9話 最後の候補者
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
捉えどころのない笑顔の中に、少しの冷たさが残る男。
「…ケーキ食べない?」
「食べません。あなた誰ですか!?」
「あー、ごめんね。
自己紹介まだで…すいようふうが。」
白雪に一歩近づく。
「婿候補の一人だよ。」
「っ!」
白雪は近づかれた分後ろに下がると、頭を下げる。
「すみません!私、誰がいたとか知らなくて!」
「すぐ出て行ったもんねー」
(灰月さんと同じ事言ってる…)
「すみません。本当に嫌で…今でも実感はないですけど…」
「今すぐ決めなきゃいけないわけじゃないし、いいんじゃない?」
「…そうですけど…。」
白雪はこのまま決まらなければいいと思っていた。
「てかさー、護衛居ないなんて、不用心だよー。
家まで送って行くよ。白雪姫。」
「……それ、やめてください。」
「……じゃあ、姫。」
「だから!」
「良いんだよ。俺にとっては姫だから。」
危険な匂いのするのは感じられたのに、その笑顔に何も言えず、白雪はそれ以上拒否出来なかった。
そして二人は歩き出した。
白雪の家、門をくぐるといつものように、暁斗の腕が伸びて来る。
「…。」
「おっと!…あぁ、あんた。海ではどうも…」
「…お前。」
「ん?」
キョトンとした白雪が、暁斗と風我を交互に見つめる。
「お嬢を送って貰ってありがとうございます。」
「いえいえ…」
牽制し合う二人。
先に目を離したの風我。
「じゃあ姫。…またね。」
「はい。ケーキ、ご馳走様でした。」
「いいよ。あと、敬語はいらない。」
風我は手をヒラヒラさせて帰って行く。
白雪は部屋て宿題をしていると、暁斗がお茶を持って入ってくる。
「ありがとう!」
「…いえ。……ケーキ食べたんですか?」
「えっ!うん…なりゆきで…」
「そう、ですか…。なんであいつに姫って…」
「わかんないけど…姫って…呼び方なんて…」
ふと、何かを思い出す白雪。
「あ!暁斗だって、飼ってる猫、ユキって呼んでるじゃん!」
暁斗の顔が見る見る赤くなる。
「…え、な…知って?…え?…」
「部屋を訪ねに行った時…見ちゃった。」
「……失礼します。」
そう言って背を向ける暁斗の足取りは、僅かに早かった。
「え?……暁斗。」
そして、白雪の顔も赤くなっていた。
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それから数ヶ月
季節は巡り、白雪は二年生になった。
——そして、何も変わらないようでいて、確実に何かが変わり始めていた。
「白雪ちゃん!また同じクラスだね!」
「うん!」
「…俺も一緒なんだけど~」
洸が二人の間に割って入ってくる。
「そうだね!」
「よろしくね!」
そんな三人を、遠くから見ていたのは碧だった。
——その視線は、どこか焦っているようにも見えた。
碧と白雪は街に出かけている。
「他に買う物は?」
「んー、…組のみんなに、ケーキ買って行こ!」
「おぅ。…何個だ!?」
足を止めて話していると…
「へー…デート?」
二人の前に出てきたのは風我。
「…風我さん。」
後ろに着いていた二人の組員を呼び止める。
「お前たちは先帰ってろ。」
睨みつけると、二人はその場から去って行った。
「俺も一緒していい?」
「断る!」
間髪入れずに、碧が言い放つ。
「くくく。俺もいちお、婿候補なんだけど?」
碧に好戦的な視線を送る。
が、碧も夕霧組長の息子。そんな事で怯むことはなかった。
「もう!二人ともやめて!
ケーキ、買いに行きたいんだけど!」
「…ごめん。」
謝る碧。
「俺が奢るね。この前みたいに!」
片目を瞑ってみせる風我。
「いえ!今度は組のみんな分なので、悪いです。」
「ははは。いちお若頭なんで、稼いでるよ?」
「んー…じゃあお言葉に甘えて…。」
碧は何も言わなかった。
——だが、その視線は、白雪から一瞬たりとも離さなかった。
つづく。




