6話 白雪の理想
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
――そして白雪の家に着く。
またいつものように、白雪の後に門をくぐると、腕が伸びてくる。
「うわ!何?ビックリするんだけど!」
「……誰だ?」
暁斗が低く唸る。
「天柳洸くんだよ。7人の中に居たんでしょ?」
「……あぁ。」
「いや、絶対覚えてない顔してるよ!」
「………ん。」
洸は呆れてそれ以上何も言わない事にした。
「俺、おじさんにご挨拶したいんだけど…」
「おじ!?お前、親父さんになんてこと!」
「え?でも俺と白雪ちゃん、親戚だもん。
血は繋がってないけど」
「そうなんだ……」
(天柳…全く知らない…)
「組長は出掛けてる。」
その言葉に、白雪の顔は青ざめていった。
自ら出掛けるときは、血の臭いを纏ってかえって来る時。
白雪は、思い出しただけでも倒れそうになった。
「……お嬢。」
白雪の体質を知ってる暁斗は、自室へ促す。
「……ありがとう。」
「碧さんと…そちらの子は客室へ。
お前たち案内しろ!」
「……名前、覚えてない…。」
「暁斗はいつもああだから気にすんな。」
「碧くーん、優しい!」
洸は無邪気に碧に抱きついてくる。
「離れろって!」
呆れたように言いながらも、突き放さない碧。
そのじゃれ合いは、ヤクザの家では見られない光景。
(ふふ。)
それは白雪の理想でもあった。
――白雪の部屋。
「お嬢。お水です。」
「ありがとう…ごめんね。こんな、めんどくさいよね。」
暁斗は、白雪の前に跪く。
「…お嬢。…お嬢は何も悪くないです。
だから、そんな事、言わないでください。」
「暁斗…ありがとう。」
寂しく笑う白雪に、暁斗の胸は締め付けらた。
「二人を待たせちゃ悪いわ!行きましょう。」
肩を引き寄せ、抱き締めたい衝動にかられる暁斗…しかしそれは許されない。
伸ばした手は宙を彷徨った。
「…はい。」
そして白雪の後を歩いた。
賑やかな客間に、足を踏み入れると、碧と洸が迎える。
「白雪聞いてくれ、こいつ――」
「えー!碧くんが――」
「ふふ。」
楽しそうな白雪を見て、暁斗の心は落ち着いた。
「ねぇーねー。
夏休みになったら、海、行こうよ!」
洸が楽しそうに話す。
「は?誰が――」
「良いね!良いね!
芽莉ちゃんも誘っていい?」
碧を遮って白雪が言う。
「もちろん!みんなで行ったら楽しいよ!」
「……俺も、行きます。」
思いがけない暁斗の一言。
「え…」
驚く白雪。
「じゃあ、俺も行く!」
碧も賛同する。
「楽しみだな〜」
洸は楽しそうに笑っていた。
そんな光景を、白雪の父親と戻ってきた人物が、憎悪を込めた瞳で見つめていた事は、誰も知らなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「ねぇー白雪ちゃん!こっちの水着どうかな?」
「かわい~!」
「白雪ちゃんはどんなの?」
「私は、これ…。」
白雪が手に持っているのは、シンプルなワンピース型の水着。
今、二人は夏休みの海計画の水着を買いに来ている。
「んー…これは?」
芽莉が持っていた水着は、フリルの付いてる上下が離れてる、セパレートタイプ。
「え!…これは、私には…」
「なんで?白雪ちゃんは、スタイル良いからこの方が良いよ!夕霧先輩、好きになっちゃうね~」
「っ!やだ、変なこと言わないでよ〜」
白雪は、胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。友達と海に行くなんて初めてで――それだけで、なんだか嬉しかった。
━━━━━━━━━━
「明日から夏休みだけど、ハメを外しすぎないようにー!」
先生のそんな言葉で一学期が終了した。
「海、来週で良いんだよね?」
芽莉が白雪に尋ねた。
「うん、ごめんね。家の都合で…」
(今、暁斗が地方の組の手伝いに行ってるんだよね…)
「全然平気だよ〜!」
洸が後ろから顔を出す。
「わぁ。ビックリした…」
「夏休み、たくさん遊ぼうね!
あ、そうだ大事な事があるんだ…」
「…何?」
白雪と芽莉は、真剣な眼差しを洸に向ける。
「夏休みの、宿題一緒にやろ〜」
「へ?」
「は?」
「俺、途中で寝ちゃうんだよね~」
「……。」
「じゃあ、みんなでやろ!図書館に集まって!」
芽莉が提案すると、二人も賛同した。
(うちは招待出来ないもんね…)
「じゃあ、またメールするね!」
「うん、またね!」
白雪と芽莉も別れ、こうして夏休みが始まった。
翌日。
婿候補の一人が、白雪の父親に会いに家に来ていた。
「――そんな事言うな。」
「ですが…。俺は組長になる事に、興味ないんです。」
白雪が廊下を歩いていると、話し声が聞こえて、足が止まる。
(…え?組長になりたくないって事?)
ガラっと襖が開くと、赤い髪の男と目が合う。
「………。」
「おい、朱月。
そんな理由じゃ、辞退はなしだぞ!」
「……失礼します。」
白雪の父親に一礼して部屋を出る。
「あ、待って!理由って?」
朱月の跡を追いかけながら、話しかける。
「……あんた、血が苦手なんだろ?そんなヤツが組継ぐって、無理だろ?」
「っ!」
「それに…あんたにも興味ない。」
「なっ!私だってあなたみたいな人嫌だし!それに、組は…継ぐ!血の流れない、出来れば暴力のない、組にしたい!」
朱月は背を向ける。
だが――
一瞬だけ、足が止まった。
「……理想だけでやってけるほど、甘くねぇよ」
吐き捨てるように言って、そのまま歩き去る。
その背中を白雪は、見送くるしかなかった。
つづく。




