表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの村に異世界から無能がやってきました  作者: 投降の旗印
第四章 霧の里編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/55

44. 勝利の宴

 春下がりの月の夜、霧の里からは多くの篝火が光っていた。

 

 王国軍に圧倒的に勝利したことを祝して、里で盛大な宴が催されていたのだ。


 里中から酒と豪勢な食事が集まり、戦いに参加したすべての流派と、参加しなかった一般人も紛れ込み、どんちゃん騒ぎを起こしていく。


 俺は里を救った英雄として引っ張りだこだった。


 初めに俺を呼んだのは斬刃流のセイチョウ様。

 

 彼とはあんまり話したことはないけど、俺のことはどう思ってるんだろう。少し怖い。


 彼の卓につくと、もうすでに出来上がっていた。

 

「お!里の英雄が来たぞ!みんな!里の英雄だ!」


 そう大声で言うので恥ずかしくてしょうがない。


 席に座り、落ち着いて話そうとする。

 

「お前すごいな!王国の指揮官に対し一歩も引かず交渉したんだろ!」


 と彼は褒めてくれた。俺はその言葉に照れ笑いする。


 それからセイチョウ様は、この戦いで斬刃流の門下生たちが、どれほど良い働きをしたか自慢げに話していった。

 

 俺は自慢話があんまり得意ではないけど、彼の言葉に嫌な感じは一切なかった。本当に自分の門下生を誇りに思っているのだろう。


 しばらく話したのち、彼は急に声を潜めた。

 

「実はな。最初はお前のこと信用してなかったんだよ。


まあ、外から来た奴が『俺は複数の魔法を使えます。』とか言われたら、そりゃ信用できないわな。それに領主から指名手配されてるときた。」


 とセイチョウは酒臭く、そう言った。


「陣十郎様がお前を受け入れた時、正気か!?と思ったぜ。こんなにも扱いが面倒くさそうなやつを里に入れたくなかったからな。」


 セイチョウは笑いながら言う。


「でも今日、お前が味方でよかったって思ったよ。お前のおかげでこの戦いに勝てたみたいなもんだからな。」


 とセイチョウは言った。

 

「いやいや、俺はそんなに....」


「そうだな!俺らの部隊のおかげもあるよな!」


 とセイチョウは言い俺の背中をバンっ!と叩いた。結構痛い...


「本当にお前がいてよかった~。また、よろしくなぁ~」


 と言いながらセイチョウは寝てしまった。


「大丈夫ですか?」


 と声をかけてみても、寝言をつぶやくだけで返事はない。寝るの早いな~。


「ユウト君、いいかい?」


 次に話しかけてくれたのはシュハク様だった。セイチョウ様の介抱を門下生に任せて、シュハク様と一緒に歩く。


「ユウト君がこんなに逞しい男だとは思わなかった。マーヤ君が人質にされていたのに、よく冷静に交渉できたもんだ。」


 とシュハク様言った。

 

「それはオウゼンさんのおかげです。彼がいなければ俺は考えなしに突っ込んでたと思います。」


 と俺は言った。


「ほう。そうなのか。オウゼンは何をしたんだ?」


「彼は俺を殴らせて正気に戻らせてくれました。それに交渉の術も教えてくれました。」


「ほう。オウゼンも成長したんだな。」


 とシュハク様は感慨深く言った。


「シュハク様は俺のこと最初から信用してたんですか?」


 と俺は勇気をもって聞いてみる。さっきセイチョウ様に「最初は信用していなかった」と言われ、師範格である彼もそう思っていたのではないかと不安になる。


「う~ん。最初から全て信用していたわけではない。でもセイチョウよりは信じていたと思うぞ。」

 

 とシュハク様は悩みながら答えた。


「それはなぜですか?」


「なぜだろうか。君たちが霧山の中で死にそうになっている姿を見ているからかもしれないね。」


 とシュハク様は言った。


 俺の弱さを知っていたから、あまり怖くは感じなかったってことかな...


「そういえば、シュハク様が俺たちを助けてくれたんでしたね。本当にその時はありがとうございました。」


 俺は彼が命の恩人だったことを思い出し、シュハク様に頭を下げた。


「いや、そんな感謝されることじゃない。」


 とシュハク様は謙遜する。彼はこう続けた。


「それと、この里に来た頃の君は、自分に自信がなくて縮こまっているような印象を受けたが、陣十郎様と戦ったあたりから良い若者の顔になって、今は自分の力にすごく自信を持っているようだね。」


「そ、そうですかね?」


 俺は即座にそう言った。でもたしかに、この里に来たばかりの時は自分に自信がなかったかも、だけど今はすごく自己肯定感が高い。


「ただ、強い力を持っているからといって、全ての人を守れるわけじゃない。本当に大切な人のことだけを精一杯守ってあげるんだ。君の腕は2本しかついていないからね。」


 とシュハク様はアドバイスをくれた。


 そうか、まあそうだよな。今回はたまたま上手くいって俺の周りの人を守れたけど、それも首の皮一枚つながった感じだし、今回はマーヤも危険な目にあったからな。


 するとシュハク様の脇に水鏡流の水色の袴を着た女性が駆け寄ってきて

 

「シュハク様、陣十郎様がお呼びです。」


 と伝えた。


「分かったすぐ行く。ごめんなユウト君。また話そうじゃないか。」


 とシュハク様は寂しそうに言った。

 

「はい。ではまた。」


 俺がそう言うと、門下生に連れられて離れていく。


 どうしようかな。あたりをキョロキョロ見回していると、話したい人を見つけた。

 

 彼にそろそろと近づく。


「オウゼンさん、今日は本当にありがとうございました。」


 俺はオウゼンさんに頭を下げた。

 

「いやいいんですよ。それよりユウトさん、素晴らしい交渉でした。私の助言を聞いたうえで自分のやり方で相手を圧倒したんですから。」


 とオウゼンさんは褒めてくれた。


「そんな圧倒してました?」


「圧倒してましたとも、砦の上からでもその迫力は凄まじいものでしたよ。」


「でもオウゼンさんがあの時、俺の頭を冷やしてくれなかったら、俺はここにはいないかもしれません。」


「いやいやそんな...」


「それにシュハク様もあなたのことを褒めていましたよ。『オウゼンがそこまで成長したのか』って。」


「本当ですか!?シュハク様が?」


「はい。」


「それは.....光栄です。」


 オウゼンさんは本当に嬉しそうである。俺は以前から気になっていたことを質問した。


「あの、気になってたんですけど、師範の方々って立場的には同じ位置ですよね?でもなんでオウゼンさんはシュハク様のことを『シュハク様』と呼ぶんですか?」


「それはですね。シュハク様だけでなくセイチョウ様もなんですけど、彼らは俺が若いころから師範を務めていて、尊敬する先輩なんですよ。だからです。」


 とオウゼンさんは答えた。


「そうなんですね。シュハク様とセイチョウ様はお互いをライバル視しているみたいですが?」


「ああ、二人は同い年なんですよ。小さいころから同じ道場で稽古を受けていたらしく、それでお互いを意識してるのでしょうね。」


「へぇ~そんな関係があったんですね。」


 シュハク様とセイチョウ様は全くタイプが違うのに同じ道場にいたんだな。それで相手をライバルとして見てると。人に歴史ありだな。


「私なんかと話していないで、彼女と話した方がいいじゃないですか?」


 オウゼンさんがそう言って指をさした先には、隅で一人ポツンと座っているマーヤの姿があった。


 俺はマーヤに近づき話しかける。

 

「こんなところで飲んでないでさ、あっち行こうよ。」


「わ、びっくりした。ユウトか。」


 あんまりびっくりしてなさそうなリアクションで彼女は答えた。


 もしかしたら人質の恐怖が抜けなくて動けないのかもしれない。俺はゆっくり彼女の隣に座った。


「あのさ。ユウト。私なんかね。」


 俺が座ったところをチラッと見たマーヤはぽつりぽつりと話し始めた。

 

「ふわふわしてるっていうか。生きてるのが信じられないっていうか。もしかしたらこれは夢で、私はジェクトに殺されていて、最後にいい夢を見させてもらっているような、そんな感覚がするんだよね。」


 マーヤの敬語が抜けてる....

 

 今気づくことじゃないかもしれないけど、出会ってからずっと、俺がタメ口で話しても敬語で話すのを頑として譲らなかったマーヤが、タメ口でしゃっべってる。


 いや今考えるのはそれじゃない。マーヤに何か言ってあげなきゃ。えっと....何を言えばいいんだろう....

 

 マーヤの辛さを分からない俺が。前世で人と話すのを怖がってた俺が、何を言えばいいんだ?


「ごめんね。ユウトが助け出してくれたのに、こんなこと言っちゃって。」


 マーヤに謝らせてしまった。

 

「いや俺の方こそごめん。マーヤの気持ちも分からず、危険なことに巻き込んじゃって。」


「ユウトは謝らなくていいんだよ!私が人質に取られたのは、私の不注意のせいだから。」


「そんなことないよ!戦えないマーヤに護衛を付けなかった俺らが悪いんだし....」


 俺がそう言うとマーヤは少し悲しい顔をした。なんか悪いこと言っちゃったかな?


「何しろ。助けてくれて本当にありがとう。私、ユウトに助けられっぱなしだね。」


「違うよマーヤ。俺はマーヤに助けてもらったから、マーヤに恩を返したいと思ってるんだよ。」


 それは本音だった。俺がこの世界に来た時に看病してくれたり、この世界の常識を教えてくれたから今まで生きてこられた。


 今思うと彼女にすごく負担をかけてきたと思う。

 

 ゲリスにいた時から仕事も家事も何も手伝えてあげられなかったし、俺が魔法に目覚めてからも無理について来させちゃったし、逃げてるときも作戦とか道順を全部考えさせちゃってたし。


 俺、マーヤに甘えてたんだな。


「でもユウトを運んだのはカイノさんだよ。ユウトの容体を診てたのはお母さんだし....」


「俺が起きるまで看病してくれたのは、マーヤでしょ。」


「そうだけど...それはお母さんが言ったからで....」


「それに、世間知らずな俺にいろんなことを教えてくれたじゃん。それが無かったら、俺はここがどこかもわからず死んでいたかもしれない。」


「そんなこと言わないでよ!」


「ごめん、ごめん。だから俺にとってマーヤは大切なんだ。これ以上マーヤに酷い目に遭ってほしくない。」


 と言い、俺は立ち上がった。


「どこ行くの?」


 と聞くマーヤに、

 

「これからの話をしに行く。」


 と伝えその場を離れる。


 向かったのは広場の一番奥、大きな天幕が張られたところだ。

 

 俺がそこに着いたとき、天幕からシュハク様が暗い顔で出てきた。


「ああ、ユウトくん、か。」


 シュハク様は生気の無い目で俺を見る。


「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。それで何故ここに?」


「陣十郎様に用事があって...」


「じゃあ俺が取りつごう。」


 そう言ってシュハク様はまた天幕の中に入った。すぐに出てきて「大丈夫だそうだ。入れ。」といい、天幕の中に入れてくれた。


 中では陣十郎様が奥の高そうな椅子に座っていた。


「話とは何かね?ユウト。」


「はい。陣十郎様にご報告したいことがありまして。」


「報告?」


 陣十郎様がいぶかしげな顔をした。俺は構わず話を続ける。


「はい。俺。ユウトは、一人で里を出ていくことにします。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ