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うちの村に異世界から無能がやってきました  作者: 投降の旗印
第四章 霧の里編

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32. 試合

— (ユウト視点) —

 俺は珍しくスパっと目が覚めた。


 今日は決戦の日だ。


 俺は今日、立っているだけで威圧的なオーラを放っているこの里の長、鰐淵陣十郎と決闘をする。


 正直怖い。今にも逃げ出したい。


 でも大丈夫。俺なら勝てる。俺は魔法に目覚めてから、魔法での戦いに負けていない。ゲリスでの氷狼から始まり、森の中で襲ってきた数々の魔物、そしてこの里の剣士たち。それらの戦いに勝つたびに俺は自信を付けていった。


 もしかしたら、俺が持っている魔法の能力は本当にチート能力かもしれない。この力を上手く使えば、世界を救ったり魔王を倒したり出来るかもしれない。


 俺はこの世界に来たばかりのころ、絶望していた。せっかく異世界に来たのに、俺はチート能力どころか何の能力も持っていなかったのだ。


 俺は寝間着から道着に着替えた。白かった道着が薄汚れてきている。毎日木刀で叩かれたり蹴られたりした結果こうなったのだろう。でももうそんなことをする奴らはいない。


「ユウト、準備はできたか?」


 襖の向こうからシュラの声が聞こえた。


「はい、大丈夫です。」


「じゃあ、食堂に行くぞ。」


 そう言ってシュラはすぐに歩き出す。


 シュラに勝ってからというもの彼がわざと距離を取っているように感じる。まあ見下していた奴にコテンパンにやられたんだからショックだよな。わかる。うん分かるよ。


 食堂に着くといつもの席に座った。前まではそこで食べていると、わざと足をひっかけられたり、味噌汁を顔にかけられたりしたものだが....他の奴らは遠くで固まって座っている。


 シュハクが来て「いただきます」の儀式を行った。これをやるときは小学校の給食を思い出すな。


 奴らが俺を避けて盛り上がる中、俺は一人だった。まあボッチなのは昔から変わらない。前の世界でも昼ご飯のとき大体一人だった。だからもうなんとも思わない。誰から何と思われようが関係ない。


 そうだ。話の続きを喋ろう。俺は自分の無能力さに嫌気がさしていたが、あるときに転機が訪れる。それがシュトラウスとの出会いだ。


 彼は俺が凄まじい魔力を持っていると気づき、その魔法の力を引き出してくれた。それから俺の人生はがらりと変わった。


 どんな魔物も怖くなくなった。誰が襲ってきても大丈夫に思えた。でも複数魔法を使い、追われることになるなんて思いもしなかった。マーヤには申し訳ないことをしたと思っている。


 彼女はこの世界の人間で、普通の女の子なのだ。それなのに俺のわがままで命の危険をさらしてしまった。


 彼女にはちゃんと謝らなきゃ。


 そういえば、こんなこと前にもあったな。ゲリスにいた時、俺が怠惰すぎてマーヤやガーベラさんのことを何も手伝わないからマーヤが怒ったんだよね。あのときは怖くて逃げ出しちゃったけど、あとで謝ったら許してくれた。マーヤ優しいな。俺だったら絶対許さないと思う。


 ていうか。マーヤが怒ったのを見たのはあれが最後かな。


 今マーヤは俺のこと、どう思ってるんだろう。聞くのが怖い。嫌われているかもしれない。


「おい、ユウト!早く食べろ!準備するぞ!」


 気づいたら俺の隣にシュラが立っていた。


「え、何の準備ですか?」


「お前アホか!決闘の準備に決まってるだろ!」


「あ、はい!すみません!」


 俺は急いでご飯をかきこむ。


「たへおわいまいた。(食べ終わりました。)」


「そんな口パンパンの状態で喋るな。俺についてこい。」


 そう言ってシュラは歩き出した。それに俺はついていく。


 廊下をしばらく歩くと一つの部屋に通された。


 そこには、黒い袴があった。


「これに着替えろ。」


 シュラはぶっきらぼうにそう言って、襖をバンと閉めた。


 俺とあんま喋りたくないんだな。ションボリ...


 それにしてもこの袴カッコいいな。黒を基調としたシンプルなデザインだが、そこに機能美を感じる。剣術の師範の恰好と聞いて思い浮かぶものはこれだろう。


 その袴に袖を通す。うぉお!テンション上がる!これを着ただけで強くなった気がする。


「着替えたか。」


 向こうからシュラの声が聞こえた。


「はい。」


「ではいくぞ。」


 襖を開けてシュラはそう言った。そのまま廊下を歩き始める。


 廊下ですれ違う奴らが俺を見てくる。さっきまでは俺を避けるように目を伏せてたのに、急にどうしたんだ?


「....おい、あいつが黒曜袴を着てるぞ。何であんな奴が着てんだよ。」


「オレ黒曜袴、初めて見た。かっこいいなぁ。」


「見とれてる場合じゃないだろ。」


 奴らのひそひそ声が聞こえてくる。へぇ〜この袴って黒曜袴って言うんだ。カッコいい名前だな。


 シュラはそんな奴らの声に見向きもせず歩いていく。


 俺たちは道場を出て右に曲がり誰もいない道を歩いていく。


「あの...どこに向かってるんですか?」


 と聞いてみる。


「決闘の会場だ。」


「それは、どういった場所なんでしょうか。」


「ただの広場だ。」


「それなら町のほうにもあったと思いますけど....」


 俺がそう言うとシュラがピタッと止まって振り返った。


「お前、町中で魔法をぶっ放すつもりか?」


 シュラは真顔で言った。


「う、嘘ですよ~。俺が町中で魔法を使うと思いますか?」


「思う。」


「そんな~」


 やはり俺は、シュラに信用されていない。


「着いたぞ。」


 そんなこんなしてたら着いてしまった。


 その場所はだだっ広い広場だった。地面には砂が敷き詰められてるから、砂漠に来たのかと錯覚する。広さは陸上のトラックくらいかな。奥の方にスタンド席のようなものがあって、そこにはもうすでに多くの観客がいた。


 彼らはこの里のどこかの道場の門下生なのだろう。ていうか彩り豊かだな。赤、青、黄、緑、黒と髪色が十人十色で色鮮やかだ。なんかデコレーションみたいで楽しいな。


 この里にはキンミ族が結構いるんだな。まあ剣術は魔術と関係なく上達するっぽいし、魔法を持たない人たちがこの里の門をたたくのは別に変なことじゃないか。


「やっときたか。ユウト。」


 と言われ肩を叩かれた。驚いて振り返ると、陣十郎様が立っていた。


「あっ、すみません。遅れてしまって...」


「なに、遅れてなどいない。今から始まるところだ。」


 えっ、今から!?もう始めるの?それとも、もう戦いは始まっているとか?号令もなしに始めるのはずるくない?


「ほら、こっちへ来い。1試合目が始まるぞ。」


 ....1試合目?何試合もやるのか?


 そう言って陣十郎様が案内したのはスタンド席の一番前だった。


「えっと...1試合目ってどういうことですか?」


 俺は恐る恐る陣十郎様に聞く。


「ワシらの試合だけじゃ、すぐに終わってしまうだろ?だからこの機会に腕試しをしたいやつらをここで試合させるんだ。」


「なるほど....」


 すると、スタンド席とトラックの間にあるお立ち台みたいなところに赤髪の男が上がった。


「みなさん、準備はよろしいでしょうか!」


 その男が大声で言った。こういうのは大体マイクとか使うんだけど、シンプルに声量で勝負するとか脳筋だなぁ。


「只今より、緊急力試し大会を始めます!」


 力試し大会ってなんだよ。小学生でも言わないぞ。それに取ってつけたような「緊急」。確かに緊急だったと思うけど、わざわざ言わなくてもよくない?


 心のツッコミが止まらないでいると、いつの間にか選手が入場していた。


「1試合目は___」


 そんな感じで大会は進んでいった。試合はというと、そんなに面白くなかった。一応魔法ありルールらしいが、出場者はほとんど剣術しかやったことないのか剣術だけで相手を攻める。


 まあ剣の上級者の立ち合いを見れるのはすごくいいけど、もうちょっと近くで見たいな。遠すぎて何をやってるのかわからない。なんでこんな広いところにしたんだろう。


 他の観客たちは結構盛り上がっている。こんな遠いのによく盛り上がれるな。


— — —

「次の試合は注目の一戦です!

東は、先手必勝!その攻撃的な刀で相手を一刀両断!斬刃流の師範セイチョウ!

対する西は、冷静沈着!決まったと思ったらすでに斬られていた!水鏡流の師範シュハク!」


 お、これは面白そうな試合だ。師範同士の戦いか〜。これはどっちが勝つんだろう。


 二人は互いに向かい合い礼をした。そしてスタンド席もとい陣十郎様の方を向いて礼をする。


 これまでの人たちもそうやってたけど、この作法、剣道っぽいんだよな。


 二人は近づき何か話しているようだ。遠くて聞こえないが、お互いに頑張ろうみたいに言ってんのかな。俺は二人の師範の仲とか知らないけど、旧友みたいな感じなのだろうか。


 二人はすぐに話し終え後ろを振り返って歩を進める。一連の流れを遠くから見ると二つの点が近づきまた離れる。息の合った連帯行動だった。


「始め!」


 陣十郎様の声が響く。彼の声は決して大きくはないが、地鳴りの様に遠くまで届く。


 その号令が出た途端、動き出したのはセイチョウだ。すごい速さだ。たっぷりとあった相手との間合いを一瞬で詰めていく。


 対するシュハクは刀の柄に手を置いたまま、じっとセイチョウを見ている。


 ぶつかる!そう思ったとき...


 キンっ!キンっ!キンっ!


 刀同士がぶつかり合う音が響く。何度も何度も刀はぶつかり合い、その音が止むことはない。


 素人の俺にはもう何やっているか分からない。


 ただ二人の刀が毎秒に数回の頻度でぶつかり合っていることはわかる。二人の間に刀と腕の残像が見える。しかし二人とも頭は全く動いていない。


 すごいな。これが師範同士の戦いか。


 一旦セイチョウが後ろにジャンプして間合いを取る。そして構えを解いた。


「そういえば、魔法を使ってもよかったよな!」


 大声でセイチョウは言った。


「いいぞ。」


 陣十郎様が答える。


「なら、使わせてもらいます!」


 セイチョウはそう言って左手に火の玉を作り出した。それを刀身に這わせる。炎を纏った刀の完成だ。


 その刀を手にまたも瞬速の攻めを行う。その猛烈な攻撃をシュハクは全て避けていく。ジャンプしたかと思えばスライディングをし、バク宙したかと思えばセイチョウの背中に回る。


 すごい...シュハクのおじさんってこんなに動けたんだ...


 しかし、さすがにその動きに疲労したのかシュハクは後ろへジャンプした。


 シュハクがセイチョウに向かって何かを言ったかと思えば、右手に水の玉を浮かべそれを刀に宿した。


 火の刀と水の刀の対決!熱すぎる!!


 再びセイチョウが諸突猛進の攻撃を仕掛ける。


 ジャン!


 刀を打ち合った音とは思えない音がした。刀がぶつかった瞬間にシュハクの刀に纏っていた水が瞬時に蒸発して、あのような音が出たんだろう。多分。


 セイチョウは攻め手を緩めない。それに対しシュハクは彼の攻撃を避けるのがやっとで全く攻められてない。避けきれない攻撃は刀で対応しているようだ。


 素人目でみてもセイチョウが優勢なのが分かる。


「これは、シュハクの勝ちだな。」


 隣で陣十郎様がぽつりと言った。


「え、そうですか?俺にはセイチョウが優勢に見えるんですけど。」


 俺はたまらずそう言う。


「そうか。お前は分からないか。」


「はい...」


 なんか、マウントを取られてしまった。悔しい。


「あの、なぜシュハク様が勝つんですか?」


「うむ、ではお前にはこの戦いがどのように見えている?」


「えっと、俺にはセイチョウ様の怒涛の攻撃でシュハク様を押してるように見えますけど。」


「しかし、その攻撃は一つも有効打になっていない。」


「有効打ですか....」


「そうだ。シュハクはセイチョウの攻撃を全て避けている。」


「一部は刀で受け止めてますけど...」


「それは相手を誘導しているのだ。」


「誘導?」


「わざと隙を見せて自分が狙った位置に打ち込ませている。シュハクはそこらへんが上手いからな。それに剣筋の読みにも長けている。だからシュハクの刀には当たっても身体には当たらない。」


 そうなんだ。


「それに対し、セイチョウは攻撃が全く通らないことに腹が立って、どんどん攻撃が単調になっている。それでもあいつの刀の速さは誰にも追いつかないがな。」


 そんな速い攻撃を連続で繰り出せるセイチョウもすごいけど、その攻撃を全て受けきるシュハクもやばいな。師範格ってバケモンなんだな。


「それでは、シュハク様はどうやって勝つのでしょうか?セイチョウ様の体力が落ちるのを待つのでしょうか?」


「その戦術だとシュハクは負ける。セイチョウの体力は無尽蔵だ。シュハクもそれは分かっているから、そういう戦い方はしないはずだ。」


「俺にはそういう戦い方をしているように見えますが....」


「シュハクはただ受けているだけに見えて違う攻めをしているんだ。」


「違う攻め?」


 その時、二人の動きはピタッと止まった。気が付くとシュハクの剣先がセイチョウの顔の目の前にあった。


「参り...ました...」


 セイチョウはそう言った。


 どっと歓声が湧き上がる。特に水鏡流の門下生たちは大喜びだ。対して斬刃流の門下生たちは悔しそうな顔をしている。


「あの、違う攻めって何ですか?」


 騒がしい中、陣十郎様に近づいて聞いた。


「ああ、それはな。シュハクはセイチョウの技を避けながら彼に水を浴びせてたんだ。」


「水、ですか?」


「そうだ。刀に纏った水を操って、攻撃を避けると同時にほんの少しの水をセイチョウに当てた。別にそれは大した攻撃ではない。それで戦闘不能に陥ることはない。しかしそれがセイチョウの集中力を削いだ。そしてセイチョウは大きな隙を見せてしまった。それを見逃さずシュハクは勝負を決めた。」


 剣士も魔法を使うんじゃん。なんかずるい。俺のいいところが無くなっちゃうだろ。


「不満そうな顔をしているな。しかし今回は魔法ありの試合だ。そういう戦い方もありということだ。」


 そういうもんなのか。あんまり納得できないけど。まあ魔法ありのルールは俺のために入れてもらったみたいなもんだし、わがまま言ってられないか。


「よし、ではいくぞ。ユウト。」


 そう言って陣十郎様は立ち上がり、脇にあった木刀を手に取った。


「え、木刀で戦うんですか?」


「お前には木刀で十分だろう。」


 くそっ、舐められてる...


「では、先に行くぞ。」


 そう言って陣十郎様はトラックの端に歩いていく。


 俺も慌てて逆側のトラックの端へ行く。


「さあ!今日最後の試合です!そして今日、最も注目の試合です!」


「両選手の入場です!」


「東は、我らの、里の長、鰐淵陣十郎様!」

「西は、新生!命知らずの混血男、ユウト!」


 俺の運命を決定づける一戦の火蓋が今まさに切られようとしていた。

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