか?」
ユウトが門番に頼み込むが、
「ダメだ。彼との面会は陣十郎様の命によって固く禁じられている。」
と断られてしまった。
ユウトは引き下がらず何とか入れてもらおうとしているが、絶対にダメらしい。
「陣十郎様がダメって言ってるから無理なんじゃない?帰りましょ。」
私はそう言ってユウトを促す。
「はぁい。諦めま~す。」
不貞腐れた態度でユウトは門番から離れた。二人で里に戻る。
「ユウトは何でシュラに会いたいんですか?」
「彼は俺の監視役だったからね。最後に話したいなって思って...」
「監視役って、ユウトに酷い扱いしてたやつでしょ?そんな人と会わなくてもいいんじゃないですか?」
「まあそれでも、処刑されるってなったら会いたくなっちゃってさ。」
「ユウトは彼のことどう思ってるんですか?」
「う~ん。そうだなぁ。なんか俺と似てる部分があるっていうか。それで親近感湧いてるんだよね。」
「全然似てないよ!ユウトは敵に情報を横流ししたりしないですよね?」
「そうだけど、追い込まれてそれをやってしまう気持ちも少しわかるんだよ。」
「そうなんだ....」
じ、じゃあ、ユウトとシュラさんって意外と馬が合うのかな?なら....
「ユウト、こういうのはどうですか?私たちが里を出るときにシュラさんを連れていく。」
「え!それいいね!」
「じゃあ、陣十郎様のところに行って、聞いてみましょうよ!」
「よし。行こう!」
二人の意見が合致したことに気分が上がり、屋敷までルンルンで駆けていった私達だったが....
「ダメだ。」
陣十郎様に即座に拒否されてしまった。




