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うちの村に異世界から無能がやってきました  作者: 投降の旗印
第三章 逃走編

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19. 作戦会議

 私は震える足を引きずりながら、宿場町の外れにある、先ほどユウトと別れた森へと引き返した。高札場に書かれていた「重大犯罪者」という言葉が、網膜に焼き付いて離れない私たちは、ただの追放者でも家出人でもなく、国を挙げて追われる身となってしまったのだ。


 森の中へ入り、落ちている赤い花弁を辿っていく。あらかじめ決めておいた目印だ。大きな倒木の陰に、ユウトの姿があった。彼は私の顔を見るなり、不安そうに立ち上がった。


「マーヤ……どうだった? 街の様子は。」


 私はすぐには言葉が出なかった。唇を噛み締め、ようやく絞り出すように伝えた。


「……ユウト。私たちは重大犯罪者として手配されていました。ファミル族の少女と、キンミ族の青年。見つけ次第報告せよ、って……」


 私の報告を聞いたユウトの顔から、みるみる血の気が引いていった。彼は力なく地面に腰を下ろし、膝を抱えて俯いた。


「そうなんだ……。ごめん、マーヤ。やっぱり俺のせいで、君の人生までめちゃくちゃにしちゃったんだ。」


 悲しげに呟く彼の声は、罪悪感に震えていた。異世界から来た彼にとって、この世界の法や罰がどれほど恐ろしいものか、想像もつかないのだろう。自分一人が犯罪者になるならまだしも、助けてくれた私まで巻き込んだことが、何より彼を傷つけているようだった。


 私たちは、二回目となる作戦会議を始めた。


「もう、堂々と街道を歩くのは危険すぎます。これからは街道近くの森の中を進んで、時折街道の様子を伺いながら移動しましょう。」


 私がそう提案すると、ユウトは力なく頷いた。問題は、移動手段だけではなかった。


「……寝床はどうする? 森の中にまた土のかまくらを作って寝てもいいけど、湿気が多いし、何しろ狭くて寒いんじゃない?マーヤだけでも、どこかまともなところで寝てほしいんだけど。」


 ユウトが私の体調を気遣って提案した。確かに、逃亡生活が始まってからまともに眠れていない。しかし、宿に泊まるにはリスクが伴う。すると、ユウトが思いがけないことを言い出した。


「例えばさ、マーヤに宿屋を取ってもらって、後で俺がこっそり合流するっていうのはどう? 窓から侵入すれば、宿屋の人にもバレないし、二人で温かいところで寝られるよ。」


 私は思わず絶句した。


「ユウト、正気ですか? 窓から侵入なんて、それこそ犯罪の上塗りです。もし見つかったら言い逃れできません。それに、宿屋の人に『一人で泊まる』と言っておきながら男の人が出入りしてたら、怪しまれるに決まってるじゃないですか。」


「……あ、そうか。ごめん、つい漫画みたいな展開を考えちゃった。」


 まんが?何それ...


 ユウトはきまり悪そうに頭を掻いた。彼には、時折こういった「脇の甘さ」が見え隠れする。しかし、現実的な問題は他にもあった。


「それに、お金がありません。私が持ってきた小銭なんて、数日分の食事代で消えちゃいます。これから先、宿代を払い続ける余裕なんてどこにもないんです。」


 荷造りの時に慌てて持ってきた財布の中身を漁りながら、私は溜息をついた。お金の問題は、これからの旅において最も大きな壁になるだろう。


「……とりあえず、今日のところはマーヤだけでも宿で寝なよ。ギリギリ一人分なら、まだ払えるだろ? 俺はここで野宿するから。大丈夫、土のかまくらは結構温かいんだ。心配しないで」


 ユウトの強い勧めに、私は押し切られる形となった。私は一人で再び宿場町へ戻り、日没間際に滑り込みで一軒の安宿を確保した。もう少し遅ければ満室になるところだった。古びたベッドに身を沈めながら、暗い森で一人眠るユウトのことを思うと、胸が締め付けられる思いだった。


 翌朝。目が覚めるとすぐに宿を出て、商店で二人分の朝食を買い込んだ。森へ戻ると、ユウトが作った土のかまくらからは、スースーという寝息が聞こえてきた。


「ユウト、起きて。朝ごはんです。」


 私がかまくらを軽く叩くと、ユウトが眠そうな目を擦りながら這い出してきた。よくこんな土の塊の中で熟睡できるものだと、私は半分呆れ、半分感心してしまった。


「……ん、マーヤ……おはよう。あ、焼き芋だ。美味しそう。」


 買い込んできた焼き芋を差し出すと、ユウトは子供のように喜んで頬張った。その姿を見て、少しだけ心が和らいだ。私たちは朝食を食べながら、三度目となる作戦会議を開いた。


「議題はお金について。宿に泊まるにしても、食べ物を買うにしても、これから先絶対にお金が必要になります。どれくらい長い旅になるか分からないけど、余裕があるに越したことはないでしょう。」


 私が真剣な表情で切り出すと、ユウトも芋を飲み込んで居住まいを正した。


「そこで提案なんですが。私たち、冒険者になりませんか?」


「冒険者? ギルドに入って、依頼をこなすっていうあの……?」


「はい。依頼をこなしてお金を稼ぐんです。ユウトの魔法があれば、魔物の討伐もできるし、護衛の依頼だって受けられるでしょう。」


「いいね! やろう!」


 ユウトは即断即決だった。そのあまりの軽さに、私は「もうちょっと考えてください。」と釘を刺したくなったが、彼なりの前向きな姿勢なのだろうと受け止めることにした。


 冒険者になるというのは、私にとっても大きな決断だった。私の故郷バークワクトでは、しばしば冒険者の一行を見かけたけれど、ファミル族がその中に混じっているのは見たことがなかった。ファミル族は通常、代々続く医院を継ぐか、どこかの医局に弟子入りして安定した生活を送るのが普通だからだ。


 しかし、冒険者にとって治癒魔法が使える者が仲間にいるというのは、絶大なメリットがある。


「普通の冒険者は、薬を持ち歩いて怪我を治します。でも、薬で治せないような大怪我をしたり、即効性の高い毒を受けたりした時は、街の医者に診てもらうしかありません。それまで持ち堪えられないことが多いんです。特に街から遠い場所での活動中なら、それは死を意味します。だから、その場で治療ができる者がいるというのは、パーティーにとって何よりも強い武器になるはずです。」


 私の説明を聞いて、ユウトは「なるほど」と深く頷いた。


「でも、冒険者になるには『中央冒険者組合』の出張所で登録しなきゃいけません。ゲリスにも大きな出張所があったけど、今更戻るわけにはいかないでしょう。バークワクトにも小さいけれど出張所があったはずです。だから、まずはバークワクトを目指しましょう。そこが私たちの目的地です。」


 目的地が決まったことで、私たちの進むべき方向が明確になった。しかし、まだ最大の問題が残っている。


「私とユウトが、指名手配されていることですが、ファミル族の少女とキンミ族の青年……この組み合わせはあまりに目立ちすぎます。」


「やっぱり、俺の格好が問題だよな……」


 ユウトが自分の黒髪を触りながら肩を落とした。キンミ族である彼は魔法を使えないはずなのに、彼は強力な魔法を使い、さらに「混血」の疑いをかけられている。


「……あの、ユウト。髪、染めてみませんか?」


「髪を染める? そんなことできるの?」


「はい。森の中には染料になる植物があります。キンミ族に見えるからいけないのなら、キンミ族に見えないようにすればいいんです。」


 私は森の中から染料となる薬草や木の実を必死に探し出した。そして、苦労の末にユウトの髪を染め上げた。


「……どう? 変じゃないかな」


 出来上がった自分の姿を水溜まりで確認したユウトが、不安そうに尋ねた。


 彼の髪は、見事なまでに鮮やかな青色に変わっていた。


「うん、完璧です!どこからどう見てもホルミ族にしか見えません。ユウトは実際に水魔法も使えますし、誰からも怪しまれることはないはずです。」


 高札に書かれていた手配書には、私たちの似顔絵までは載っていなかった。髪の色さえ変えてしまえば、あの「キンミ族の青年」という特徴は消え去る。


 こうして、私たちは「新人冒険者志望」という偽の身分を纏い、バークワクトへの長い旅路へと踏み出した。



 それからの日々は、忍耐の連続だった。 街道を歩くときは常に周囲の視線を気にし、怪しまれないよう適度な距離を保って歩いた。宿場町では、できるだけ安価な宿を選び、食事も自炊や安い粟や芋で済ませるなど、徹底的に支出を削った。


 時には森で魔物に遭遇し、ユウトの魔法で切り抜けることもあった。時には道行く旅人に、さりげなく各地の噂話を聞き込み、追手の情報がないかを確認した。


 十数日に及ぶ逃避行の末、私たちはついに見慣れた景色……バークワクトの街の入り口へと辿り着いた。


 懐かしい風の匂いが鼻をくすぐる。かつては当たり前だったこの街の景色が、今はとても遠い場所に感じる。しかし、ここからが本当の始まりだ。私たちは覚悟を決め、思い出の詰まった故郷の門をくぐった。

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